蒸発熱
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/30 03:18 UTC 版)
凝縮熱
気体が液体に変化するときに放出される熱を凝縮熱(ぎょうしゅくねつ)または凝結熱(ぎょうけつねつ)という。凝縮熱は潜熱の一種であるので、凝縮潜熱または凝結潜熱ともいう。凝縮熱の値は、その逆過程の蒸発熱の値に符号も含めて等しい。凝縮は発熱過程であり蒸発は吸熱過程であるため、定義により凝縮熱も蒸発熱も正の値となる。それに対して凝縮エンタルピー ΔcondH(英語: enthalpy of condensation)は同温同圧の蒸発エンタルピー ΔvapH と絶対値が等しく、符号が逆になる。なぜなら ΔvapH は液体が気体に相転移するときのエンタルピー変化に等しく、ΔcondH は気体が液体に相転移するときのエンタルピー変化に等しいからである。蒸発エンタルピー ΔvapH は、気体 (gas) のモル当たりのエンタルピー Hm(g) から同温同圧の液体 (liquid) のモル当たりのエンタルピー Hm(l) を引いたものに等しい。
一方、凝縮エンタルピー ΔcondH は
で定義される。 Hm(g) > Hm(l) なので、蒸発エンタルピーは常に正の値となり、凝縮エンタルピーは常に負の値となる。
蒸発熱と同様に、液化で放出されるエネルギーは、同じ物質でも液化する条件によって異なる。また、液化も気化も一般には不可逆過程なので、対応する逆過程が常に存在するとは限らない。しかし、蒸発熱と同様に考えると次のことがわかる: 常温常圧の空気に含まれる、ある物質の蒸気が凝縮する際に放出する熱量は、データ集に記載されている 25 ℃ の平衡蒸気圧の下での、その物質の純粋な液体の蒸発熱にほぼ等しい。
注釈
- ^ a b 物質の化学変化に伴って放出されるエネルギーのこと。
- ^ 蒸発の始めの段階では水自身の持つエネルギーを使って蒸発が起こり、水の温度が少し下がる。水の温度が食器や衣服や周りの空気よりも低くなると、水が周りから熱を吸収できるようになる。
- ^ 非接触温度計を除く。
- ^ a b c d e f g 平衡蒸気圧の下での値。
- ^ a b 本文中で引用した蒸発熱の値は、とくに断らない限り、1 気圧における沸点での値である。
- ^ 気体から固体に変化する現象を指して昇華ということもある。気体から固体に変化する昇華の場合は、エネルギーは放出される。
- ^ この経験則はトルートンの規則と呼ばれる。モル当たりの蒸発熱に特有の性質で、キログラム当たりの蒸発熱にこの様な性質はない。
- ^ 英語: enthalpy of vaporization。これを直訳すると「気化エンタルピー」となるが、『学術用語集 化学編(増訂2版)』では「蒸発エンタルピー」の訳をあてている。
- ^ 英語: enthalpy of sublimation。
- ^ 分子が二量体になったり多量体になったり、原子が化学結合して二原子分子や多原子分子になったりすること。
- ^ 気相を理想混合気体とみなせるなら、蒸気のエンタルピーは分圧に依存しない。凝縮相のエンタルピーの圧力依存性は、熱力学的状態方程式を使うと凝縮相のモル体積と熱膨張率から概算できる。圧力差が 1 気圧程度であれば凝縮相のエンタルピー差は 0.01 kJ/mol を超えない。
- ^ あくまでも、おおまかには、である。例えば、ペンタン(室温で液体)とネオペンタン(室温で気体)の蒸発熱はそれぞれ 25.8 kJ/mol と 22.8 kJ/mol であるが、分子量はどちらも 72 である。
出典
- ^ 『化学辞典』「蒸発熱」。
- ^ 『標準化学用語辞典』「蒸発熱」。
- ^ a b 『新物理小事典』「気化熱」。
- ^ 『大辞林 第三版』「気化熱」.
- ^ 『デジタル大辞泉』「気化熱」.
- ^ a b 関 1997, p. 214.
- ^ a b 特記ない限り本文中の蒸発熱は次のサイトに依る: “Thermophysical Properties of Fluid Systems”. NIST. 2017年3月19日閲覧。
- ^ a b “東京消防庁<消防マメ知識><消防雑学事典>”. 東京消防庁. 2017年3月19日閲覧。
- ^ 『物理学辞典』「蒸発熱」。
- ^ Zhang, Evans & Yang 2011, Table 11.
- ^ a b 『化学便覧』 表10.55。
- ^ a b c 『化学便覧』 表10.57。
- ^ 『標準化学用語辞典』「蒸発エンタルピー」。
- ^ 関 1997, p. 272.
- ^ 『ルイス=ランドル熱力学』 p. 548.
- ^ a b c 『アトキンス物理化学』 p. 49.
- ^ a b 『グリーンブック』 p.73.
- ^ NBS 1982, Table 2:H.
- ^ NBS 1982, Table 9:F.
- ^ NBS 1982, Table 23:C.
- ^ Hultgren et al. 1963 p. 6.
- ^ 『ルイス=ランドル熱力学』 p. 549.
- ^ 『アトキンス物理化学』 表2・5.
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