サンクトペテルブルクのパラドックス
(サンクトペテルブルクの賭け から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/15 21:23 UTC 版)

サンクトペテルブルクのパラドックス (St. Petersburg paradox) は、意思決定理論におけるパラドックスの一つである。極めて少ない確率で極めて大きな利益が得られるような事例では、期待値が発散する場合があるが、このようなときに生まれる逆説である。サンクトペテルブルクの賭け、サンクトペテルブルクの問題などとも呼ばれる。「サンクトペテルブルク」の部分は表記に揺れがある。
1738年、サンクトペテルブルクに住んでいたダニエル・ベルヌーイが、学術雑誌『ペテルブルク帝国アカデミー論集』の論文「リスクの測定に関する新しい理論」で発表した。その目的は、期待値による古典的な「公平さ」が現実には必ずしも適用できないことを示し、「効用」(ラテン語: emolumentum)についての新しい理論を展開することであった。
パラドックスの内容
偏りのないコイン[注釈 1]を表が出るまで投げ続け、表が出たときに、賞金をもらえるゲームがあるとする。もらえる賞金は、1回目に表が出たら1円[注釈 2]、1回目は裏が出て2回目に表が出たら倍の2円、2回目まで裏が出ていて3回目に初めて表が出たらそのまた倍の4円、3回目まで裏が出ていて4回目に初めて表が出たらそのまた倍の8円、というふうに倍々で増える賞金がもらえるというゲームである。
つまり表が初めて出るまでに投げた回数を n とすると、2n−1円もらえるのである。10回目に初めて表が出れば512円、20回目に初めて表が出れば52万4288円、30回目に初めて表が出れば5億3687万0912円がもらえる。ここで、このゲームには参加費(=賭け金)が必要であるとしたら、参加費の金額が何円までなら払っても損ではないと言えるだろうか[注釈 3]。
数学的には、この種の問題では、賞金の期待値を算出し、参加費がその期待値以下であれば参加者は損しないと判断する。しかし、この問題における賞金の期待値を計算してみると、その数値は無限大に発散してしまうのである。すなわち期待値を W とすると、
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対数曲線。この図では底は10。 ベルヌーイは、主観的価値とでも言える「効用」を定義して、このパラドックスを回避した。誰にとっても一定の「価値」に対し、効用は、効用を評価する人の個別の事情に左右される。そして、例外はあるがほとんどの場合、金額が大きくなるほど、効用の増加具合は緩やかになる。つまり、100万円が200万円になるときの効用は、1000万円が1100万円になるときの効用より大きい。これは現在の経済学における限界効用逓減と同じ考えである。
ベルヌーイはさらに、効用は、金額の対数[注釈 4]で得られるとした。つまり、100万円が200万円になるときの効用と、1000万円が2000万円になるときの効用とは等しい。対数関数で得られる効用を「対数関数的効用」という。このモデルは、(小さな)資産の増加による効用は資産の総量に反比例するということでもあり、これを「ベルヌーイの規則」と呼ぶ。
また、金額の期待値が金額の重み付け算術平均なのに対し、効用の期待値は、金額の重み付け幾何平均の効用となる。相加相乗の法則から、効用の期待値は、金額の期待値の効用より、ほとんどの場合小さい[注釈 5]。そのため一般に、効用の期待値を最大化する戦略は、金額の期待値を最大化する戦略より、リスクに対し慎重になる。
ギャンブラーの総資産を a、賭の価格を b とすると、賭終了後の総資産は
サンクトペテルブルクのパラドックスと同じ種類の言葉
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