ウィリアム・アイリッシュ 作風

ウィリアム・アイリッシュ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/21 22:35 UTC 版)

作風

追われる者の不安や孤独を描くことを得意としており、その作風はサスペンス派に分類することができる。哀愁味が溢れる美しい文体から、“サスペンスの詩人”と呼ばれている。『幻の女』の冒頭の一文はとりわけ有名でしばしば引用され、作家の小泉喜美子は「どれだけの人が衝撃を受けただろう」と書いている。

ストーリー設定としては、期限内に事件を解決しなければ死んでしまうというタイム・リミットを設定したものや、自分は無実なのに誰も自分の言うことを信じてくれないといった状況を描いたものが多い。論理的な推理を中心に据えた本格推理とは一線を画する。

日本の吉原を舞台にした「ヨシワラ殺人事件』(The Hunted)という短編がある。「フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ」調の奇天烈な描写とともに、男尊女卑文化や日本の刑事のがさつさが強調された内容である。

長編の代表作である1942年の『幻の女』は、江戸川乱歩の「新しい探偵小説であり、すぐに訳すべきである」という評価によって日本で圧倒的な知名度を持っている[1]。短編の代表作である1942年の『裏窓』は、アルフレッド・ヒッチコック監督により映画化された。

アイリッシュ(ウールリッチ)作品の殆どはノンシリーズのそれだけで完結する作品だが、シリーズとして「聖アンセルムホテル」を舞台にホテル専属のストライカー探偵が自殺または殺人の謎に挑む中編(アンセルム913号室)、数十年にわたりホテルに宿泊した人々の運命を綴る連作(アンセルム923号室)の作品群がある[2]

主な作品

普通小説

  • 1926年 Cover Charge - 著者の処女長編。
  • 1927年 Children of the Ritz
  • 1929年 タイムズ・スクェア (Times Square)
  • 1930年 A Young Man's Heart
  • 1931年 The Time of Her Life
  • 1932年 マンハッタン・ラブソング (Manhattan Love Song)[3]

推理小説(長編)

  • 1940年 黒衣の花嫁 (The Bride Wore Black) - 最初のミステリ長編。1968年に映画化。
  • 1941年 黒いカーテン (The Black Curtain)
  • 1942年 黒いアリバイ (The Black Alibi)
  • 1942年 幻の女 (Phantom Lady)(ウィリアム・アイリッシュ名義)
  • 1943年 黒い天使 (The Black Angel)
  • 1944年 恐怖の冥路 (The Black Path of Fear)
  • 1944年 暁の死線 (Deadline at Dawn)(ウィリアム・アイリッシュ名義)
  • 1945年 夜は千の目をもつ (Night Has a Thousand Eyes)(ジョージ・ホプリー名義)
  • 1947年 暗闇へのワルツ (Waltz into Darkness)(ウィリアム・アイリッシュ名義)
  • 1948年 死者との結婚 (I Married a Dead Man)(ウィリアム・アイリッシュ名義)
  • 1948年 喪服のランデヴー (Rendezvous in Black)
  • 1950年 野性の花嫁 (Savage Bride)
  • 1950年 恐怖 (Fright)(ジョージ・ホプリー名義)
  • 1951年 死刑執行人のセレナーデ (Strangler's Serenade)(ウィリアム・アイリッシュ名義)
  • 1959年 死はわが踊り手 (Death is My Dancing Partner)
  • 1960年 運命の宝石 (The Doom Stone)
  • 1987年 夜の闇の中へ (Into the Night)(遺稿をローレンス・ブロックが補綴したもの)

連作

  • 1958年 聖アンセルム923号室 (Hotel Room)

短編集

  • 1943年 I Wouldn't Be in Your Shoes - アイリッシュ名義の最初の短編集。
  • 1956年 悪夢 (Nightmare)
  • 1981年 今夜の私は危険よ (The Fantastic Stories of Cornel Woolrich)
      • 魅せられた死
      • 今夜の私は危険よ
      • コブラの接吻
      • ジェーン・ブラウンの死体
      • だれかの衣装─だれかの人生

邦訳出版

  • ハヤカワ・ポケット・ミステリ (シリーズ番号/名義/訳者)
    • 1953年 黒衣の花嫁(103/コーネル・ウールリッチ/黒沼健)
    • 1954年 暁の死線(123/ウィリアム・アイリッシュ/砧一郎)
    • 1955年 幻の女(183/ウィリアム・アイリッシュ/黒沼健)
      • 1975年 改訂版(稲葉明雄)
    • 1955年 妄執の影(186/ウィリアム・アイリッシュ/黒沼健)(短編集)
    • 1956年 睡眠口座(296/コーネル・ウールリッチ/妹尾韶夫 他)(短編集)
    • 1957年 喪服のランデヴー(363/コーネル・ウールリッチ/高橋豊)
    • 1957年 黒い天使(373/コーネル・ウールリッチ/黒沼健)
    • 1957年 恐怖(381/コーネル・ウールリッチ/高橋豊)
    • 1958年 暗闇へのワルツ(355/ウィリアム・アイリッシュ/高橋豊)
    • 1958年 死者との結婚(465/ウィリアム・アイリッシュ/中村能三)
    • 1959年 死刑執行人のセレナーデ(466/ウィリアム・アイリッシュ/高橋豊)
    • 1959年 聖アンセルム923号室(506/コーネル・ウールリッチ/宇野利泰)
    • 1959年 死はわが踊り手(509/コーネル・ウールリッチ/高橋豊)
    • 1959年 恐怖の冥路(532/コーネル・ウールリッチ/高橋豊)
    • 1961年 野生の花嫁(636/コーネル・ウールリッチ/高橋豊)
    • 1961年 ぎろちん(648/コーネル・ウールリッチ/稲葉明雄)(短編集)
    • 1961年 運命の宝石(651/コーネル・ウールリッチ/永井淳)
    • 1963年 自殺室(753/コーネル・ウールリッチ/稲葉由紀)(短編集)
    • 1963年 悪夢(773/コーネル・ウールリッチ/高橋豊)(短編集)
    • 1965年 わたしが死んだ夜(894/コーネル・ウールリッチ/稲葉明雄)(短編集)
    • 1971年 もう探偵はごめん(1153/コーネル・ウールリッチ/稲葉明雄)(短編集)
    • 1983年 今夜の私は危険よ(1422/コーネル・ウールリッチ/高橋豊)(短編集)
  • 創元推理文庫(アイリッシュ短編集1~6)
    • 1972年 晩餐後の物語(ウィリアム・アイリッシュ名義)
    • 1972年 死の第三ラウンド(ウィリアム・アイリッシュ名義)
    • 1973年 裏窓(ウィリアム・アイリッシュ名義)
    • 1974年 シルエット(ウィリアム・アイリッシュ名義)
    • 1975年 わたしが死んだ夜(ウィリアム・アイリッシュ名義)
    • 1977年 ニューヨーク・ブルース(ウィリアム・アイリッシュ名義)
  • 集英社文庫
    • 1997年 ホテル探偵ストライカー
      • 聖アンセルム913号室[4]
      • 殺しの足音
  • 晶文社
    • 1976年 さらばニューヨーク(ウィリアム・アイリッシュ名義)
  • 新樹社
    • 1999年 見えない死
  • 白亜書房(コーネル・ウールリッチ傑作短篇集1~5、別巻)
    • 2002年 砂糖とダイヤモンド
    • 2002年 踊り子探偵
    • 2003年 シンデレラとギャング
    • 2003年 マネキンさん今晩は
    • 2003年 耳飾り
    • 2003年 非常階段

映画化作品

アイリッシュの作品は数多く映画化されている。以下に主なものを挙げる。


  1. ^ 早川書房編集部(編) 編『ミステリ・ハンドブック』早川書房ハヤカワ文庫〉、1991年9月30日、23,26-27,130-132,305-310頁頁。ISBN 4-15-078501-5 
  2. ^ フランシス・M・ネヴィンズJr.『コーネル・ウールリッチの生涯』(早川書房)
  3. ^ 翻訳は「新樹社ミステリ」(新樹社、2001年)として出版だが、恋愛もので「謎解き要素」はない。
  4. ^ 早川書房『世界ミステリ全集4』('73)にも併録
  5. ^ 【作品データベース】死者との結婚 公開日:1960年5月27日 松竹






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