IBM 1620 開発の経緯

IBM 1620

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/19 08:55 UTC 版)

開発の経緯

小規模科学技術計算向けコンピュータ

1958年、IBMはニューヨーク州ポキプシーの研究所に小型科学技術計算市場についての研究チームを立ち上げた。当初のメンバーは、Wayne Winger(マネージャ)、Robert C. Jackson、William H. Rhodes である。

要求仕様と設計

この市場での競争相手は Librascope LGP-30英語版Bendix G-15 で、いずれも磁気ドラムメモリマシンだった。当時IBMの最も小型のマシンは IBM 650 で、固定ワード長の十進マシンで、やはり磁気ドラムメモリを採用していた。これらはいずれも真空管を使っている。IBMはこの領域では何ら新しいことを提供できないと結論付けられた。競争を有利に運ぶにはIBMが大型コンピュータの領域で開発した技術を利用する必要があったが、同時に価格を抑える必要があった。

この目標に対して、チームは以下の要求事項を定義した:

  • 磁気コアメモリを使用する。
  • 命令セットを限定する。
    • 除算や浮動小数点演算は用意せず、サブルーチンを使用する。
  • 可能な限りハードウェアを論理的機能で置き換える。
    • 演算回路を持たず、コアメモリ上にテーブルを用意する。
  • 高価な入出力部は必要最小限とする。
    • パンチカードではなく紙テープを基本とする。
    • プリンタは使わず、コンソールのタイプライタを使用する。

内部コードネームは CADETとされた。"Computer with ADvanced Economic Technology"(先進の経済的技術によるコンピュータ)の略であるという者もいるが、同時期に開発された IBM 1401 のコードネームが SPACE であったことから Space Cadet(宇宙飛行訓練生)の連想ではないかという者もいる。

プロトタイプ

チームにはさらに Anne Deckman、Kelly B. Day、William Florac、James Brenza が加わった。CADET のプロトタイプは1959年春に完成した。

一方、カリフォルニア州サンノゼでも同種の提案書に関して作業が行われていた。IBMは両者を競わせ、ポキプシーの案が採用されることとなった。採用理由は「サンノゼ版は完成形で拡張性がなく、ポキプシー版は各種拡張が可能。拡張できないマシンは推奨できない」ということであった。

IBM 1620 Model I Level A(プロトタイプ)

経営陣は磁気コアメモリをこのような小型マシンに収められるという点に確信を持てなかった。そこで代替案として磁気ドラムメモリの設計も並行して行われた。製品検査部門での受け入れ試験でコアメモリの障害が何度も発生し、経営陣の悪い予感が当たったように思われた。しかし、冷却用のファンに問題があってノイズが障害を起こしていたことが判明し、磁気コアメモリの問題は解決した。結局、その後何の問題も発生せず、磁気ドラムメモリの設計は不要となった。

サンノゼでの生産

1959年10月22日の IBM 1620 発表に続いて、IBM内部の組織改編の結果、IBM 1620 はポキプシーのデータ処理部門(大型メインフレーム部門)からサンノゼの汎用製品部門(小型コンピュータとサポート製品部門)に移管されることになった。

サンノゼに移管されると、CADET は "Can't Add, Doesn't Even Try"(足し算もできず、試してもみない)の略と冗談交じりに言われた。これはユーザーにも知れ渡ることとなった。

レベル毎の実装

  • モデルI
    • レベルA: プロトタイプ。このレベルだけが垂直な制御パネルである。サンノゼに移管された後で設計が変更され、角度のついた制御パネルになった。
    • レベルB: 最初の製品版。アルミニウムそのままのパネルを使用。後のバージョンは白く塗装された。
    • レベルC: パンチカードリーダーとパンチが導入された。
    • レベルD: ディスク装置が接続可能となった。そのための回路は新たなゲートJに格納された。
    • レベルE: 浮動小数点オプションが導入された。
    • レベルF:
    • レベルG: モデルII向けカードを使って回路がコンパクトになっている。そのため、ゲートJで構成されていた回路がゲートAとゲートBに収まるようになった。割り込みオプションを導入。
    • レベルH: 割り込みオプションを強化。
  • モデルII: (レベルに関する情報がない)
  • モデルIII: System/360に集中するため開発途中でキャンセルとなった。

関連特許

  • アメリカ合衆国特許第3,049,295号[※ 1] - Multiplying Computer
  • アメリカ合衆国特許第3,328,767号[※ 2] - Compact Data Lookup Table
  • アメリカ合衆国特許第3,199,085号[※ 3] - Computer with Table Lookup Arithmetic Unit Feature
  • アメリカ合衆国特許第3,239,654号[※ 4] - Dividing Computer

  1. ^ Zannos, Susan (2002). Edward Roberts and the Story of the Personal Computer. Mitchell Lane Publishers. p. 19. ISBN 978-1-58415-118-0  Oklahoma State University had an IBM 1620 for engineering students in the 1960s.
  2. ^ Ornstein, Severo (2002). Computing in the Middle Ages: A View from the Trenches 1955-1983. Lexington, KY: 1st Books. p. 62. ISBN 978-1-4033-1517-5 
  3. ^ Dijkstra archive at the University of Texas
  4. ^ IBM Systems Reference Library – 1620 FORTRAN (with FORMAT) pp. 51-56 (PDF)
  5. ^ IBM Systems Reference Library – IBM 1620 FORTRAN II Programming System Reference Manual pp. 22-28 (PDF)
  6. ^ http://hissa.nist.gov/mlists/ibm1620/199901/19990128-2.html
  7. ^ http://www.bitsavers.org/pdf/ibm/1620/
  8. ^ Personal recollections of Donald N. Huff, son of Vearl N. Huff
  9. ^ Spicer, Dag (July-Sept. 2005), “The IBM 1620 Restoration Project”, IEEE Annals of the History of Computing 27 (3): 33–43., doi:10.1109/MAHC.2005.46 


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