量子群 直観的意味

量子群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/22 09:04 UTC 版)

直観的意味

量子群の発見は全く予想されていなかった、というのも、長い間、コンパクト群や半単純リー環は「堅い」対象である、言い換えると、「変形」(deform) できないと思われていたからだ。量子群の背後にある思想の1つは、ある意味で同値だがより大きい構造、すなわち群環普遍包絡環を考えれば、群あるいは包絡環は「変形」できる(変形すると群や包絡環ではなくなるが)ということである。正確には、変形は可換とも余可換とも限らないホップ代数の圏において達成される。変形した対象を、アラン・コンヌ (Alain Connes) の非可換幾何の意味での「非可換空間」上の関数の代数として考えることができる。しかしながら、この直観は、Leningrad School (Ludwig Faddeev, Leon Takhtajan, Evgenii Sklyanin, Nicolai Reshetikhin and Vladimir Korepin) と、Japanese School による関連した研究によって発展された、量子ヤン・バクスター方程式英語版量子逆散乱法英語版の研究において、量子群の特定のクラスが有用性を既に証明された後に来た[1]。量子群の第二の双クロス積英語版のクラスの背後にある直観は異なり、量子重力へのアプローチとして自己双対な対象の研究から来た[2]

ドリンフェルト・神保型の量子群

一般に「量子群」と呼ばれる対象の1つのタイプはホップ代数の圏において半単純リー環あるいはより一般にカッツ・ムーディ代数普遍包絡環の変形としてウラジーミル・ドリンフェルトと神保道夫の研究において現れた。結果の代数は付加構造を持っており、準三角ホップ代数英語版となる。

A = (aij) をカッツ・ムーディ代数のカルタン行列とし、q を 0 でも 1 でもない複素数とする。このとき量子群 Uq(G), ただし G はカルタン行列が A であるリー環、は以下の生成元と関係式により定まる単位的結合代数として定義される。生成元は、kλ(ただし λ はウェイト格子の元、つまり 2(λ, αi)/(αi, αi) はすべての i に対して整数)、ei, fi単純ルート αi に対して)。関係式は

  • 4つの A3 のコピーをつなぐ点状ホップ代数の一般ディンキン図形
  • 2002年、H.-J. Schneider と N. Andruskiewitsch[3]は、とくに上記の Uq(g) の有限商として、(素数 2, 3, 5, 7 を除いて)余根基がアーベル群の点状ホップ代数の長年に渡る分類の努力を終えた。通常の半単純リー環のときと同じようにそれらは E たち(ボレルパート)と双対の F たちと K たち(カルタン部分環)に分解する:
有限次元ニコルス代数に付随するランク 3 のディンキン図形
  • 決定的な材料は従って、I. Heckenberger[4] による一般ディンキン図形のことばによるアーベル群に対する有限ニコルス代数の分類英語版であった。小さい素数の場合には、三角形のようなエキゾチックな例が起こる(ランク 3 のディンキン図形の図も参照)。
  • その間、Schneider と Heckenberger[5] は、(有限次元の仮定なしに)Kharcheko によってアーベルな場合に証明されたように算術的なルート系の存在を非可換な場合にも一般に証明しPBW基底英語版を生成した。これは最近特別な場合 Uq(g) に使うことができ[6]、例えばこれらの量子群のある種の余イデアル部分代数とリー代数 gワイル群の位数との数値的な一致を説明する。

コンパクト行列量子群

S.L. Woronowicz英語版 はコンパクト行列量子群を導入した。コンパクト行列量子群はその上の「連続関数」がC*の元によって与えられるような抽象的構造である。コンパクト行列量子群の幾何学は非可換幾何学の特別な場合である。

コンパクトハウスドルフ位相空間上の複素数値連続関数の全体は可換C*環をなす。ゲルファントの定理英語版により、可換C*環はあるコンパクトハウスドルフ位相空間上の複素数値連続関数のC*環に同型であり、その位相空間はC*環によって同相の違いを除いて一意的に決定される。

コンパクト位相群 G に対し、C*環の準同型写像

Δ: C(G)C(G)C(G)

(ただし C(G)C(G) はC*環のテンソル積、つまり、C(G) と C(G) の代数的なテンソル積の完備化)であって、すべての fC(G) とすべての x, yG に対して Δ(f)(x, y) = f(xy)(ただしすべての f, gC(G) とすべての x, yG に対して (fg)(x, y) = f(x)g(y))であるものが存在する。また、乗法的な線型写像

κ: C(G)C(G)

であって、すべての fC(G) とすべての xG に対して κ(f)(x) = f(x−1) となるものが存在する。これは G が有限でない限り真に C(G) をホップ代数にはしない。一方、G の有限次元表現はホップ *-代数でもある C(G) の *-部分代数を生成するのに使うことができる。具体的には、Gn 次元表現であれば、すべての i, j に対して uijC(G) であり

である。すべての i, j に対する uij とすべての i, j に対する κ(uij) によって生成された * 代数はホップ * 代数であることが従う:余単位はすべての i, j に対して ε(uij) = δij(ただし δijクロネッカーのデルタ)によって決定され、antipode は κ で、単位は

によって与えられる。

一般化として、コンパクト行列量子群は対 (C, fu) として定義される、ただし C は C* 代数で、C の元を成分に持つ行列であって以下を満たす。

  • u の要素によって生成される C の * 部分代数 C0C において稠密である。
  • 余積 Δ: CCC(ただし CC は C* 代数のテンソル積、つまり CC の代数的テンソル積の完備化)と呼ばれる C* 代数準同型であってすべての i, j に対して
を満たすものが存在する。
  • 次のような線型反乗法的写像 κ: C0C0(余逆射)が存在する:すべての vC0 に対して κ(κ(v*)*) = v, および
ただし IC の単位元。κ は反乗法的なので、C0 のすべての元 v, w に対して κ(vw) = κ(w) κ(v) である。

連続性の結果として、C 上の余積は余結合的である。

一般に、C は双代数ではなく、C0 はホップ *-環である。

インフォーマルには、C はコンパクト行列量子群上の複素数値連続関数の *-環と見なすことができ、u はコンパクト行列量子群の有限次元表現と見なすことができる。

コンパクト行列量子群の表現はホップ * 代数の余表現によって与えられる(余ユニタリ余結合的余代数 A の余表現は成分が A の正方行列 (よって v は M(n, A) に属する)であってすべての i, j に対して

ですべての i, j に対して ε(vij) = δij となるものである)。さらに、表現 vv の行列がユニタリであるとき(あるいは同じことだがすべての i, j に対して κ(vij) = v*ij であるとき)ユニタリと呼ばれる。

コンパクト行列量子群の例は SUμ(2) である、ただしパラメーター μ は正の実数である。なので SUμ(2) = (C(SUμ(2)), u) である、ただし C(SUμ(2)) は以下を満たす α と γ によって生成された C* 代数である:

また、

よって余積は Δ(α) = α ⊗ α − γ ⊗ γ*, Δ(γ) = α ⊗ γ + γ ⊗ α* によって決定され、余逆は κ(α) = α*, κ(γ) = −μ−1γ, κ(γ*) = −μγ*, κ(α*) = α によって決定される。u は表現であるがユニタリ表現ではないことに注意。u はユニタリ表現

と同値である。

同値であるが、SUμ(2) = (C(SUμ(2)), w) である、ただし C(SUμ(2)) は以下を満たす α と β によって生成される C* 代数である:

また

よって余積は Δ(α) = α ⊗ α − μβ ⊗ β*, Δ(β) = α ⊗ β + β ⊗ α* によって決定され、余逆は κ(α) = α*, κ(β) = −μ−1β, κ(β*) = −μβ*, κ(α*) = α によって決定される。w はユニタリ表現であることに注意。2つの実現は方程式 によって同一視できる。

μ = 1 のとき、SUμ(2) は具体的なコンパクト群 SU(2) 上の関数の代数 C(SU(2)) に等しい。


  1. ^ Schwiebert, Christian (1994), Generalized quantum inverse scattering, pp. 12237, arXiv:hep-th/9412237v3, Bibcode1994hep.th...12237S 
  2. ^ Majid, Shahn (1988), “Hopf algebras for physics at the Planck scale”, Classical and Quantum Gravity 5 (12): 1587–1607, Bibcode1988CQGra...5.1587M, doi:10.1088/0264-9381/5/12/010 
  3. ^ Andruskiewitsch, Schneider: Pointed Hopf algebras, New directions in Hopf algebras, 1–68, Math. Sci. Res. Inst. Publ., 43, Cambridge Univ. Press, Cambridge, 2002.
  4. ^ Heckenberger: Nichols algebras of diagonal type and arithmetic root systems, Habilitation thesis 2005.
  5. ^ Heckenberger, Schneider: Root system and Weyl gruppoid for Nichols algebras, 2008.
  6. ^ Heckenberger, Schneider: Right coideal subalgebras of Nichols algebras and the Duflo order of the Weyl grupoid, 2009.





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