「災害医療」と「救急医療」の違い
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/14 11:57 UTC 版)
「災害医療」の記事における「「災害医療」と「救急医療」の違い」の解説
我が国において、「全国規模で災害医療を行う能力」 を有する常設組織は、自衛隊 (衛生科部隊や、災害派遣の救助部隊を含む)と、日本赤十字社の2組織 のみである。 この他に、常雇の組織ではないものの、災害医療についての専門的な研修や訓練を受けた全国各地の医師や看護師らが、災害派遣医療チーム(DMAT) や 日本医師会災害医療チーム (JMAT)として 医療支援に入る(ただし、DMATやJMAT は 被災地域外からの派遣となるため、現場到着や展開など、具体的な活動を開始するまでには、ある一定程度の時間がかかる)。 また、規模は小さくなるものの、地域レベルでは 国立や県立・市町村立などの公立病院・医学部付属病院・民間病院 などの中からあらかじめ指定された災害拠点病院も、災害医療を担当する。 その他にも、災害医療は全く専門ではないものの、地元の開業医などで組織する 各地域医師会の有志らが、現場救護所や避難所などで簡易的なトリアージや、軽症患者の応急処置などを行う。 被災者の救助・搬送から災害医療は始まる 平成26年8月豪雨による広島市の土砂災害 自衛隊の1トン半救急車 一度に最大5名の担架搬送患者を収容可能 現場救護所(救護テント) 第8師団 後方支援連隊衛生科部隊 自衛隊 衛生科 野外手術システム車 自衛隊(衛生科)の野外手術ユニット 手術準備ユニットの内部 野外手術ユニットの手術台とX線透視装置 赤十字病院の災害医療用トラック 赤十字の災害医療用浄水装置 災害トリアージセット 赤十字病院の災害医療用ベッド 災害用診療セット (1) 災害用診療セット (2) トリアージ訓練 2007年9月2日 東京消防庁消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー) 災害用大型救急車 災害用大型救急車を拡張した状態 避難所の仮設救護所で診療録を書く東京DMATの医師 東日本大震災にて 日本赤十字社医療センター 東京DMATカー(宿泊支援車) 救急医療は、患者に対して十分な医療を供給できる環境下で行われる医療であり、例え突発的な発生であったとしても、いわば 「日常的に行われる医療」 の一部である。 医療関係者の手により 「患者にとって必要とされるすべての医療」 が施される。これに対して災害医療は、事前に予測困難な災害の発生時において、急激な傷病者の増加に対して医療の供給が全く追いつかない状況下で行われる医療であり、場合によっては 電気・水道などのインフラ施設も被災し停電・断水 といった状況の中、医療機関への医薬品や衛生材料の供給もストップするなど、想像以上に過酷な状況の中でも行わなければならない。 混乱する現場・殺到する傷病者 に対して、手元の 「限られた医療資源」 を有効に活用することで、何とか1人でも多くの人命を救うことを求められる医療である。従って、災害医療では、平時に行われる救急医療のような 「患者にとって必要とされる全ての医療」を提供することは、最初から不可能である。 このことは、患者側にもきちんと説明をして 理解してもらわなければならない。 災害医療では、トリアージひとつ取っても、救急医療とは「時間のかけ方」が異なる。 救急医療では一人の患者につき2~3分をかけてトリアージを行うが、災害医療では、一人の患者に対して1分の時間をかければ、仮に60人の患者が一度に来たとした場合、60番目の患者は医療機関に到着後、重症か軽症かも分からない状態のままで 60分(1時間)以上も放置される、という事態になってしまう。実際の災害時には、患者数が60名程度で済むはずは無く、このあとに診察や応急処置・手術が待っているため、トリアージの後も 更に時間がかかる。 このため、患者1人あたり 30秒以内でトリアージが完了出来るよう、「START(Simple,Triage And Rapid Treatment) 式トリアージ」という、平時に行うものより簡素化されたトリアージ法が行われる。 START式トリアージ START法による診断フローチャート。 実際の災害発生時に 災害医療を主に担当するのは、平時に救急医療に携わっている医療関係者である。しかし 「災害医療」と「救急医療」は このように本質的に全く異なる医療であり、傷病者一人ひとりに対して、平時のような100%の医療は、現実的には提供できない。 単純に 「救急医療の規模が大きくなったものが災害医療だ」 と勘違いすると、実際の現場に出た時に救えたはずの命が失われかねない。 災害医療では、一人の患者にかける医療の「質」よりも、いかに多数の患者に対して、限りある医療を効率的・効果的に提供できるか、という観点が 常に要求される、という点でも特殊である。また、災害が長期化した場合には、必要とされる医療の内容が変化する、というのも大きな特徴のひとつである。 狭義の災害医療とは、災害時の急性期・初期医療のことであるが、それは永久に続く訳ではない。目安として、おおむね72時間を超過すると、発見される被災者の救命率は大幅に低下する(72時間の壁)。 その後 受診する患者の多くは、災害前からの基礎疾患(高血圧や糖尿病、認知症など)や、精神的疾患(不安感、不眠など)が主となっていき、発災後3日目以降になると、急性期の災害医療を得意とする DMAT(災害派遣医療チーム)は、現地からの撤退時期の検討をはじめる。 一方、崩壊した被災地の地域医療を支援するため、DMATと入れ替わるように被災地へ派遣されるのが JMAT(日本医師会災害医療チーム)である。
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