ケインズによる非自発的失業
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 15:32 UTC 版)
「非自発的失業」の記事における「ケインズによる非自発的失業」の解説
これに対して、世界恐慌期の失業者を説明するものとしてケインズが提唱したのが「非自発的失業」である。ケインズは1936年の『雇用・利子および貨幣の一般理論』において有効需要という概念を定義し、さらに非自発的失業という存在を定義した。ケインズは世界恐慌期の失業者の存在をこの有効需要から説明した。このとき、ケインズは古典派の公準のうち、第二公準を否定した。新古典派の考えでは、労働者が反応するのは実質賃金水準であったが、これに対してケインズは労働者が反応するのは実質賃金水準ではなく名目賃金水準であるとした。これは労働者は名目賃金の引き下げには抵抗するが、物価上昇による実質賃金の引き下げには抵抗しない(貨幣錯覚)ためである。第二公準では労働者と企業との間の賃金契約が実質賃金水準によって決まると仮定しているが、実質賃金水準は名目賃金水準と物価水準の双方から成り立つ。労働者と企業とが決定し得るのはこのうち名目賃金水準のみであり、物価水準は他の経済要因に依存するため、実際の雇用に際しては実質賃金率を決定できない。それにもかかわらず、第二公準は実質賃金の決定を前提としている。現実では企業と労働者は名目賃金の契約を結んでいる。名目賃金水準は、新古典派経済学のいうような伸縮性を(短期的には)持っておらず、硬直的である。例えば、労働需要が少ないからといって、すぐさま名目賃金の切り下げが行われるわけではない。仮に労働需要が不足していても、現実には例えば労働組合の抵抗があったり、法律的に最低賃金の切り下げが難しかったりするなど名目賃金の切り下げには時間がかかることが多い。これを(名目)賃金の下方硬直性という。(なお賃金(価格)が硬直的な市場では価格調整ではなく数量調整が行われる。) ケインズによれば、労働市場は完全雇用点において労働の供給量は実質賃金率の関数となり、非自発的失業が存在しない状態だとされる。短期・長期という観点でも、完全雇用に達する以前は労働供給量は名目賃金率の関数であり、完全雇用に達した後に労働供給量は実質賃金率の関数となるため、新古典派の理論は長期的にしか成立しない。短期的にはケインズ的な考え方が重要となる。 上記のように、ケインズは失業を減らす機能を労働市場には認めず、労働市場が価格調整を通じて自動的に失業を減らすという新古典派の説明を採用しなかった。かわりに、ケインズは有効需要論によって失業の説明を行った。
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