アカシックレコード 歴史

アカシックレコード

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 18:08 UTC 版)

歴史

神智学

ブラヴァツキー、1889年
左から初代会長オルコット、第2代会長アニー・ベサント、レッドビーター(アディヤール 1905年)

小森健太朗は、ブラヴァツキーが古代アトランティス大陸の聖典だとした『ジャーンの書』について、記者にどこからこの文献をもって来たのだと問われ、「アーカーシャーの記録にアクセスしました」と答えたことが、おそらく世界で最初の用例であり[12]、著書『シークレット・ドクトリン』には「アーカーシャーの記録」という言葉があると述べている[19]

シークレット・ドクトリン』には、アカシックという形容詞は用いられていないという見解もある[11]。ブラヴァツキーは『シークレット・ドクトリン』の中で、「生命の書」 (the Book of Life)、アストラル光(: astral light)でできた見えない書板にリピカ(Lipi-ka 書記)によって刻まれる「永遠の絵画ギャラリー」(過去、現在、未来のすべての行為や思考の記録)について述べている[15]。ブラヴァツキーは、この「生命の書」は、アストラル光で構成される見えざるキャンバスに、七大天使の子である言葉、声、霊から創造されたリピカが刻むものとしており、過去においては読み取ることができる種族もいたとする。または、「アーカーシャ」に、人間の行動(カルマ、因果)を記録する「永遠の絵画ギャラリー」があり、この記録(因果)に対して応報(因果応報)がある(神智学にはインドの輪廻転生、因果応報といった思想が取り入れられている)。

ブラヴァツキーは、「生命の書」は諸宗教に同様の定義があると述べている[20]。リピカの記録の媒体とされた「アストラル光」の名称はラテン語の「星」(ラテン語: aster < 古代ギリシア語: ἀστήρ)に由来する。

ヘンリー・スティール・オルコットThe Buddhist Catechism(『仏教要理』、1881年)において「アーカーシャの記録のなかには永続的なものがあって、真の覚りの段階に達するとその同じものを読み取る潜在能力が人にはある」という考えが初期仏教にはあったと述べ[21]アルフレッド・パーシー・シネット英語版(1840年 – 1921年)は自著 Esoteric Buddhism (『秘伝仏教』、1884年)の中でその文章を引用している[22][11]チャールズ・W・レッドビーター(1854年 - 1934年)は Clairvoyance (『透視力』、1899年)で「アカシックレコード」という名辞に言及し、それは透視家が読み取ることのできる何かであると認めた[11]。シュタイナー(下記)と同時期の1910年には、レッドビーターはインドのアディヤールにおいて、アトランティス時代から28世紀の間の地球の歴史に関するアカシックレコードの霊視を行ったとしている。

シュタイナー

シュタイナー、1905年
ポーランド語版『アカシャ年代記より』

アイオワ大学元教授Marshal McKusickによると、アカシックレコードという言葉を作ったのはルドルフ・シュタイナー(1861年 - 1925年)である[13]神智学協会ドイツ支部事務総長だったルドルフ・シュタイナーは、物質界を取り巻く「アカシャ」という第五元素に、超物質的な方法で世界で起こったことがすべて永遠に刻印されており、それを霊視できると主張した[23]。霊視したという内容を、1904年から1908年の5年間にわたり「ルツィフェル・グノーシス」誌[注釈 5]で「アカシャ年代記より」として連載した。

宇宙も人間同様に転生するとし、宇宙と人類が転生を繰り返しながら霊的に進化する様子を描いている。地球は7つの曜日に倣って、土曜期・太陽期・月期・地球期・木星期・金星期・ヴァルカン期の7つの段階を経て進化するとされ、現在は地球期であるとされた。各惑星期は周期という下位区分を持ち、各周期は球期という下位区分を持ち、各球期は根源人種英語版期という下位区分を持ち、各根源人類期は文化期という下位区分を持つとされ、現在は「地球期・第4週・第4球、第4根源人種時代(後アトランティス時代)・第5文化期」であるという[23]。地球期に人類は、北極付近からレムリア大陸、アトランティス大陸に移動して進化し、現在に至っているとされ[23]、人類と太陽系との劇的な出会いを語るオカルト宇宙誌となっている[24]。地球期の次は、地球が木星になる木星期とされている[23]

この連載はシュタイナーの生前に書籍として出版されることはなかった。

エドガー・ケイシー

ケイシー、1910年

アカシックレコードという概念は、心霊治療家・心霊診断家エドガー・ケイシー(1877年-1945年)が、晩年から死後にかけてアメリカ社会で人気になるのに伴い知られるようになった(ケイシーに関する著作トマス・サグルー著『There Is a River』(1943年)[注釈 6]が出版される晩年まで、ケイシーはあまり知られていなかった)。彼は、メスメリズム(動物磁気療法、催眠療法)による催眠状態で人々からの相談や質問に答えるという、特異な人生を送った[25]。喉頭炎を患い声が出なくなった時に、メスメリストによる催眠治療を受けたが、催眠状態では声を出すことができ、普段とは異なる人格が現れた。その人格が語る病気の原因と治療法によりケイシーは失声症を克服し、また催眠下では他者の病の治療法も教えたため、徐々に患者の相談に答えるようになった[25]。競馬や株価の予想といった私益の相談には、うまく能力を発揮することはできなかったという[25]。1923年に印刷業者で宗教・哲学、特に近代神智学に詳しいアーサー・ラマース (Arthur Lammers) に出会い、ラマースは神智学の教えなどを催眠時のケイシーに質問し、ケイシーは神智学の影響を大きく受けた[25]。ラマースの勧めでケイシーは病気相談(フィジカル・リーディング)だけでなく、過去生の経緯や過去生を含む人生全体の相談(ライフ・リーディング)に応じるようになり、支持者が集まり活動は組織化されていった[25]。グノーシス主義等を研究する宗教学者大田俊寛は、ケイシーの思想には神智学協会に始まる近代の神智学と『新約聖書』の「ヨハネの黙示録」、その代替医療にはニューソートの影響が認められると述べている[25]。女優シャーリー・マクレーンのオカルト色の濃い自伝的書籍で、ベストセラーとなった『アウト・オン・ア・リム』では、ケイシーの輪廻転生論が重要な位置を占めている[25]。リーディング記録をもとに彼の思想や歴史館を語るジナ・サーミナラ著『Many Mansions』(1950年)[注釈 7]などがベストセラーになり、ケイシーの思想はニューエイジにおいて重視された[25]

ラマースの知識は神智学に基づくもので、神智学の霊魂観の真偽などを催眠時のケイシーに質問した。これに対し、ケイシーは次のように説明している。人間の霊魂は輪廻転生を続けており、太陽系は八次元からなる「魂の修養場」である。三次元を特徴とする地球では、霊魂は三次元的身体(肉体)をまとって自由意思を行使する。地球では肉体と霊体という二重性のために、人間の意識は顕在意識と潜在意識に完全に分離してしまい、潜在意識は眠り込んだ状態になる。潜在意識の次元では、魂がこれまでに経験した事柄(過去生を含む)がすべて記録されている[25]。ケイシーはこの潜在意識の記録、「霊的な記録庫」にアクセスし、過去世の記憶から得た情報により人々の相談に応じているのだという[25]。この「霊的な記録庫」が、のちに神智学の用語に倣って「アカシックレコード」と呼ばれるようになった[25]。ケイシーは、相談者の問題は、前世から受け継いだ「カルマ(因果)」によって起こると考えた[25]。また、滅亡した古代大陸アトランティス(現在では架空と考えられている)に生きたアトランティス人が多数アメリカに転生していると述べ、アトランティスの興亡をめぐる超古代史なども語った[25]。ケイシーは、科学技術の暴走による文明の滅亡など終末思想の濃い予言を間近なものとして語り、核兵器の脅威におびえる人々の支持を得た[25]。これらの予言が当たることはなかった[25]

ケイシーのリーディング結果は1万4000件に及び、アメリカのエドガー・ケイシー財団(Association for Research and Enlightenment、A.R.E.)が管理している[25]

アカシックレコードへのアクセス方法はチャネリングまたはリーディングと呼ばれるが、これらは心霊主義交霊会に由来し、元々は霊媒によって行われた。1960年代のカウンターカルチャーを源流のひとつとし、1970年代後半に始まるアメリカのニューエイジ運動の中で、アカシックレコードへのアクセスが試みられていった。ニューエイジでは、世界のすべての現象を記録したアカシックレコードは実在し、それにアクセスするチャネリングは真正のものと考えられることがあり、異次元の「ソース」から高次の霊的な情報、真実であり重要な情報を得ることができるチャネラーが多数存在すると考える人もいた[18]


注釈

  1. ^ アストラル光(: lumière astrale)は、エリファス・レヴィが魔術の原理を説明するために「大いなる魔術的媒介」として提唱した概念[3]。宇宙に遍満する流体であり、フランツ・アントン・メスメル動物磁気等の影響[4]パラケルススの用語 Ens Astrale (星辰的実体)との関連[5]も指摘される。後の多くのオカルティストがこれを用語として採用している。
  2. ^ 近代の神智学は、マクロコスモス(宇宙)とミクロコスモス(人間)との照応というヨーロッパの伝統思想を理論的基礎に、インドの思想や仏教等を導入した新宗教で、西洋と東洋の智の融合・統一を企図していたといえる。ヨーロッパ思想であるにもかかわらずサンスクリット語が多用されるのは、インド思想が折衷されているためである。なおインド哲学や仏教の理解には限界があったため、カバラ新プラトン主義で補うという手法がとられた。
  3. ^ アーカーシャ(サンスクリット: आकाश、阿迦奢)は「空間」を意味し、「虚空」または「空」と漢訳される。
  4. ^ シャーリー・マクレーンの『アウト・オン・ア・リム』では、集合的無意識をアカシックレコードと同等としたうえで、同様の表現をしており、この定義が一般的にも流通している。
  5. ^ シュタイナーが編集した雑誌。
  6. ^ 日本語訳は1989年に『川がある―エドガー・ケイシー物語』〈上・下巻〉が出版され、1994年に『永遠のエドガー・ケイシー―20世紀最大の予言者・感動の生涯』として一冊にまとめられた。
  7. ^ 日本語訳は1966年に『窓はひらかる』が出版され、1973年に改題され『転生の秘密』として出版された。

出典

  1. ^ Drury 2002, p. 7.
  2. ^ Drury 2011, p. 308.
  3. ^ Nicholas Goodrick-Clarke. The Western Esoteric Tradition - A Historical Introduction. pp. 193-195.
  4. ^ 稲生 2013, p. 168.
  5. ^ ゲティングズ, 松田訳 1993, p. 237.
  6. ^ Greer 2003, p. 10.
  7. ^ 羽仁 2001.
  8. ^ a b ローザク, 志村訳 1978.
  9. ^ Regal, Brian (2009). Pseudoscience: A Critical Encyclopedia. Greenwood. p. 29. ISBN 978-1591020868 「アストラル投射の能力、他の界層の存在、アカシックレコードについては不確かな目撃者の証言以外に証拠はない。」
  10. ^ a b ゲティングズ, 松田訳 1993, pp. 15–16.
  11. ^ a b c d Hammer & Rothstein 2013.
  12. ^ a b 小森健太朗 6:03 - 2012年3月6日 twitter.com
  13. ^ a b McKusick 1982.
  14. ^ シュタイナー, 高橋訳 1998, p. 146.
  15. ^ a b アカシック・レコード 宮本神酒男
  16. ^ a b 小冊子「現代教学へのアプローチ」「宗教と科学について-ニューエイジ批判を通しての一考察-」 渋沢光紀 Archived 2016年3月10日, at the Wayback Machine. 日蓮 現代宗教研究所
  17. ^ 大田 2013, p. 115.
  18. ^ a b 日蓮宗現代宗教研究所 報第30号 「ニューサイエンスとパラダイムシフト 現代の宗教動向の背景にあるもの 松井教一」 Archived 2015年12月27日, at the Wayback Machine.
  19. ^ 小森健太朗 5:31 - 2012年3月6日 twitter.com
  20. ^ SD Book I. p. 126.; 東條 2001
  21. ^ Olcott 1881, pt. II, n. 11.
  22. ^ Sinnett 1884, p. 127.
  23. ^ a b c d 吉永・松田 196, p. 212.
  24. ^ アカシャ年代記より 国書刊行会
  25. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 大田 2013.
  26. ^ まる子 ノストラダムスの予言を気にするの巻 ノストラダムスwiki





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