ブラックボックス (砂川文次の小説)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/29 01:59 UTC 版)
| ブラックボックス | ||
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| 著者 | 砂川文次 | |
| 発行日 | 2022年1月26日[1][2] 2024年2月15日(文庫版)[3] |
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| 発行元 | 講談社 | |
| 国 | |
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| 言語 | 日本語 | |
| ページ数 | 170ページ[1][2] 208ページ(文庫版)[3] |
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ブラックボックスは、砂川文次の小説。第166回芥川賞受賞作。初出は「群像」2021年8月号。
概要
元自衛隊員という経歴を持つ砂川は、文學界新人賞受賞作である「市街戦」や芥川賞にノミネートされた「小隊」など古巣である自衛隊あるいは戦場を題材とした作品を多数執筆してきたが、本作は主人公が元自衛隊員という設定ではあるものの、自衛隊を舞台としない作品である。砂川にとっては3度目のノミネートで芥川賞を受賞した。自衛隊や戦争を題材としない作品での受賞に砂川は「非常にありがたい」「すごく重みがある」と語っている[4]。
砂川は自身が持っていた「メッセンジャーの“アウトロー”なイメージと、“ルールと個人”というほかの作品も含めた自分のテーマが、直感的に良いポイントになりそうだと思った」「ルールを無批判で受け入れる人の一方で、ルールの目的がわかった上でそれを乗り越えようとする人の、ある種の矜持のようなもの」を書きたいという思いから本作を執筆したと語っている[5]。
これまでの砂川作品の主人公は、戦争物では極限状態でも客観性を失わない観察者であり、実在しない感染症によって世の中がパニックとなる『臆病な都市』のような不条理ものでは無力な小市民的役回りで、個性は希薄だった。一方、本作の主人公・サクマは、今までになく強烈なキャラを持っているのが特徴[6]。
前半は主人公・サクマが自転車メッセンジャーとして働く姿を、後半は暴力事件を起こし刑務所に収監されたサクマの獄中生活を描いている[7]。
あらすじ
ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。
自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。 自衛隊を辞め、いまは自転車メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。
昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。(本書より)[1]
主人公の元自衛官で自転車メッセンジャーとして働くサクマは、30歳を目前にちゃんとしなければならないと思いつつも、〈でもちゃんとするっていうのが具体的に何をどうすることなのか〉と悩んでいた。自転車メッセンジャーの仕事は気楽で、とりあえず続けられているが、50歳、60歳まで続けられる仕事ではないと考えている。正社員にはなりたかったが、業務の多くなる割に給料は安いのでスルーしていた。
サクマは過去に自衛官・不動産の営業・コンビニなど、様々な仕事をしていたがどれも長続きしなかった。顧客との人間関係に悩み、自分に強く当たる人間に対してブッ飛ばしたいと思ったら、本当にブッ飛ばしてしまうからだ[6]。
同棲中の恋人・円佳の妊娠が発覚すると、サクマの「ちゃんとしなければ」という意識がさらに高まり、イライラは募った。安定した職を見つけようとハローワークを訪れるが、何のスキルもないアラサー男性には下請けの下請けが行うブラックな現場仕事しか選択肢がなかった。そのうえ上司に苦言を呈したことをきっかけとして、メッセンジャーの仕事も干され、稼ぎが減ってしまった。
新たに始めたウーバーイーツの仕事はまめにシフトを入れず、家でゲーム機のコントローラーに手を伸ばしてしまう。
ある日、納税を怠っていたサクマは自宅に来た税務署員相手に傷害事件を起こし、刑務所に収監される。
刑務所内でもがき続けるサクマ。自分の居場所はどこにあるのか―[6][4]。
出典
- ^ a b c “『ブラックボックス』(砂川 文次)|講談社”. 2025年10月28日閲覧。
- ^ a b “ブラックボックス ハードカバー – 2022/1/26”. amazon.co.jp. 2025年10月28日閲覧。
- ^ a b “『ブラックボックス』(砂川 文次)|講談社”. 2025年10月28日閲覧。
- ^ a b “「自衛隊」「戦争」〝じゃない方〟で評価されたのは非常にありがたい 芥川賞作家・砂川文次さん『ブラックボックス』”. zakII. 株式会社産経デジタル (2022年3月20日). 2025年10月28日閲覧。
- ^ ラスカル (2023年8月25日). “インタビュー 芥川賞作家✕メッセンジャー『ブラックボックス』対談 砂川文次さん インタビュー”. cycle(サイクル) ~自転車・初心者・文化系~. 2025年10月28日閲覧。
- ^ a b c 藤井勉 (2022年2月9日). “芥川賞受賞作『ブラックボックス』は日本の暗部を映し出すーースカッとしない勧善懲悪劇”. Real Sound. 2025年10月28日閲覧。
- ^ “芥川賞「ブラックボックス」若者の閉塞感と暴力衝動”. 株式会社毎日新聞社 (2022年3月8日). 2025年10月28日閲覧。
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