エルミート形式
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/07/20 04:10 UTC 版)
数学の線型代数学におけるエルミート積 (Hermitian product), エルミート半双線型形式 (Hermitian Sesquilinear form) あるいは単にエルミート形式(エルミートけいしき、英: Hermitian form)は、シャルル・エルミートに名を因む特別な種類の半双線型形式で、対称双線型形式の複素版にあたる。
複素線型空間 V とその上のエルミート形式 〈,〉 との組 (V,〈,〉), あるいは同じことだが対応する「二次形式」Q(z) = 〈z, z〉 との組 (V, Q) をエルミート空間(あるいはエルミート二次空間)と呼ぶ。
定義
V は複素数体 C 上のベクトル空間とすると、エルミート半双線型形式とは、写像 〈,〉: V × V → C で以下を満たすものを言う: x, y, z ∈ V および a ∈ C は任意として
- 偏線型性: 〈x, ay + z〉 = a〈x, y〉 + 〈x, z〉
- 偏半線型性: 〈ax + y, z〉 = a〈x, z〉 + 〈y, z〉
- エルミート対称性: 〈x, y〉 = 〈y, x〉
ここに、上付きの横棒 • は複素共軛をとる演算を表す。
- 注
-
- 引数の一方が線型で他方が半線型となるが、線型と半線型は上記と逆に仮定する流儀もある。
- 条件 1, 2 はこの写像が半双線型となることを言うものであるが、実は条件 3 の仮定のもと 1 から 2, あるいは 2 から 1 が導かれるから、一方の条件は不要である。ここでは明確化のために両者を掲げてある。
エルミート半双線型形式は複素数体 C 上で意味を成す概念である(実数体 R 上では任意のエルミート半双線型形式が対称双線型形式になる)。複素線型空間(あるいは複素ヒルベルト空間)上の内積(エルミート内積)は非退化正定値のエルミート半双線型形式である。
より一般に、環上の加群 M に対して、係数環 R 上定義される任意の対合的反自己同型 σ に関する半双線型形式 〈,〉: M × M → R がエルミートであるとは、〈x, y〉 = 〈y, x〉σ を満たすことを言う。さらに、ε は係数環の中心元として、ε-エルミートであるとは 〈x, y〉 = ε〈y, x〉σ となるときに言う[1]。
エルミート二次形式
エルミート半双線型形式に対しても極化恒等式が適用できる。従って、エルミート半双線型形式は対角成分における値 Q(z) = 〈z, z〉 のみによって他の全ての値も決定される。この「二次形式」Q が常に実数値であることに注意せよ。実は与えられた半双線型形式がエルミートであることと、対応する二次形式が実数値であることとは同値になる。
標準形式
複素数ベクトル空間 Cn における
を標準エルミート形式あるいは標準エルミート内積と呼ぶ。
関連項目
参考文献
- 佐武, 一郎 『線型代数学』 裳華房、1974年。
注釈
- ^ Nicolas Bourbaki: Algèbre (= Éléments de mathématique). Springer, Berlin 2007, ISBN 3-540-35338-0, 9, S. 49.
外部リンク
- Barile, Margherita. "Hermitian Form". MathWorld(英語).
- Hermitian form in nLab
- Hermitian form - PlanetMath.(英語)
- Definition:Hermitian Form/Historical Note at ProofWiki
- Popov, V.L. (2001), "Hermitian form", in Hazewinkel, Michiel, Encyclopaedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4
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