関数解析学 において、ノイマン級数 (ノイマンきゅうすう、英 : Neumann series )とは、無限級数 によって定義される逆作用素 。定理の名はドイツの数学者C. ノイマンに由来する。
定義
A をバナッハ空間 X での有界 な線形作用素 とする(A ∈ B(X ))。このとき、A の作用素ノルム ||A || が ||A || < 1 を満たすならば、恒等作用素 I との差で与えられる I − A は1対1 で (I − A )−1 が有界作用素として存在するとともに、
(
I
−
A
)
−
1
=
I
+
A
+
A
2
+
A
3
+
⋯
=
∑
n
=
0
∞
A
n
{\displaystyle {\begin{aligned}(I-A)^{-1}&=I+A+A^{2}+A^{3}+\cdots \\&=\sum _{n=0}^{\infty }A^{n}\end{aligned}}}
が成り立つ。この級数をノイマン級数と呼ぶ。また、このとき、ノルムは
‖
(
I
−
A
)
−
1
‖
≤
1
1
−
‖
A
‖
{\displaystyle \|(I-A)^{-1}\|\leq {\frac {1}{1-\|A\|}}}
と評価される。
これは、|x | < 1 なる x ∈ C についての等比級数
1
1
−
x
=
1
+
x
+
x
2
+
x
3
+
⋯
{\displaystyle {\frac {1}{1-x}}=1+x+x^{2}+x^{3}+\cdots }
の作用素への拡張になっている。
特に z ∈ C と有界作用素 A について、|z | > ||A || であれば、レゾルベント作用素 (zI − A )−1 が存在し、
(
z
I
−
A
)
−
1
=
∑
n
=
0
∞
1
z
n
+
1
A
n
{\displaystyle (zI-A)^{-1}=\sum _{n=0}^{\infty }{\frac {1}{z^{n+1}}}A^{n}}
および
‖
(
z
I
−
A
)
−
1
‖
≤
1
|
z
|
1
1
−
‖
A
‖
|
z
|
{\displaystyle \|(zI-A)^{-1}\|\leq {\frac {1}{|z|}}{\frac {1}{1-{\frac {\|A\|}{|z|}}}}}
が成り立つ。
逐次近似との関係
バナッハ空間 X の元u 、v と線形作用素 A で与えられる方程式
u
=
A
u
+
v
{\displaystyle u=Au+v\,}
を考える。ここで、v は既知の変数とし、u を未知の変数とする。この方程式は
(
I
−
A
)
u
=
v
{\displaystyle (I-A)u=v\,}
と変形できることから、逆作用素 (I − A )−1 が存在し、それが求まれば、問題は解ける。
一方、元の方程式において、逐次代入を繰り返せば、
u
=
A
(
A
u
+
v
)
+
v
=
A
2
(
A
u
+
v
)
+
A
v
+
v
=
v
+
A
v
+
⋯
+
A
n
v
+
A
n
+
1
u
{\displaystyle {\begin{aligned}u&=A(Au+v)+v\\&=A^{2}(Au+v)+Av+v\\&=v+Av+\cdots +A^{n}v+A^{n+1}u\end{aligned}}}
となる。従って、A n +1u の項が無視できるとすると
u
n
:=
∑
i
=
0
n
A
i
v
{\displaystyle u_{n}:=\sum _{i=0}^{n}A^{i}v}
で定義される u n が逐次近似解となる。ノイマン級数は、一定の条件が満たされば、n → ∞ で逐次近似解 u n が真の解となり、
u
=
(
I
−
A
)
−
1
v
=
v
+
A
v
+
A
2
v
+
⋯
{\displaystyle u=(I-A)^{-1}v=v+Av+A^{2}v+\cdots }
となることを意味している。ノイマン級数の結果から、逐次近似解 u n の誤差評価を行うこともでき、
‖
u
−
u
n
‖
≤
∑
i
=
n
+
1
∞
‖
A
‖
i
⋅
‖
v
‖
=
‖
A
‖
n
+
1
1
−
‖
A
‖
‖
v
‖
{\displaystyle \|u-u_{n}\|\leq \sum _{i=n+1}^{\infty }\|A\|^{i}\cdot \|v\|={\frac {\|A\|^{n+1}}{1-\|A\|}}\|v\|}
である。
積分方程式への応用
バナッハ空間 X を有限区間 [a , b ] 上の連続関数 からなる関数空間 C([a , b ]) とし、
K (x , y ) を [a , b ] × [a , b ] で定義された連続関数、f (x ) を [a , b ] 上の連続関数(f ∈ C([a , b ]))とする。このとき、C([a , b ]) において、フレドホルム型積分方程式
u
(
x
)
−
λ
∫
a
b
K
(
x
,
y
)
u
(
y
)
d
y
=
f
(
x
)
{\displaystyle u(x)-\lambda \int _{a}^{b}K(x,y)u(y){\,}dy=f(x)}
を考える。ここで、
K
u
:=
∫
a
b
K
(
x
,
y
)
u
(
y
)
d
y
{\displaystyle Ku:=\int _{a}^{b}K(x,y)u(y){\,}dy}
としたときに、|λ|・||K || < 1 の条件が満たされるならば、上記の積分方程式の解 u が一意的に存在し、ノイマン級数によって、
u
=
(
1
−
λ
K
)
−
1
f
=
f
+
λ
K
f
+
λ
2
K
2
f
+
⋯
=
f
(
x
)
+
λ
∫
a
b
K
(
x
,
y
)
f
(
y
)
d
y
+
λ
2
∫
a
b
(
∫
a
b
K
(
x
,
y
)
K
(
z
,
y
)
d
z
)
f
(
y
)
d
y
+
⋯
{\displaystyle {\begin{aligned}u&=(1-\lambda K)^{-1}f\\&=f+\lambda Kf+\lambda ^{2}K^{2}f+\cdots \\&=f(x)+\lambda \int _{a}^{b}K(x,y)f(y){\,}dy+\lambda ^{2}\int _{a}^{b}{\biggl (}\int _{a}^{b}K(x,y)K(z,y){\,}dz{\biggr )}f(y){\,}dy+\cdots \end{aligned}}}
と表すことができる。
参考文献
関連項目