矛盾論
矛盾論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 15:20 UTC 版)
板倉は基本理論の交代における矛盾の重要性について明らかにした。 板倉は理論の交代について、古い理論の内部に矛盾が出現することによって理論は危機に陥る。そしてその矛盾をのりこえようとする結果として形成されるのが新理論であると考えた。古い理論の内部矛盾の存在は、その理論に深くコミットした人ほどより深刻にとらえられ、顕在化してくるという特徴を持っている。古い理論の敵は説明できないデータの存在でもなく、競合する新理論の出現でもなく、矛盾の存在なのであると主張した。 この点について板倉の研究から一例を挙げる。天動説に対してコペルニクスが地動説を提唱したとき、新しいデータは何も関与していなかった。一般の常識としてはコペルニクスは子供じみた天動説を批判し、観測に基づく実証的な地動説を提唱したのだということになっている。しかし天動説は観測データに基づいた科学理論で、コペルニクスが新しい観測事実を持っていたわけではない。コペルニクスは当時の天動説に深刻な矛盾を見たのである。例えば、天動説は地球が動くと破壊されることを心配したが、なぜ同じことを地球よりはるかに大きく速く「回転する天」に心配しないのか。また、天動説の計算は確かに「惑星が地球から見える方向」はそれなりの予想精度を持って示すことができる。しかし、それを「惑星の明るさの変化」にも当てはめようとすると矛盾が生じる。コペルニクスは天動説では惑星の見える方向と、その惑星の明るさの変化(彼はそれを惑星の地球からの距離の変化と見た)は両立できないことを、深刻な矛盾とみたのである。その矛盾を解決するためにはどうしても天体の回転の中心を地球から太陽にしなければならなかったのである。 板倉は自身の「理論の交代における矛盾の役割」の研究結果で、「理論選択の基準はその単純性にある」とする「マッハ主義」を批判した。 基本理論の交代が理論外の新事実の発見や他の理論の影響で引き起こされるという「機械論」も科学史の現実に合わないとした。 理論は事実に合わせて変化するという「実証主義」を、「天動説は事実に合わせるという点では十分実証的だった。コペルニクス説がこの点で優れていたわけではない」として否定した。 「どっちもどっち」というような「相対主義」は旧理論の内部矛盾に着目することによって乗り越えることができると主張した。 科学者による理論の選択は、もともと合理的説明はできないのであって、宗教的回心のようなものだと主張する「パラダイム論」に対して、理論交代の必然性を、理論内部の矛盾による自滅とそののりこえによって説明できると批判した。 「仮説実験的認識論」も参照
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