泣くことの機能
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/05 07:52 UTC 版)
感情的に流れる涙の機能もしくは起源についての問題はいまだ解明されていない。被った痛みに対する反応であるなどの単純なものから、他人から利他的な行為を引き出すための非言語的コミュニケーションであるなどのより複雑なものまで様々な理論がある。ストレスを和らげるなどの生化学的な目的に資するものだと主張する者もいる。泣くことは 、苦しみ・驚き・喜びなどの激しい感情的感覚のほとばしりに対する捌け口、またはその結果であると考えられている。この理論は、なぜ人が悲しい出来事だけでなく楽しい出来事があった場合にも泣くのかを説明しうる。 人は泣くことの肯定的な面を記憶する傾向にあり、悲しい感情から解放されるなどの、同時に起こった前向きな出来事と結び付けている可能性がある。併せて、こうした記憶の特性は、泣くことが人に利するものであるという意見を補強する。 ヒポクラテスの医学では、涙は四体液説に結びつけられ、泣くことは脳からの余分な体液の浄化作用と考えられていた。ヨーロッパの中世医学では、人間の体液は全て血液に由来し、感情の中枢である心臓から、感情の高揚とともに目に上ってくるものであると考えられた。中世フランス語には「心から眼に水が上る(l'eve del cuer li est as elz montee)」という言い回しが多用されている。一方、中国・明代の薬事書『本草綱目』においては、涙は肝臓の組織液であり、心の系が急して器官が揺れ動くことで液道が開かれ涙が出てくる旨が記されている。ここでは、涙が塩辛く、毒性を持つものと説明され、母親が子を抱えながら涙することは悪影響をもたらすと説明されている。ウィリアム・ジェームズは、感情を理性的思考に先立つ反射として考え、泣くという生理的反応はストレスや刺激と同様に、恐怖や怒りなどの感情を知覚的に認識するための前提条件であるとした。
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