獲得形質の遺伝を巡って
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/08/24 04:57 UTC 版)
「ネオ・ラマルキズム」の記事における「獲得形質の遺伝を巡って」の解説
ダーウィニズムが進化論において主流の地位を占めた後でも、獲得形質の遺伝を証明しようとする実験が何度か行われている。特に有名なのは、オーストリアのパウル・カンメラー(英語版)によるサンバガエル(英語版)の実験である。彼は両生類の飼育に天才的な才能を持っていたと伝えられ、陸で交接を行い足に卵をつけて孵化まで保護するサンバガエルを、水中で交接・産卵させることに成功した。水中で交接するカエルには雄の前足親指の瘤があって、これは水中で雌を捕まえるときに滑り止めの効果があると見られる。本来この瘤はサンバガエルには存在しないのだが、カンメラーはサンバガエルを3世代にわたって水中産卵させたところ、2代目でわずかに、3代目ではっきりとこの瘤が発現したと発表した。つまり、水中で交接することでこの形質が獲得されたというのである。ところが公表された標本を他の研究者が検証してみたところ、この瘤はインクを注入されたものであることが発覚。実験自体が悪質な捏造であると判断され、カンメラーは自殺した。その後、サンバガエルの水中飼育に成功した例は存在しない。 カンメラーと同じ頃、ソビエト連邦ではイヴァン・ミチューリンによって獲得形質の遺伝が力説され、生物学界に一定の支持を得ていた。その中の一人であるトロフィム・ルイセンコはミチューリンの理論を発展させ、これを獲得形質と判断し独自の進化論を述べた。しかし、これには現象そのものの理解に問題があり、現在ではこれを支持するものはいない(ルイセンコ論争を参照)。 2000年ごろまでの分子遺伝学では、専ら「遺伝における情報の流れはDNAを翻訳して形質が発現する」とされ、「一方通行である」とされていた。この説、仮説を「セントラルドグマ」という。この仮説の枠内においては「個体が獲得した形質がDNAに情報として書き戻されることはあり得ない」とされる。つまり「獲得形質の遺伝は認められない」とする。この仮説は原則的には現在も広く認められているところである。ただし、この説は、すでに若干の例外となる現象、すなわち細胞レベルでの「遺伝子の後天的修飾」が知られるようにはなってきており、セントラルドグマが過大視されすぎたとして、それを修正するための研究が進行中である。このような研究は「エピジェネティックス」と呼ばれており、各国で盛んに研究が行われており、後天的修飾の起きる範囲は一体どの程度なのか(どの程度にとどまるのか)、その仕組みはどうなっているのか、といったことが日々解き明かされようとしてはいる。
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