八面体対称場によるd軌道の分裂
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/01/02 21:02 UTC 版)
「結晶場理論」の記事における「八面体対称場によるd軌道の分裂」の解説
3d軌道が八面体対称(点群Oh)の結晶場中にある場合の分裂を考える。結晶場の対称性によってどのような分裂が起こるのかを、シュレーディンガー方程式を解かないで予測するには、点群の既約表現を用いるのが便利である。一般に波動関数は Ψ n , l , m ( r , θ , ϕ ) = R n , l ( r ) P l m ( cos θ ) Φ m ( ϕ ) {\displaystyle \Psi _{n,l,m}(r,\theta ,\phi )=R_{n,l}(r)P_{lm}(\cos \theta )\Phi _{m}(\phi )} と変数分離でき、3d軌道の場合は次のような形を取る。 Ψ 3 , 2 , m ( r , θ , ϕ ) = R 3 , 2 ( r ) P 2 m ( cos θ ) e i m ϕ 2 π {\displaystyle \Psi _{3,2,m}(r,\theta ,\phi )=R_{3,2}(r)P_{2m}(\cos \theta ){\frac {e^{im\phi }}{{\sqrt {2}}\pi }}} まず点群Ohの部分群である点群Oについて調べる。点群Oの対称操作は回転ばかりだが、変化するのは ϕ {\displaystyle \phi } についての関数だけなので Φ m ( ϕ ) {\displaystyle \Phi _{m}(\phi )} だけ考えれば良い。mの5つの値に対応する関数 Φ m ( ϕ ) {\displaystyle \Phi _{m}(\phi )} に回転対称操作を行う。 ( e 2 i ω 0 0 0 0 0 e i ω 0 0 0 0 0 e 0 0 0 0 0 0 e − i ω 0 0 0 0 0 e − 2 i ω ) ( e 2 i ϕ e i ϕ e 0 e − i ϕ e − 2 i ϕ ) = ( e 2 i ( ϕ + ω ) e i ( ϕ + ω ) e 0 e − i ( ϕ + ω ) e − 2 i ( ϕ + ω ) ) {\displaystyle {\begin{pmatrix}e^{2i\omega }&0&0&0&0\\0&e^{i\omega }&0&0&0\\0&0&e^{0}&0&0\\0&0&0&e^{-i\omega }&0\\0&0&0&0&e^{-2i\omega }\\\end{pmatrix}}{\begin{pmatrix}e^{2i\phi }\\e^{i\phi }\\e^{0}\\e^{-i\phi }\\e^{-2i\phi }\\\end{pmatrix}}={\begin{pmatrix}e^{2i(\phi +\omega )}\\e^{i(\phi +\omega )}\\e^{0}\\e^{-i(\phi +\omega )}\\e^{-2i(\phi +\omega )}\\\end{pmatrix}}} このように5つの3d軌道を基底とする回転操作の表現行列を作ることが出来た。よってこの表現行列の指標(トレース)は χ ( ω ) = e 2 i ω + e i ω + e 0 + e − i ω + e − 2 i ω = sin ( 5 ω / 2 ) sin ( ω / 2 ) {\displaystyle \chi (\omega )=e^{2i\omega }+e^{i\omega }+e^{0}+e^{-i\omega }+e^{-2i\omega }={\frac {\sin(5\omega /2)}{\sin(\omega /2)}}} となる。また一般に角運動量量子数がl の軌道のときの指標は次のように表されることが同様の方法からわかる。 χ ( ω ) = sin [ ( l + 1 / 2 ) ω ] sin ( ω / 2 ) {\displaystyle \chi (\omega )={\frac {\sin[(l+1/2)\omega ]}{\sin(\omega /2)}}} これらの軌道を基底とする点群Oのすべての回転操作C2(ω=π), C4(ω=π/2), C3(ω=2π/3)の表現行列の指標は次のように求められる。 点群O E 8C3 3C2 6C2' 6C4 Γ(d軌道) 5 -1 1 1 -1 これを簡約公式を用いて既約表現に分解すると: 点群O : Γ(d軌道) = E + T2 したがって、点群Ohは点群Oに対称心i を加えてできるものであるから、点群Oに対して得た結果に偶(gerade)か奇(ungerade)かを決めてやれば良い。d軌道はすべてgeradeであるので: 点群Oh : Γ(d軌道) = Eg + T2g よって5つのd軌道は球対称場の中では縮退しているが、点群Ohの場の中では縮退が解けて、二重縮退の状態Eg と三重縮退の状態T2gに分裂する。
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