ノックアウト‐どうぶつ【ノックアウト動物】
遺伝子改変動物
(ノックアウト動物 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/11 11:27 UTC 版)
遺伝子改変動物(いでんしかいへんどうぶつ、genetically modified animal)は、遺伝子工学を用いて人為的に個体の遺伝情報を変化させた動物である。その作製法により、外部から特定の遺伝子を導入したトランスジェニック動物、特定の遺伝子を破壊して欠失させたノックアウト動物などの種類がある。生命科学分野では、特定の遺伝子が生体内 (in vivo) でどのように機能しているかを研究するために必須の存在となっており、特に遺伝子改変マウス(ノックアウトマウス)は、ヒトと近縁の高等哺乳動物で最も早く技術が確立したことから、ヒトの生理現象や疾患を再現できるモデル生物として現在最も多く利用されている。
遺伝子改変動物の作製には専門的な知識と技術が必要であり、またその利用は国際的な法の規制を受けるため、専用の施設を有する大学などの研究機関や企業でのみ作製・維持されている。
人為的に作製された遺伝子改変動物は生態系に影響を与える恐れがあり、2009年現在、生物の多様性に関する条約の一部であるカルタヘナ議定書によって世界的に規制の枠組みが定められている。日本ではこれに対応する国内法としていわゆるカルタヘナ法があり、動物だけでなく植物や細菌・真菌なども含めた遺伝子組換え生物[注釈 1]の作製、移動、保管が制限されている。
線虫やショウジョウバエ、ゼブラフィッシュなど小型の動物では、変異原を投与して様々な遺伝子に突然変異を起こすことが広く行われている。このようにして得られた個体も人為的に遺伝情報を変化させてはいるが、極めて可能性は低いものの自然にも起こり得る変化であり、外来の遺伝子を含まないため、カルタヘナ法による規制の対象とならない。このような個体は突然変異体と呼ぶのが一般的である。
トランスジェニックマウスの作製には様々な方法があるが、近年ではマイクロインジェクション法が主流となっている。作製方法はドナー動物から採取した受精卵前核へ倒立顕微鏡下でマイクロキャピラリーを用いてDNA溶液を注入する。DNA溶液は事前に調製しておいたものを使用する。その受精卵をレシピエント動物の卵管内に移植し、自然分娩された出生動物がトランスジェニックとなる。
遺伝子組換えと遺伝子改変の違い
遺伝子改変(genetic modification)とは、生物の遺伝情報(DNAまたはRNA)を人為的に操作・変化させるすべての技術の総称である。これには、外来遺伝子を導入して新たな組み合わせを作る遺伝子組換え(genetic recombination)のほか、ゲノム編集技術(genome editing)など外来遺伝子を用いない手法も含まれる。
一方、遺伝子組換え(genetic recombination)は、他の生物や種から取得した外来遺伝子を導入し、既存の遺伝子構成を改変する特定の手法を指す。
したがって、遺伝子改変は遺伝子組換えを含む上位概念であり、両者は同義ではない。
遺伝子組換えとゲノム編集の違い
遺伝子組換え(genetic recombination / genetic modification)とは、他の生物種や同種個体から取得した外来遺伝子を導入して新たな遺伝的構成を作り出す技術である。導入された遺伝子(トランスジーン)は宿主のゲノムに組み込まれ、新しい性質(例:成長促進、病害耐性など)を発現させることができる。このようにして作出された生物は、遺伝子組換え生物(GMO: Genetically Modified Organism)と呼ばれ、カルタヘナ法などの国際的規制の対象となる。
一方、ゲノム編集(genome editing)は、CRISPR/Cas9やTALEN、ZFNなどの分子ツールを用いて、生物自身の遺伝子の特定部位を切断・欠失・修正する技術である。多くの場合、外来遺伝子を導入せずに既存のDNA配列を微細に改変する点が特徴であり、自然突然変異と区別がつかないこともある。
そのため、遺伝子組換えが“外来遺伝子を導入する改変”であるのに対し、ゲノム編集は“生物自身の遺伝子を精密に書き換える改変”と位置づけられる。法的にも、外来遺伝子を含まないゲノム編集生物は、GMO規制の対象外とされる場合がある。
注釈
- ^ 議定書が規制の対象とするliving modified organism (LMO)に対応する訳語。LMOには科学的に“生物”とされないウイルス等も含むため、実際は「遺伝子組換え生物等」と記述されている。
外部リンク
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