細胞壁 細胞壁の概要

細胞壁

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/01 18:35 UTC 版)

原核細胞の構造。下から、Bacterial Flagellum:細菌鞭毛、Capsule:莢膜、Cell wall:細胞壁、Plasma membrane:細胞膜、Nucleoid(en: Circular DNA):核様体、Ribosomes:リボソーム、Cytoplasm:細胞質、Pilus:性繊毛
  • 植物では、細胞壁を形成する物質はセルロースグルコース(ブドウ糖)がいくつもつながって出来ている糖鎖)である。他にも、リグニンペクチンのようなものもある。細胞壁は、二重構造(一次壁・二次壁)になっていてたえず成長を繰り返している。細胞壁の主な役割は、防御(細胞膜から内側を守る)、改築・補強、物質補給、細胞間連絡、影響感知細胞である。また細胞壁の分子間は微細ではないため、水・ナトリウムイオン・カリウムイオンなどを容易に通す。通常、植物細胞は緑色をしているが、木などは茶色をしている。これは細胞壁がリグニンによって木化したためで、通常の細胞壁よりも硬い。

植物の細胞壁

植物細胞の模式図。細胞壁は緑で描写されている。
細胞壁により境界されている植物細胞

植物の細胞壁は、その構成が細胞の生長とともに変化する。細胞壁で分けられるべき細胞の相は以下の2点である。

  • 生長中の柔細胞
  • 生長期終了後の材(ざい)

この2つの細胞壁の成分はほぼ同じである。だが、構成成分の比率がそれぞれ異なっている。細胞壁は細胞の形状や大きさを決定しているものであるが、生長を必要としない材に至ると、より強固な構造を必要とするようになる。

生長中の細胞壁は一次細胞壁(いちじ-)という薄い細胞壁からなる。また細胞と細胞の間には中層(ちゅうそう)と呼ばれる層が確認できる。生長終了後の細胞は一次細胞壁の内側に二次細胞壁(にじ-)という2、3層からなる細胞壁を形成する。また一次細胞壁および中層ではリグニンが沈着し、細胞壁を構成する繊維(微繊維、後述する)を強固に密着させて物理化学的強度を向上させる。

セルロース

一次細胞壁および二次細胞壁の主要な構成成分はセルロースである。セルロースとはd-グルコースがβ(1→4)結合で分枝無くつながっている糖鎖である。グルコースの数はおよそ2000-15000個ほどと言われている。セルロースの構成する細胞壁繊維は以下の構造的段階を示している。

  1. セルロース分子:グルコース約5,000個のポリマー
  2. 結晶性ミセル:セルロース分子が約40本、水素結合でまとまっている構造体、直径5nm
  3. 微繊維(びせんい):結晶性ミセルが数個集まった構造、直径30nm

この微繊維の集合体が細胞壁である。微繊維間には空隙が存在する。

  • ミセル間隙(-かんげき):幅1nm
  • 微繊維間隙:幅10nm

この空隙には非セルロース系多糖類、ヘミセルロースマトリクスが満たされており、微繊維間の構造的強度を高めている。

多くの被子植物の細胞壁はタイプIと呼ばれ、セルロースとキシログルカンが多く、ペクチン、アラビノキシラン、グルコマンナン、ガラクログルコマンナンなどが含まれている。一方で、単子葉類イネ目の細胞壁はタイプIIと呼ばれ、セルロースとキシラン、1,3-1,4-β-D-グルカンが多く、ペクチンやキシログルカンが少ない。また、タイプIでは様々な糖タンパク質が構造タンパク質として細胞壁の強化などの役割を果たしているが、タイプIIではタンパク質含量が低く、代わりにフェノール酸の架橋がその役割を果たしている[2]

細胞壁には酵素が含まれている。これらの酵素は細胞膜外にでているために細胞外酵素として扱われる。これらの酵素は主に細胞壁の構築や物質の取り込みに関係していることが知られている。

菌類の細胞壁

菌類の細胞壁の構成材料は主に糖類であり、すべての菌類に共通するのはグルコースで、ガラクトースとマンノースは菌類の細胞壁に豊富だが、変形菌には存在せず、アクラシスや変形菌でのみ関連したグルコサミンが見られる[3]。菌類の細胞壁の多糖類の組成によって化学的に8種に分類できる可能性があるとされ、酵母を含め、細胞壁の糖組成は分類学上重要な指標とされた[4]

キチンは、菌類の細胞壁に特徴的である[3]。キチンはN-アセチルグルコサミンの重合体(ポリマー)である[4]。だがグルカンの方が豊富で、これはグルコースに結合した形のセルロースである[3]。酵母では、細胞壁の80-90%がグルカン、マンナンなどの多糖類となる[4]

細胞壁は、キチン、多糖類、タンパク質からなり、いくつかの層となって構成されている[4]。セルロースを持つ場合もあるとの記述は卵菌などのものである。卵菌は1980年の『ウェブスター菌類概論』にも菌類として掲載されている。現在ではストラメノパイルに属する。

細胞壁の構成は、群によってやや異なる。子嚢菌や担子菌では、一般にキチン-グルカンを主成分としていることが知られる。接合菌ではキトサン-キチン、また酵母ではマンナン-グルカンやマンナン-キチンという組成も知られる[5]

細胞壁の化学種[3][4][5]
セルロース-グリコーゲン アクラシス目 (Acrasiales)
セルロース-グルカン 卵菌 (Oomyeetes)
セルロース-キチン サカゲカビ (Hyphochytridiomycetes)
キトサン-キチン 接合菌 (Zygomyeetes)
キチン-グルカン ツボカビ (Chytridiomycetes)
真正子嚢菌綱 (Euascomycetes)
真正担子菌 (Homobasidiomycetes)
不完全菌 (Deuteromycetes)
マンナン-グルカン 酵母細胞
マンナン-キチン 酵母
ポリガラクトサミン-ガラクタン トリコミケス (Trichomycetes)

  1. ^ 動物細胞には存在しない。
  2. ^ 細胞壁”. BotanyWEB. Takeshi Nakayama. 2018年5月26日閲覧。
  3. ^ a b c d José Ruiz-Herrera (1991). Fungal Cell Wall: Structure, Synthesis, and Assembly. CRC Press. p. 9-11. https://books.google.co.jp/books?id=GgFOHp-tiF4C&lpg=PA9&pg=PA9#v=onepage 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 鈴木健一朗、平石明、横田明 『微生物の分類・同定実験法』丸善出版、2001年、97-99頁。ISBN 978-4-621-06330-9https://books.google.co.jp/books?id=4euMRx3TqD0C&lpg=PA97&pg=PA97#v=onepage 
  5. ^ a b ジョン・ウェブスター/椿啓介、三浦宏一郎、山本昌木訳、『ウェブスター菌類概論』(1985年)、講談社。58-59頁。
  6. ^ a b c d e 加来久敏 『植物病原細菌学』養賢堂、2016年、20-22頁。ISBN 978-4-8425-0553-4 


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