イリオモテヤマネコ 生態

イリオモテヤマネコ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/04 06:58 UTC 版)

生態

夜行性で、特に薄明薄暮時に活動する[3][8]。昼間は樹洞や岩穴などで休む[2][4]。1-7平方キロメートルの行動圏内で生活する[2][4][7]。行動圏内にある石や切り株、藪などに糞尿をかけて縄張りを主張する[2][4]。地表性だが、樹上に登ったり、水に入ったり、潜水することもある[2][9][11]

食性

食性は動物食で、哺乳類鳥類爬虫類両生類魚類甲殻類などを、日に400-600グラム捕食する[11]。他のヤマネコ類はネズミ類やウサギなどの小型哺乳類が主要な餌であるのに対し、西表島にはネズミ類やウサギなどの小型哺乳類が元来生息していない上にイリオモテヤマネコと競合するような肉食哺乳類が他には生息しておらず、生息環境や餌資源などの棲み分けが必要ないために、様々な生物を幅広く餌としている[21]

哺乳類ではクマネズミクビワオオコウモリリュウキュウイノシシの幼獣などを、鳥類ではカルガモオオクイナコノハズクシロハラシロハラクイナ、爬虫類ではヘビ類や、キシノウエトカゲ、両生類ではサキシマヌマガエルなどを、その他、マダラコオロギ、カニなどを食べる[2][3][7][8]ツグミより大きい鳥を捕食する際、他のネコ類は羽毛をむしって食べるが、イリオモテヤマネコは大きな鳥類でも羽毛をむしらず丸ごと食べる[11]。他の多くのネコ類のように脊髄を破壊して獲物をすぐに仕留めることはせず、動かなくなるまで咥え続ける[2]。狩り場の中心は湿地や水辺であり、水に入って泳いだり潜水して水鳥や魚、テナガエビ類などを捕らえることもある[11][21]

糞分析の結果では、食料の中で出現率が多いのは、鳥類が約60%、クマネズミが約30%、昆虫類が約30%などであり、トカゲ類やカエル類は15-20%程度で、クビワオオコウモリの出現率は3-17%、リュウキュウイノシシなどの出現率は1%弱ほどである[22][23]。その他の魚類や甲殻類の出現率は3-4%程度である[22][23]。推定重量に対する出現率が多いのは水鳥類であり年間を通して60%前後、次いでクマネズミが年間を通して10-30%ほどを占める[22]

食性には季節による変化も見られ、クマネズミやカエル類は年間を通して捕食され、春から夏にかけてはトカゲ類、秋から冬にかけてはマダラコオロギやクビワオオコウモリが多くなる傾向にある[21]

繁殖

普段は夜行性もしくは薄明薄暮性であるが、繁殖期には日中も活動するようになる[15]。繁殖期以外は単独で行動するが、繁殖期中の交尾期になるとつがいで行動するようになる[15][22]。繁殖期は12月から3月にかけてであり、メスは繁殖期中に発情を何回か繰り返すが、発情のピークは1-2月頃である[7][22]。2月下旬になると2週間程度の絶食期があり、その間はメスの発情が特にピークを迎え、オスとメスは常時行動を共にするようになり、この間に妊娠をすると考えられている[15]

繁殖形態は胎生で、4-6月に樹洞や洞窟などで1回に1-3匹の幼獣を産む[15][24]。この出産や育児用の樹洞は、風通しがよく、乾燥した場所が選ばれる[15]。 生まれた子供は約11ヶ月の間、メスに育てられる[15]。幼獣は秋から冬にかけて独立し始めるが、数ヶ月から最大で数年の間、母親の行動圏にとどまる[21]。生後20ヶ月で性成熟する[4]

行動圏と縄張り

イリオモテヤマネコの行動圏の面積は季節的な変化や個体差、地域差は見られるものの繁殖期には行動圏が狭くなり、平均的な行動圏はオスで1.5-4.9平方キロメートル、メスで0.85-2.75平方キロメートルである[8][22]。この行動圏は他の個体の侵入を許さないことから、縄張りとほぼ同一と考えられている[22]。オスとメスの行動圏は重複しており、オスの行動圏内に1-2匹のメスが生息している[22][24]。通常は同じ性同士の行動圏は大きくは重複しないが、一部重複していることがある[21][22][24]。この行動圏の重なりが占める場所は、狩り場となる場所が大きい[21]。この行動圏内を狩りやマーキングをしながら、3-4日間かけて巡回していると考えられている[22]

若いオスや一部のオスは行動圏を持たず、島内を放浪しながら縄張りが空くのを待ち、定住しているオスがいない場所を見つけると、そこを縄張りとする[21][24]。メスは幼獣を自分の縄張りに残し、次の繁殖期を迎えると新しく縄張りを形成する[2][4]

寿命

推定年齢15年1ヶ月で亡くなった「よん」の剥製(西表野生生物保護センター)

野生下での寿命は推定で7-8年、飼育下の寿命は8-9年である[4][15]。しかし今泉(1994)は交通事故死や罠などによる人為的な影響を考え合わせると、4-5歳であるかもしれないとしている[15]。1979年6月14日に親ネコとはぐれて生後約5週齢で保護されたオスの個体「ケイ太」は、沖縄こどもの国動物園で飼育され、老衰で死ぬまで13年間生き、推定年齢は13年2ヶ月とされる[15]国立科学博物館で飼育されたメスの個体の年齢は推定で9歳7ヶ月と見られる[15]。1996年8月6日に交通事故に遭い保護されたオスの個体「よん」は、環境省西表野生生物保護センターで飼育期間最長となる14年8ヶ月飼育され、推定年齢は最高齢となる15歳1ヶ月とみられる[25]


  1. ^ a b Prionailurus bengalensis ssp. iriomotensis (Iriomote Cat)”. International Union for Conservation of Nature and Natural Resources. 2012年7月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月17日閲覧。
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