任意解除権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/11 15:46 UTC 版)
任意解除権の意義委任は委任者と受任者との間の個人的な信頼関係を基礎として成り立っている契約であり、この信頼関係が損なわれた場合を考慮し、民法は各当事者はいつでも委任契約を解除することができることとしている(651条1項)。これを任意解除権というが、通常の解除と異なり遡及効がない解除であるため「告知」ともいわれる。告知の際に理由を示す必要はない(最判昭58・9・20判時1100号55頁)。任意解除権は無償委任・有償委任を問わずに行使しうるとされ(通説)、受任者が一部について履行済の場合にも残部について解除しうる(大判大3・6・4民録20輯551頁)。 任意解除の効果委任は継続的契約であるため、その任意解除には継続的契約たる賃貸借の解除の効力について定めた620条の規定が準用される(652条)。したがって、その効果は将来効のみであり(620条前段)、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償を請求しうる(620条後段)。 当事者の一方にとって不利な時期に委任契約を解除した場合で、かつ、そのことにやむを得ない事情があるわけではない場合には損害賠償義務が生じる(651条2項)。有償委任の場合には受任者には割合的な報酬の請求が認められる。 任意解除権の放棄特約で任意解除権を放棄することもできる(通説)。受任者の利益を目的に含む場合には解除権放棄の黙示の特約があると推定しうる(通説)。当然のことながら公序良俗に反し脱法行為となる場合は解除権放棄は認められない(通説・判例。最判昭30・10・27民集9巻11号1720頁)。なお、任意解除権を特約で放棄した場合であっても、なおやむを得ない事情があると認められるときは解除しうる(大判昭14・4・12民集18巻397頁)。 任意解除の制限以下の場合には、契約の性質上、任意解除は制限される。委任がいわゆる従たる契約の場合(大判大6・1・20民録23輯68頁) 委任を含む混合契約の場合(最判昭56・2・5判時996号63頁) 委任が三面契約の一部となっている場合 なお、委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができるが(651条第1項)、2017年の改正前の651条第2項は「当事者の一方が相手方のために不利な時期に委任契約を解除したときは、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。」としていた。この任意解除権については判例で制限等の修正が加えられていた。判例では債権の取り立て委任のように委任の趣旨が受任者の利益にもあるような場合に、委任者が黙示に解除権を放棄したものとみられる事情が認められるときには、委任者の任意解除権が制限されることがあるとしていた(大判大9・4・24民録26輯562頁ほか)。その例外として受任者の利益のためにもなされた委任であっても、受任者に信頼関係を損なうような著しく不誠実な事情が認められるときは委任者は任意解除権を行使できるとされていた(最判昭40・12・17)。さらに、当該契約において委任者が解除権自体を放棄したものとは解されない事情がある場合には委任者はやむをえない事由がなくても651条により解除することができるとしていた(最判昭56・1・19民集35巻1号1頁)。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)では「受任者が著しく不誠実な行動にでるなどやむをえない事由」の有無(最判昭40・12・17)や「委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情」の有無を問わず委任者による任意解除権の行使を認め、それにより受任者が被る不利益については委任者による損害賠償(改正後の651条第2項)で填補させる(やむを得ない事由があった場合は損害賠償も不要)という構成を採用した。 任意解除による損害賠償前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない(651条第2項)。 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
※この「任意解除権」の解説は、「委任」の解説の一部です。
「任意解除権」を含む「委任」の記事については、「委任」の概要を参照ください。
- 任意解除権のページへのリンク