イージーオープンエンド
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/01 02:16 UTC 版)
「プルトップ」の概念
イージーオープン方式はプルトップ(pull-top)と呼ばれることがある[9]。
プルトップは、缶切り等を用いず、缶容器の上面に付けられた引き金(タブ)を手で引っ張って開ける方式、または、その部分を指す日本における一般的呼称である。
プルトップの語は英語圏ではあまり用いない。用いる場合は食品などにおける全面が開口するイージーオープン缶(フルオープンエンド、FOE)に対して言うことが多い。飲料容器ではプルタブと称することが多いが、リングプル(ringpull)およびプルリング(pullring)の語も用いられる。リングプルのほうが優勢であり、プルリングはごく少ない。しかし、口金が外れるプルタブのことを指したりステイオンタブを含めたタブの総称として言われたりもし、使い分けが一定でない点は日本と同様である。ポップトップ(pop top)と呼ぶこともある。製缶企業においても全面が開口するタイプをフルパネルイージーオープン(FPEO)と呼ぶなど、業界でも国により呼び方が異なる。
なお、こうした形式の缶が出る以前の缶は、蓋が平面であるものをフラットトップ(flat top)、ビンのように円錐形の「首」があり、王冠にて密栓・開栓を行うものをコーントップ(cone top)と呼んでいた。プルトップの語はそれに対して作られ、用いられはじめたと思われるが、はっきりしたことは不明である。
散乱公害とプルタブチャリティー
プルタブ缶での散乱公害とプルタブチャリティー
かつて飲料缶には缶体から飲み口となるタブの部分が完全に切り離されるプルタブ式の飲料缶が採用されていた。しかし、アメリカでは動物がプルタブを飲み込む被害が出たため、プルタブ缶を禁止する州が増え、缶体にタブが付いたまま飲めるステイオンタブ式が主流となっていった[10]。
日本でもプルタブ式の缶が採用されていたが、プルタブは何処にでもポイ捨てされ、海岸で子供が足を切ったり、タンチョウヅルの胃から多量のプルタブが発見されたり、キツネがプルタブを呑んで死亡したり、といった事例が問題となった[10]。このような問題は「散乱公害」と呼ばれた[10]。
このような問題のなかで、日本では飲料缶のプルタブを集めると車椅子に換えることができるという話が全国的に広まった。この話は、1983年のラジオ番組『さだまさしのセイ!ヤング』内で呼びかけられた運動によって広く知られるようになったといわれる[要出典]。番組では実際にリスナーから寄せられたプルタブを金属回収業者に引き取ってもらうことによって換金し、病院に車椅子を2台寄付した。
アルミのプルタブを集める理由としては、
- 缶本体から切り離され、ゴミとしてポイ捨てされ、散乱しやすかったこと
- アルミは、スチールに比べて、引き取り価格が高価であったこと
- 缶全体を集める場合と異なり、洗浄などの必要がなく、かさばらず、気軽に集められること
が挙げられていた。
もともと、このラジオ番組が放送される以前にも、散乱したプルタブを拾い集めることは、ボランティアグループなどによる環境美化運動のひとつとしてしばしば行われていた。そのうちに、収集したプルタブをより有効に活用し、また福祉と結びつけてより市民の参加を促すために、車椅子を寄付する運動が加わった。この運動を知った同番組は、番組内で積極的に紹介するとともに、同様の取り組みを行った。
ステイオンタブ缶への改良とタブの切り離しの問題化
その後、缶の構造そのものを、缶体からタブが切り取られるプルタブ式から、缶体にタブが付いたままのステイオンタブ式に改善すべきとの運動がおこり、1989年(平成元年)度からビールや清涼飲料の缶の飲み口では従来使用されていたプルタブ式にかわってステイオンタブ式が本格的に採用されるようになった[10]。
タブが缶から外れないように改良されて以降も、缶に固定されたリングタブのみを折り取って集めて送るよう呼びかけている団体が存在する。タブのみを集める理由として、回収している団体の一つである大阪府理容生活衛生同業組合や北海道江別市野幌の「プルネット」は「空き缶は輸送しづらい」「保管場所が足りない」「スチール缶が混じる可能性がある」といった理由を挙げている[11][12]。
しかし、アルミ缶回収業者の団体であるアルミ缶リサイクル協会では、ステイオンタブのリング部分だけわざわざ集めるのは非効率である上に危険だとして、タブを取らずに「アルミ缶そのもの(空き缶全体)」を集めるよう告知している[13][14]。また、通常のアルミリサイクル設備は比較的大型のアルミ塊を入れることを想定して作られているため小さなタブは異物として取り除かれてしまい、手作業による選別やタブ専用の設備を必要とするため通常のリサイクルに比べて業者側に金銭的負担がかかるという[15]。
「スチール缶はタブの部分にアルミを使用しているためタブだけを分離することで不純物を減らせるのではないか」との声もあるが、アルミと鉄は比重が異なるため、溶かした後で鉄だけを分離することは容易であり、分離したアルミを含んだ鉄鋼スラグは、アスファルトコンクリート用骨材や路盤材として再利用される。そのため、スチール缶リサイクル協会も「『タブを外して集めましょう』といったことを奨励することは絶対行わないようにしてください」「『タブを集めると車椅子がもらえる』といった話を聞くこともありますが、当協会は一切関係ありません」とタブだけを切り離す行為を否定している[16]。
全国ボランティア活動振興センターは「プルタブだけでなく、アルミ缶を集めた方が効率がいい。同じような活動をする場合はまず、どこでどの程度の金額に交換できるかを確認してほしい」と話している[17]。
NHKでは2016年10月27日放送の番組『所さん!大変ですよ』でこの問題を取り上げ[15]、リサイクル業者やボランティア団体、さだまさしといった関係者へのインタビューを行った。運動を行っている小学校や中小企業団体は、車椅子を入手するためには缶全体を集めた方が早いことは認めたものの、「小さなものでもコツコツ集めることで成果が出るので生徒への教育効果がある」「運動を行うことで企業間に一体感が出る」と、効率とは別のところに運動の意義があるとのコメントをしている。また、番組内では飲料メーカーにタブを収集している子供を持つ父兄から「タブが缶から外れにくいので取れやすくしてほしい」と運動本来の趣旨を考えれば本末転倒な要望が寄せられたと紹介している。
いずれにせよ、プルリングで車椅子に交換することは一部の団体が慈善事業として行っているため不可能ではないが、リサイクル業界はプルリングのみの持ち込みを歓迎していない。従来から活動している団体も、ベルマークのように集めて交換するのではなく、集めた空き缶を地金化して換金し購入している。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d e f 日本包装学会『包装の事典』朝倉書店 p.106 2001年
- ^ a b c JIS Z 0108:2012
- ^ a b c 『丸善食品総合辞典』丸善 p.958 1998年
- ^ 『丸善食品総合辞典』丸善 p.827 1998年
- ^ a b 『丸善食品総合辞典』丸善 p.576 1998年
- ^ a b 日本包装学会『包装の事典』朝倉書店 p.107 2001年
- ^ 六郷生活学校 (1991年3月30日). “空き缶のリサイクルと缶飲料の飲み口改善をめざして”. ふるさとづくり'91. あしたの日本を創る協会. 2008年8月22日閲覧。
- ^ 田村有香 (2004年10月22日). “--タイプ1(第三者認証による環境ラベル)”. 企業責任(2) - 環境報告書(続き)と環境ラベル:もくじ. 京都精華大学. 2008年8月22日閲覧。
- ^ イージーオープン缶(プルトップ式缶)のあけ方 日清ペットフード、2016年2月20日閲覧。
- ^ a b c d “空き缶のリサイクルと缶飲料の飲み口改善をめざして”. 公益財団法人あしたの日本を創る協会. 2016年10月26日閲覧。
- ^ 大阪府理容生活衛生同業組合プルトップ事業のサイト
- ^ 野幌商店街振興組合青年部リングプル再生ネットワーク
- ^ アルミ缶リサイクル協会<Q&A>
- ^ アルミ缶はタブもいっしょにリサイクル (アルミ缶リサイクル協会)
- ^ a b 所さん!大変ですよ「リサイクル業者悲鳴!?“プルタブ取るのはやめて”」
- ^ スチール缶のフタにはアルミが使われていますがリサイクルするときに問題はありませんか?(スチール缶リサイクル協会)
- ^ 朝日新聞2000年11月16日朝刊p.31 プルタブ集め車いす ボランティアの会が県社協に寄贈
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- 2 イージーオープンエンドの概要
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