Xバー理論 階層構造

Xバー理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/28 07:22 UTC 版)

階層構造

PSRには、文の曖昧性 (: ambiguity) を捉えられないという問題がある。

  • I saw a man with binoculars.[28]

この文は、with binocularsがVPにかかる「私は双眼鏡を使ってある男を見た」という解釈と、NPにかかる「私は双眼鏡を持ったある男を見た」という解釈で2通りに曖昧である[28]。この文に関わるPSRは、以下のようになる。

  • S → NP VP
  • VP → V NP PP

すなわち、構造は図13のようになる。

この構造では、例外なく[PP with binoculars]がVPにかかるため、NPにかかる解釈を適切に捉えることができない。しかし、階層構造を仮定するXバー理論では、図14、15のように適切に曖昧性を捉えることができる。

従って、#背景で述べた4つ目の問題もXバー理論によって解消される。なお、生成文法では、標準理論 (Chomsky 1965[5])、拡大標準理論英語版 (Chomsky 1972[29])、改定拡大標準理論英語版 (Chomsky 1981[14]) の全てにおいて、「構造から意味が導かれる」と考える。したがって、この逆の「意味から構造が導かれる」ことは理論上ありえない。

関連項目


  1. ^ 「Xバー式型」という日本語訳が与えられることもある。
  2. ^ 主要部ない句構造を指す。
  3. ^ 括弧内の句範疇は随意的であることを表す。
  4. ^ 主要部ある句構造を指す。
  5. ^ Jackendoff (1977)[4]では、Xトリプルバーレベルまで仮定されている。
  6. ^ その後、Pollock (1989)[15]によりIは T(ense)Agr(eement) の2つの機能範疇からなるという仮説が提案された。一方、機能範疇AgrはChomsky (1995)[16]で、LFでの機能がないことを理由に存在を棄却された。故に、現在の統語論では節は機能範疇Tを主要部とするTPであるという考え方が主流である。
  7. ^ 図10の構造において、文全体の語順は接辞移動 (: affix hopping、affix movement) により派生される。接辞移動とは、統語形成が終了したのちに音韻部門 (PF) で適用される操作で、屈折辞の /-s/ という「音」を動詞の位置に移動させ付加する[9]:16。Chomsky (1981)[14]では、この時制接辞移動は規則R (: Rule R) と呼ばれている。
  8. ^ 同様に補文を導くwhetherも補文標識として扱われることがあるが、Nakajima (1996)[17]などをはじめとする多くの研究者が、whetherはCPの主要部位置に生起するのではなく、CPの指定部位置 (Spec-CP) に生起するものとして扱っている (wh語の分析と同様)。これはすなわち、whetherはC0ではないと言うのと遜色なく、どの統語範疇に属するのかは研究者によって意見が分かれる。
  9. ^ Wh移動は、Chomsky (1973)[19]下接の条件英語版 (: Subjacency Condition) に従い、連続循環的 (: successive cyclic) に、すなわち全てのSpec-CPを経由して適用される。
  10. ^ 主要部移動の詳細議論はBaker (1988)[20]を参照のこと。
  1. ^ Chomsky, Noam (1955). The Logical Structure of Linguistic Theory. Cambridge, MA: MIT Press .
  2. ^ Chomsky, Noam (1957). Syntactic Structures. The Hague: Mouton .
  3. ^ Chomsky, Noam (1970). Remarks on Nominalization. In: R. Jacobs and P. Rosenbaum (eds.) Reading in English Transformational Grammar, 184-221. Waltham: Ginn.
  4. ^ a b Jackendoff, Ray (1977). X-bar-Syntax: A Study of Phrase Structure. Cambridge, MA: MIT Press 
  5. ^ a b c Chomsky, Noam (1965). Aspects of the Theory of Syntax. Cambridge, MA: MIT Press .
  6. ^ a b c d e f 『増補版チョムスキー理論辞典』研究社、2016年、521-523頁。 
  7. ^ 岸本, 秀樹 『ベーシック生成文法』ひつじ書房、東京、2009年。 
  8. ^ a b Radford, Andrew (2016). Analysing English Sentences: Second Edition. Cambridge: Cambridge University Press. p. 114-115 
  9. ^ a b c d e 荒木, 一雄 『英語学用語辞典』三省堂、1999年。 
  10. ^ a b c d Chomsky, Noam (1986a). Barriers. Cambridge, MA: MIT Press 
  11. ^ Basic English Syntax with Exercises”. 2021年10月22日閲覧。
  12. ^ Chomsky, Noam (1986b). Knowledge of Language: Its Nature, Origin and Use. New York: Praeger 
  13. ^ Saito, Mamoru; Naoki, Fukui (1998). “Order in Phrase Structure and Movement”. Linguistic Inquiry 29 (3): 439-474. 
  14. ^ a b c Chomsky, Noam (1981). Lectures on Government and Binding. Cambridge, MA: MIT Press 
  15. ^ Pollock, Jean-Yves (1989). “Verb Movement, Universal Grammar, and the Structure of IP”. Linguistic Inquiry 20 (3): 365–424. 
  16. ^ a b c Chomsky, Noam (1995). The Minimalist Program. Cambridge MA: MIT Press 
  17. ^ Nakajima, Heizo (1996). “Complementizer Selection”. The Linguistic Review 13: 143-164. 
  18. ^ Radford, Andrew (2016). Analysing English Sentences: Second Edition. Cambridge: Cambridge University Press. p. 86-92 
  19. ^ Chomsky, Noam (1973). Conditions on Transformations. In: Stephen R. Anderson and Paul Kiparsky (eds.) A Festschrift for Morris Halle, 232-286. New York: Holt, Rinehart, and Winston.
  20. ^ Baker, Mark C. (1988). Incorporation: A Theory of Grammatical Function Changing. Chicago: University of Chicago Press.
  21. ^ Fukui, Naoki and Speas, Margaret J. (1986) Specifiers and Projection. MIT Working Papers in Linguistics 8: 128-172.
  22. ^ Kitagawa, Yoshihisa (1986). Subjects in Japanese and English, Unpublished doctoral dissertation, University of Massachusetts. Reprinted in Kitagawa (1994), Routledge.
  23. ^ Abney, Steven P. (1987). The English Noun Phrase in Its Sentential Aspect. Doctoral dissertation, MIT.
  24. ^ Larson, Richard K. (1988). On the Double Object Construction. Linguistic Inquiry 19 (3): 335-391.
  25. ^ Bowers, John (1993). The Syntax of Predication. Linguistic Inquiry 24 (4): 591-656.
  26. ^ Bowers, John (2001). Predication. In: Mark Baltin and Chris Collins (eds.), The Handbook of Contemporary Syntactic Theory, 299-333. Blackwell.
  27. ^ Stowell, Timothy (1981). Origins of Phrase Structure. Doctoral dissertation, MIT.
  28. ^ a b Syntax I”. 2021年10月23日閲覧。
  29. ^ Chomsky, Noam (1972). Studies on Semantics in Generative Grammar. The Hague: Mouton 





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