プロジェクト・ヘイル・メアリーとは? わかりやすく解説

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プロジェクト・ヘイル・メアリー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/11 14:17 UTC 版)

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
Project Hail Mary
作者 アンディ・ウィアー
アメリカ合衆国
言語 英語
ジャンル SF小説
刊本情報
刊行 2021年5月
受賞
第53回星雲賞海外長編部門、ほか
日本語訳
訳者 小野田和子
ウィキポータル 文学 ポータル 書物
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プロジェクト・ヘイル・メアリー』 (Project Hail Mary) は、2021年5月に出版されたアメリカ合衆国のSF作家アンディ・ウィアーSF小説日本語版は同年12月に小野田和子の訳で早川書房から刊行された。第53回星雲賞海外長編部門の受賞作。

概要

アンディ・ウィアーの『火星の人』『アルテミス英語版』に次ぐ長編小説の3作目。いわゆるファーストコンタクトを扱ったSF作品で、『火星の人』同様に宇宙に一人きりの主人公が、人類の危機を救うべく奔走するストーリーとなっている[1]

本作は2021年ベストSF&ファンタジーの一冊として多く取り上げられており[1]、日本語版についても『火星の人』に次いで二度目となる第53回星雲賞海外長編部門を受賞している[2][3]

あらすじ

病室のような部屋で、主人公は記憶喪失状態で目を覚ます。部屋には自分のもの以外に2つのベッドが備え付けてあり、コンピュータ制御のロボットアームが身体の維持を行ってくれていたようであるが、自分以外の2人の『患者』はかなり前に死亡しすでにミイラ化していた。

過去の記憶はないものの、科学に関する豊富な知識は失っていなかった主人公は、実験を通じ、自分のいる場所が地球上ではなく宇宙船の中であることに気づく。また徐々に取り戻される記憶から、地球が滅亡の危機に瀕していることと、自分がライランド・グレースという科学者であること、自身が地球を救うためにここにいることにも気づき、地球の危機に立ち向かう決意を固める。

物語は、宇宙船内の出来事の合間に、グレースが過去の記憶をフラッシュバックするシーンが頻繁に挿入されながら進行する。本稿では簡単のため、それぞれでの出来事を数段落ずつにまとめて述べる。

ヘイル・メアリー計画

過去。科学者たちによって、太陽と金星を結ぶ赤外線の帯「ペトロヴァ・ライン」が発見され、その明るさが増加するのに比例して太陽の光度が減少していることも観測される。これを放置すると数十年以内に地球は氷河期並みに寒冷化することが予想され、人類は早急な対策を余儀なくされる。国連はESA長官エヴァ・ストラットをこの問題の解決に任命する。問題の発見から1年後、金星に送り込まれた探査機がペトロヴァ・ラインを構成する物質を採取するが、その正体は異星の単細胞生物だった。

主人公グレースは、分子生物学で博士号をとったものの、宇宙生命に関する異端学説を強硬に唱えたために排斥された後、キャリアを転向し、持ち前のユーモアと科学への愛情を生かして、中学校で生徒たちに人気の科学教師となっていた。グレースの学説と問題の微生物の特性が合致することに注目したストラットは、彼に回収された微生物サンプルの分析を命じる。グレースは、問題の生物は熱やあらゆる周波数の電磁波を完全に吸収し、体内で質量への変換を行ってそれを蓄えること、そのエネルギーを再び赤外線として放射することで移動できることを解明し、この生物をアストロファージと命名する。

グレースはさらに、アストロファージが太陽と金星を往復しながら繁殖していることや、そのメカニズムを突き止めたことをきっかけに、ストラットの率いるヘイル・メアリー計画へと参加することとなる。ストラットたちは、アストロファージが近傍の恒星にも次々に「感染」し、星を暗くしていることを発見していた。しかし、太陽系から12光年の位置にあるくじら座タウ星のみは感染を免れていた。そこでストラットたちは、アストロファージを燃料とする宇宙船《ヘイル・メアリー号》を建造し、感染に耐性を持つ理由を調査しようとしていた。

アストロファージを燃料として用いたとしても、建造可能な船の大きさや物資の量には厳しい制約があるため、クルーは到着までの時間を昏睡状態で過ごす。また、片道分のアストロファージしか生産する時間はないため、調査の結果を小型宇宙船ビートルズを使って地球に送り返したのち、クルーは現地で安楽死することとなる。

計画は順調に進行し、ヤオ・リー=ジエ船長、エンジニアのオリーシャ・イリュヒナ、科学スペシャリストのマーティン・デュボアの三名がクルーとして選ばれる。グレースは、アストロファージ生物学の専門家として、デュボア及び予備クルーであるアニー・シャピロに自らの知識を共有したり、船に搭載される科学ツールや船外宇宙服の使用テストを行ったりと、幅広い形で計画に関与するようになっていく。

協力者との出会い、タウ星系の調査

現在。昏睡中に何らかの理由で死亡し、ミイラとなっていたヤオとイリュヒナを宇宙葬で弔ったのち、グレースがいよいよタウ星系の調査を行おうとしていると、異星人の宇宙船が接近してくる。グレースがブリップAと命名したこの船に乗っている異星人は、星図を用いて自分たちの船がエリダニ40からやってきたことを示す。宇宙船同士を接続し、グレースは相手の異星人とコミュニケーションを進めていく。クモのような姿をした五足のその異星人は、体表が岩のようなゴツゴツとした甲殻で覆われていたため、グレースは彼をロッキーと命名する。対話を通じて、ロッキーたちの母星も地球と同様アストロファージによる危機に見舞われていることがわかり、二人は問題解決のために協力することとなる。

ロッキーたちエリディアンの文明は、放射線や相対性理論の存在を知らないまま船を建造していた。そのため、ロッキー以外のクルーは宇宙線による放射線障害で死亡しており、ロッキーはタウ星系で46年にわたって孤独に調査を行っていた。さらに、相対性理論を使わずに航行計画を立てていたため、ブリップAには莫大な量のアストロファージ燃料が余っており、ロッキーはグレースが地球に帰れるように燃料を提供することを申し出る。以上のように科学知識において人類に劣る一方で、エリディアンの材料技術は人類のそれを遙かに凌駕しており、例えば彼らの船は、ダイヤモンドよりも硬く割れにくいキセノナイトという素材で作られていた。

グレースたちは、アストロファージはタウ星系においても恒星と惑星を往復しながら繁殖しているが、その量は増加していないことを発見する。その理由は、惑星の大気の中にアストロファージの捕食者がいるためであると推測されたため、グレースとロッキーはキセノナイトを使って長さ10kmの鎖を作成し、大気のサンプルを採集する。サンプルの採集中、船の外殻に穴が開いてしまうが、グレースとロッキーは身の危険を顧みずにお互いの命を救い、危機を切り抜ける。グレースはサンプルから捕食者を発見し、タウメーバと命名する。

記憶喪失の真相

過去。ヘイル・メアリー号打ち上げの直前、事故によって、科学スペシャリストの正規クルー・予備クルーであるデュボアとシャピロが両名とも死亡してしまう。彼らと同等のスキルセットを持つ人材はグレースしか残されていなかったため、ストラットはグレースの意に反してクルーになるよう強要する。グレースは命惜しさから、もし自分を無理矢理送り込んだら船を破壊してやると彼女を脅迫する。しかしストラットは動じず、グレースが昏睡から覚める直前に記憶喪失を発生させる薬剤を注入することで、この経緯を忘れさせると告げる。グレースは独房に隔離され、鎮静剤を投与されて意識を失ったままヘイル・メアリー号に搭乗させられる。

グレースの選択とその結末

現在。グレースとロッキーは、金星やロッキーたちの星で繁殖できるようにタウメーバを品種改良する。ヘイル・メアリー号の修理と燃料補給が済んだ後、二人は別れを告げてお互いの星へと帰還する。

地球に向かう途中、グレースはタウメーバが繁殖器から抜け出していることに気がつく。品種改良を経たタウメーバは、キセノナイトを通り抜けられるようにも進化してしまっていた。タウメーバが燃料のアストロファージにたどり着いたら最後、帰還のための燃料を捕食されて失うことになる。グレースは拡散してしまったタウメーバを再び封じ込めることに成功するが、そのとき、ロッキーの船であるブリップAがすべてキセノナイトでできていることを思い出す。ブリップAのタウメーバは燃料に容易にたどり着き、燃料を食い尽くしたと推測され、事実、ロッキーの船のエンジンの光は消えてしまっていた。

エリディアンの食料には有毒な重金属が大量に含まれているため、人間が食べることはできない。グレースは、ロッキーたちエリディアンを見捨てて地球に帰るか、彼らを救ったのち餓死するかの選択を迫られる。

グレースは悩んだすえ、自らの死を受け入れ、発見したデータとタウメーバ繁殖器を搭載したビートルズ宇宙船を地球に送り返すと、友を救うためブリップAへと引き返した。グレースと再会したロッキーは喜び感謝するが、このまま自分たちの星に向かうとグレースが餓死することを知って狼狽する。そこでロッキーは、食料がないのならタウメーバを食べればよいのではないかと提案する。

16年後。グレースはタウメーバを当座の食料とすることで生き延び、ロッキーたちの星で暮らしていた。タウメーバを用いてアストロファージ問題を解決したエリディアンは、グレースへの感謝、および、異星人である彼への科学的関心から、できる限り快適な環境と栄養バランスのとれた合成食料を提供し、彼を生かし続けていた。

ある日、ロッキーが彼の元を訪れ、太陽の光度がアストロファージ問題の発生前のレベルにまで戻ったことを報告する。すなわち、地球人類は氷河期を耐え抜いて文明を維持しており、ビートルズを回収し、タウメーバを金星に散布して問題を解決したのだ。人類文明が存続していることがわかった今、グレースは地球に帰るべきかどうかを真剣に考え始めながら、仕事へと向かう。彼はこの星で再び教師となっており、若いエリディアンたちに科学を教えているのだった。

映画

2021年時点で、MGM製作、ライアン・ゴズリング主演の映画化が進行中である[1]

フィル・ロード&クリス・ミラーが監督に就任し、2024年撮影開始予定であることが報じられた[4]

2026年公開を目処に制作中である事がアマゾンMGMスタジオより発表された。同作の脚本家は『オデッセイ』でも脚本を担当したドリュー・ゴダードが務めるほか、プロデューサーとしてエイミー・パスカル、アディタヤ・スード、レイチェル・オコナー、アンディ・ウィアーがクレジットされている[5]

2026年3月20日公開予定[6]

書誌情報

脚注

関連項目

外部リンク




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