船体 船体線図

船体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/11 15:34 UTC 版)

船体線図

船体線図の構成
3方向から見た船型を3枚の図面で示す(色は説明を見やすくするために付けた。)[4]

水面下の船体の形は船型(せんけい)と呼ばれ、流体力学的に最適の船型が求められる。船型を表す図面は船体線図(せんたいせんず、Lines)と呼ばれ、正面正図(Body Plan)、側面図(縦裁線図、Sheer Plan)、水線面図(半幅平面図、Half Breadth Plan、Water Line)の3方向から見た図で示される。正面正図では右側に最大船幅より前側の形状を示し、左側には後側の形状を示すのが普通である。船体線図はいくつかに区切りられた図面であり、これを3次元的に拡大しても曲面にはならない。3次元的な曲面にする作業はフェアリングと呼ばれ、近年ではコンピュータ上で行なえるようになっている[5]

船体規模

船舶はその大きさがトン数によって示される。トン数による表記には大きく分けて、船体そのものの重量を示すものと船体内部の容積を示すものとがある。

トンとは酒樽のことであり、トン数で船の大きさを示すのは、15世紀におけるイギリスでは酒樽によって商船が課税されていたことに由来する。トン数と課税には関係が深く、現代でも船への課税は船の大きさを示すトン数を基準に行なわれるため、船主にとっては課税計算に使われるトン数は出来るだけ小さいほうが経済的である。

たとえば、日本では政府の政策としてトラック輸送を陸路ではなくフェリーによる海上交通へ誘導したいために、課税のもとに使われる「国内総トン数」の計算ルールを車輌デッキを2層備えるRORO船では特に小さくしているため、こういった日本国内のフェリー船が海外へ売却されたとたんに総トン数が倍にもなる場合がある。

載貨能力

多くの貨物船では貨物の積載能力を重量、または容積で表す。

  • 重量:載貨重量トン
  • 容積:立方フィート、または立方メートル

運搬する対象に特化した貨物船では、それぞれの貨物をいくつ運べるかで船の大きさを表現する方法も一般に用いられる。

  • コンテナ船では運べる最大のコンテナ数を20フィートISOコンテナの数であるTEU(Twenty Feet Equivalent Unit)という単位で表す。
  • LNG船は備えるタンクの合計容量を138,000m3のように立方メートルで表す。
  • 自動車専用船では乗用車が何台積載できるかで表す。

重量

船舶としての規模を示す場合には貨物などを積まない状態での船体の重量を示す「軽荷重量」と、貨物、乗客、飲料水、燃料などすべての搭載可能な貨物の総重量を示す「載可重量」がある。

軽荷重量と載可重量を足せば満載排水量になる。船体側面の喫水付近にはその船の設計された満載排水量での喫水高が「満載喫水線円環」や「満載喫水線」[6]として明示されている。水の密度は水温や塩分濃度で変わるため、場所ごとに数種類の喫水が記号で表示されている。

容積

船舶の容積は、総トン数、純トン数、責任トン数、パナマ運河トン数、スエズ運河トン数、載貨容積トン数などがある。

長さ

船の長さ

船の長さを表すには、いくつかの異なった方法がある。

全長(LOA、Length over all)
最も簡単に船首の先端から船尾後端までの長さ
水線長(LWL、length waterline)
満載喫水線での船体前後の長さ
登録長(Registered length)
上甲板の下面における船首材前面から船尾材後面までの水平距離
垂線間長(英国式=LPP、米国式=LBP、Length between perpendiculars)
満載喫水線における船首材前端(前部垂線)から舵柱もしくは舵頭材の中心(後部垂線)までの距離 垂線長とも呼ばれる

船の幅、深さ、喫水

船の幅を表すのにもいくつかの方法がある。

最大幅(Breadth extreme)
船体の最も幅のある部分での長さ
型幅(Molded breadth)
左右の外板の内側同士の距離の最大のもの、つまり船の内側の最大幅
登録幅(Registered breadth)
数値としては型幅と同じ 型幅が造船用語であるのに対して、登録幅は法律用語として使用される。

型幅と型深さと言う「型」が付く呼び方は、古典的な造船方法での竜骨や肋骨等の骨材を組み立てた後で外板を張っていった時代の名残りの測り方といえる。

深さ

近海以上を航行する船舶に付けられる満載喫水線円環
満載喫水線の表示
喫水(きっすい、Draft)
水面から船底の最下端までの垂直距離であり、水の密度や船の重量によって変化する。「吃水」とも書き、船脚(ふなあし)とも呼ばれる。
型深さ(Molded depth)
垂線間長(LPP)の中央部で舷側において基線、つまりキール(竜骨)の上面から上甲板の下面までの垂直距離。

船体中央部舷側に満載喫水線マーク(満載喫水線標、フリーボードマーク、乾舷標)を付け、船首などに喫水表示を付ける。

船型

上記以外に世界各地を航行するとき利用する国際運河海峡などの規模により制限されることもあり、以下に主な船型制限値を記す。

運河などによる船型制限値
名称 全長 全幅 喫水 最大高 備考
226.0m
24.0m
7.92m
35.5m
セントローレンス海路(北米五大湖)における制限値
294.1m
32.3m
12.0m
57.91m
ニューパナマックス
336.0m
49.0m
15.2m
59.91m
2016年6月26日以降運用開始の新運河のみ航行可能制限
ほかにポストパナマックス、ネオ〜、オーバー〜とも表記されるが
いずれもパナマックス制限超過の意味合いが強い
77.5m
20.1m
68.0m
閘門のため全長制限は無
全幅、喫水は制限最大値
幅、喫水の制限値は比例して変わる
333.0m
60.0m
20.5m
海峡のため高さ制限は無
チャイナマックス
360.0m
65.0m
24.0m
中国の主要貨物ターミナル港で運用できる制限

船体形状の係数

1.方形肥痩係数 2.柱形肥痩係数 3.中央横裁面係数 4.水線面積係数

船型によって細長い船体や太い船体といった違いがある。これらの違いは以下の係数によって数値的に表現される。

方形肥痩係数
排水容積 V と、喫水 d を高さとし、水線部分の船体幅 B と船体長さ L で構成された直方体との体積比を「方形肥痩係数」(Block coefficient, Cb)と呼ぶ。
柱形肥痩係数
排水容積 V と、最大横裁面積を船体長さ L で乗じた直柱体との体積比を「柱形肥痩係数」(Prismatic coefficient, Cp)と呼ぶ。
中央横裁面係数
喫水線以下の中央横裁面の面積とこれに外接する矩形の面積 B × d との比を「中央横裁面係数」(Midship section coefficient)と呼ぶ。
水線面積係数
喫水線で囲まれた水線内の面積 Aw とこれに外接する矩形の面積 L × B との比を「水線面積係数」(Waterplane coefficient, Cw)と呼ぶ[4]

  1. ^ a b Oxford Lexico, hull.[1].The main body of a ship or other vessel, including the bottom, sides, and deck but not the masts, superstructure, rigging, engines, and other fittings. .
  2. ^ パーソナルウォータクラフトを含む船底がV字型の小型艇は、スキー二輪車のコーナリングと同様に船体を内傾させて旋回する
  3. ^ 土屋孟、「こんなところに複合材料:歴史編―II.FRP漁船の開発史」 『日本複合材料学会誌』 2003年 29巻 4号 p.129-135, doi:10.6089/jscm.29.129, 日本複合材料学会
  4. ^ a b 泉江三著 『日本の戦艦 上』 グランプリ出版 2001年4月20日初版発行 ISBN 487687221X
  5. ^ 池田良穂著 「図解雑学 船のしくみ」 ナツメ社 2006年5月10日初版発行 ISBN 4-8163-4090-4
  6. ^ a b 池田宗雄著 「船舶知識のABC」 成山堂書店 第2版 ISBN 4-425-91040-0
  7. ^ 恵美洋彦著 「Illustrations of Hull Structures」 成山堂書店 2006年11月28日初版発行 ISBN 4-425-71381-8
  8. ^ 佐藤忠著 「セメント船を造ろう」 パワー社 2001年9月25日発行 ISBN 4-8277-2277-3
  9. ^ 吉識恒夫著 「造船技術の進展」 成山堂書店 2007年10月8日初版発行 ISBN 978-4-425-30321-2
  10. ^ 池田良穂著 『内航客船とカーフェリー』 成山堂書店 平成20年7月18日新訂初版発行 ISBN 9784425770724





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