イカタコウイルス事件とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > イカタコウイルス事件の意味・解説 

イカタコウイルス事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/14 00:57 UTC 版)

イカタコウイルス事件(イカタコウイルスじけん)は日本におけるコンピュータウイルスの事件。「タコイカウイルス事件」とも呼ばれる。

概要

20代男性Xがコンピュータウイルス「イカタコウイルス」を1、2ヵ月の期間をかけて2009年7月に作成し、同年8月に放出した[1][2]。ファイル共有ソフト「Winny」を通じて入手した映画ファイル等をクリックすると感染し、魚介類などの動画を再生させながらパソコン内に保管するフォルダのファイル全てが魚介類等の画像に次々と上書きし、パソコンは機動しなくなり、駆除や回復は困難で「極悪ウイルス」として警戒されていた[3]。登場する魚介類は極道風情の「タコ」「イカ」「クラゲ」等の人を喰ったような17種類のキャラクターでどの魚介類になるかはウイルスがランダムで決定し、絵と共にファイル共有ソフト「Winny」の使用を警告する等の様々なメッセージが表示される[1][3]2010年8月2日警視庁は同年5月23日頃に大阪府泉佐野市の自宅で自ら作成したコンピュータウイルスを入れたファイルをファイル共有ソフト「Winny」に仕込み、当該ファイルをダウンロードして感染した人物のパソコン内にあったデータファイルを破壊した器物損壊罪で会社員のXが逮捕された[4]

Xは過去にコンピュータウイルス「原田ウイルス」を作成してファイル共有ソフト「Winny」で放出して感染させた事件(後述)について知人男性への名誉毀損罪や既存アニメ作品の著作権を侵害した著作権法違反で有罪となっていたが、「イカタコウイルス」は自作の画像のため著作権法違反は検討対象外であった[1][5]。他にも私用文書等毀棄罪電子計算機損壊等業務妨害罪等の適用も検討されたが、いずれも構成要件を満たさなかった[1]。また「イカタコウイルス」は感染するとパソコン内のデータがXが設置するサーバーに送信される仕組みで。2010年8月時点でXによると「5万人分のデータが保存されている」と供述し、捜査機関はこの内約2万件を確認した[6]

同年8月23日にXは2010年5月から7月にかけてファイル共有ソフト「Winny」を通じてウイルスを放出し、北海道群馬県神奈川県の男性3人のパソコンを使用不能にした器物損壊罪で起訴された[7][8]

東京地裁の公判でXはコンピュータウイルスを作成したことは認めたが、「器物損壊にはあたらず、そういう意図もなかった」として容疑を否認し、弁護人も「パソコンのハードディスクに影響を生じたのは一時的で復旧は可能だった。物理的にハードディスクは壊されておらず、損壊罪の適用は法の類推解釈で許されない」と述べて無罪を主張したが、2011年7月20日に「器物損壊罪は効用が侵害されることも含まれるとした上で物理的に壊していなくても物の権能を害していれば原状回復の難しさによっては損壊にあたると認定し、ハードディスクの機能について『保存データの随時読み出すこと』『新たなデータを何度も書き込めること』と認定した上で、専門業者でも保存ファイルを完全に復旧できなくなり、データを読み書きするハードディスクの本質的機能を侵害されたとして器物損壊にあたる」と認定し、「大量のデータが使えなくなり、家族旅行の写真等金銭に換えられないデータも失われた結果は重大」「過去の著作権法違反と名誉毀損罪の刑事事件で有罪となり執行猶予中だったが、悔い改めるどころか、さらに巧妙な犯行に及んだ」として懲役2年6ヵ月の実刑判決を言い渡した[5][8][9][9][10]。Xは控訴して「データを使えなくしただけでハードディスクは物理的に壊されておらず、器物損壊罪は成立したい」と主張したが、2012年3月26日に東京高裁は「器物損壊罪には効用が侵害されることも含まれ、このウイルスによってデータの読出しも書き込みも阻害された」として器物損壊罪を認定する一方で、「一審判決後に被害者に弁償を申し立てたり、Xの母親が更生を支えると成約したことなどから現時点では一審判決はわずかに重い」と判断して一審の懲役2年6ヵ月の実刑判決を破棄して懲役2年4ヵ月の実刑判決を言い渡した[11][12]

類似事件

Xは2006年6月頃から作成したコンピュータウイルス「原田ウイルス」をファイル共有ソフト「Winny」で既存アニメ作品の画像にコンピュータウイルスを組み込んでアニメ目的にダウンロードした人のパソコンに感染させて被害を与えた事件を起こしたことについて、無断でテレビ放映されているアニメ画像を拡散した著作権を侵害したとして2008年1月24日に著作権法違反で逮捕された。その後著作権法違反だけでなく、知人男性の実名入り写真をウイルスに添付する等して知人男性の名誉を傷つけた名誉毀損罪でも起訴され、同じ年6月16日に京都地裁でウイルス作成行為を処罰できない法体系の不備には言及はされないまま「作成したウイルスが有名にあることを企図した犯行で、酌量の余地はないが、今後はウイルスを放出しないと誓っている」として懲役2年執行猶予3年を言い渡した[13][14]

脚注

  1. ^ a b c d “コンピューターウイルス:「タコイカ」PC乗っ取り 器物損壊罪を適用、作成者逮捕”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2010年8月4日) 
  2. ^ “タコイカウイルス:バージョンアップ9回も 「ワクチンを回避」”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2010年8月5日) 
  3. ^ a b “イカタコウイルス 作成者の会社員を逮捕 ファイルを“魚介類”に改変”. 夕刊フジ (産業経済新聞社). (2010年8月4日) 
  4. ^ “「イカタコウイルス」摘発ファイル破壊被害2万人 「原田ウイルス」作成者 器物損壊容疑で逮捕”. 読売新聞 (読売新聞社). (2010年8月4日) 
  5. ^ a b “イカタコウイルス作成者 無罪主張詐欺、著作権法違反…摘発わずか3件 「作成罪」の整備 急務”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2010年12月10日) 
  6. ^ “「イカタコウイルス」立件 感染→アイコン変身・ファイル破壊 作成者を逮捕”. 朝日新聞 (朝日新聞社). (2010年8月4日) 
  7. ^ “イカタコウイルス作成者を起訴”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2010年8月24日) 
  8. ^ a b “タコイカウイルス:作成者に実刑近物損壊罪認める――東京地裁判決”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2011年7月20日) 
  9. ^ a b “イカタコウイルス、実刑 作成者に懲役2年6ヵ月 東京地裁”. 読売新聞 (読売新聞社). (2011年7月20日) 
  10. ^ “東京地裁 イカタコウイルス作成者に実刑判決 器物損壊罪を認定”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2011年7月21日) 
  11. ^ “タコイカウイルス:作成者、2審も寺家機 器物損壊罪認める”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2012年3月27日) 
  12. ^ “イカタコウイルス、実刑 作成者に懲役2年6ヵ月 東京地裁”. 読売新聞 (読売新聞社). (2012年3月27日) 
  13. ^ “ウイルス作成者逮捕 京都府警 アニメ使い流出”. 朝日新聞 (朝日新聞社). (2008年1月24日) 
  14. ^ “ウイルス作成罪に有罪判決 著作権法違反など/京都地裁”. 読売新聞 (読売新聞社). (2008年5月17日) 

関連項目




英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  イカタコウイルス事件のページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

イカタコウイルス事件のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



イカタコウイルス事件のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのイカタコウイルス事件 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS