相対論的効果の補正
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/09 08:22 UTC 版)
1950年には、技術の進歩により標準電波の周波数や秒の正確度が6991100000000000000♠±1×10−9に達すれば相対性理論が問題になる辺りにくる事になり、伝搬遅延を補正して地球上で等時性を捕える事ができてもそれは見かけのものに過ぎなくなることが指摘される。 1960年代になると、天文学者は相対性理論の効果が時刻系に与える影響についての詳細な検討を始め、1964年に東京天文台(TAO、現NAOJ)の青木信仰博士が、相対論的効果による時刻標準の変動に関する論文を発表し、1967年にはイェール大学のジェラルド・クレメンス教授他が、原子時計の年周変動に関する論文を発表する。 一般相対性理論によれば、くるいのない理想的な時計であっても、それが刻む時刻は、その時計が過去に、どのような重力場のなかをどのような運動をしたかによって相互比較では差が生じる。このような時刻を「固有時」と呼ぶ。これに対して、共通の基準となる目盛りのついた時間と空間を「基準座標系」と呼び、このうちの時間座標を「座標時」と呼ぶことがある。地球上の時計の固有時は、主に太陽、地球自体、月、諸惑星の重力ポテンシャルの影響下にあるものと考えてよい。時計のある場所が、これらの天体に対して位置を変えるので、このポテンシャルの影響は一定量と変化量の合成となる。この変化量の最大のものは太陽のポテンシャルの変化によるもので、地球軌道が楕円であるため太陽からの距離が年周変化することで生じ、地球上の時計が一斉に全振幅6990660000000000000♠6.6×10−10の年周変化をすることになる。これを時計面でみると秒の長さの変化が積算されるので、全振幅6997330000000000000♠3.3 msの年周変化を示すことになる。なお、変化とは、一切の重力ポテンシャルの影響から全く離れた場所の座標時に比較して測られる量を言う。また、地球ポテンシャルの影響として、時計の置かれている場所の標高(ジオイドからの高さ)の違いに対応して、7003100000000000000♠1 km当たり6987110000000000000♠1.1×10−13の歩度差が生じる。 1967年にプラハで開催された第13回国際天文学連合 (IAU) では、原子時計に対する、太陽、月、惑星、地球のポテンシャルの影響による相対論的効果が議論され局地差や周期変動に対する補正の式も提案されるが、まず実際に周期変動や局地差を検出することが先決で、補正方式は実験的事実に立脚すべきであるとの意見もあり結論を見ないで終わる。 1970年代に飛行機やロケットに原子時計を搭載するなど様々な実験が行われ、原子時計に影響する相対論的効果が実験的に確認される。また、人工衛星の観測などにより地球全体のジオイドを把握できるようになる。 そして、1980年に、国際度量衡委員会 (CIPM) の下部機関である秒の定義に関する諮問委員会(CCDS、現CCTF)は相対性理論の各種効果に対する、地球近傍での時計比較に必要となる補正を検討し、地球の重力ポテンシャルの差、速度の差および地球の自転を考慮して「TAI は、回転するジオイド上で実現される SI の秒を目盛りの単位とした、地心座標系で定義される座標時の目盛りである」と声明を発表する。これ以後、国際原子時 (TAI) の作成に寄与する原子時計は、ジオイド上のSI秒を基準に補正を行うことになる。
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