ローレンツ群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/11 21:12 UTC 版)
被覆群
前節では、スピノル写像と呼ばれる準同型写像 SL(2, C) → SO+(1, 3) を構築した。SL(2, C) は単連結であるから、これは制限ローレンツ群 SO+(1, 3) の被覆群である。 制限により、準同型写像 SU(2) → SO(3) が得られる。ここで、特殊ユニタリ群 SU(2) は単位ノルム四元数の成す群と同型であるから、これもまた単連結であり、回転群 SO(3) の被覆群である。これらの被覆写像はそれぞれ、被覆群のちょうど二つの要素が商群の各要素に対応するという意味で二重写像である。制限ローレンツ群と回転群とは二重連結であるということが多い。これは、各群の基本群が二要素巡回群 Z2 と同型であることを意味する。
(量子力学への応用においては、特殊線形群 SL(2, C) のことがローレンツ群とよばれていることもある。)
二重被覆はスピン群の特徴である。実際、二重被覆
- Spin+(1, 3) = SL(2, C) → SO+(1, 3)
- Spin(3) = SU(2) → SO(3)
に加えて次の二重被覆も存在する。
- Pin(1, 3) → O(1, 3)
- Spin(1, 3) → SO(1, 3)
- Spin+(1, 2) = SU(1, 1) → SO(1, 2)
これらスピノル二重被覆はクリフォード代数と密接に関連している。
トポロジー
二重被覆
- SU(2) → SO(3)
の左辺と右辺の群はそれぞれ次の二重被覆の左辺と右辺の群の変位レトラクトである。
- SL(2, C) → SO+(1, 3)
ここで、等質空間 SO+(1, 3)/SO(3) は三次元双曲空間 H3 と位相同型であるから、制限ローレンツ群はファイバー SO(3) および底 H3 を持つ主ファイバー束であることが示されたことになる。 後者は R3 と位相同型であるから、SO(3) が三次元実射影空間 RP3 と同型であるのに対して、制限ローレンツ群は RP3 と R3 の積に「局所的に」同型であるといえる。この底空間は可縮であるから、これは大域位相同型に拡張可能である。
より高次元への一般化
ローレンツ群の概念は任意の次元の時空に対して自然に一般化することができる。数学的には、n+1-次元ミンコフスキー時空のローレンツ群は Rn+1 上の線形変換のうち、次の二次形式を普遍に保つ変換の成す O(n, 1)(もしくは O(1, n))である。
四次元ローレンツ群 (n = 3) の性質の多くが直ちに任意の n へ拡張できる。たとえば、ローレンツ群 O(n, 1) は四つの連結成分を持ち、n+1-次元ミンコフスキー時空上に (n−1)-次元天球上の共形変換として作用する。単位元成分 SO+(n, 1) は n-次元双曲空間 Hn 上の SO(n)-束である。
n = 1 や n = 2 の低次元のものは、物理的な n = 3 の場合の「トイモデル」としてしばしば有用である。対して、より高次元のものは弦理論などの隠された次元の存在を仮定する物理理論においてもちいられる。ローレンツ群 O(n, 1) は等質空間 O(n, 1)/O(n−1, 1) として実現される n-次元ド・ジッター空間 dSn の等長群でもある。特に、O(4, 1) は宇宙モデルのひとつド・ジッター宇宙 dS4 の等長群である。
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