石油ストーブ 概要

石油ストーブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/06 07:18 UTC 版)

概要

油を気化させて発生した気化ガスを燃焼させ、その燃焼熱(エネルギー)を利用して加熱し、暖をとる装置である。器具の構造によって異なるが、上部にやかんを載せて湯を沸かしたり、鍋物などを煮炊きが可能な製品もある[注 1][注 2][注 3]

「石油…」と一般に呼ばれるが、石油(原油)を直接燃料にするわけではない。厳密には「灯油ストーブ」と呼ばれるべきではあるが、灯油は石油からしか分離・製造できないため、「灯油=石油」とみなされて、この呼称が一般化している。

全てのストーブは必ず「水平な場所で使用する」よう指示されており、段差・傾斜・凹凸のある床面に置くと耐震自動消火装置が誤作動したり、灯油漏れなどによる火災事故のおそれがある(かつては全てのストーブに「水平器」が設けられていたが、現行モデルでは廃止)。移動・持ち運びは(万一転倒しストーブ本体が倒れた場合の火災・やけど・灯油漏れを防ぐため)必ず手動消火し本体が十分冷えてから行う(転宅などのため遠隔地へ石油ストーブを運ぶ場合、振動や揺れで内部の灯油が漏れて周囲が汚れたり火災事故となるのを防ぐため・必ず乾電池を外したうえでタンクと油受け皿内の灯油を抜いて空焼きし、運搬時は丈夫な保護シートを敷く)。

ポータブル石油ストーブは(石油ファンヒーター同様)室内の空気を用いて燃やす「開放燃焼式」なので、1時間に1度以上定期的に換気する必要がある[注 4]。時計・タイマー・一定時間が過ぎると強制消火する機能は非搭載なので、就寝時や部屋を無人にする時は火災事故防止のため必ず手動消火する。またストーブを衣類乾燥に用いると、干された衣類が上昇気流によりストーブの天板や前面に落下し火災事故に至る危険がある。加えてスプレー缶をストーブの上や前に置くと、熱で缶内の圧力が膨張し、爆発火災事故を引き起こす。

灯油は「今シーズン中に在庫を使い切り、翌シーズンの使い初めに新規購入する」よう取説で指示されており、昨シーズンより持ち越した灯油は変質灯油となりストーブを故障させるおそれがある(灯油入りポリタンクおよび金属タンクは直射日光や雨水が当たらず・かつ火の気のない冷暗所に保管し、空気や灯油以外の不純物と混じって品質低下を招かないよう、給油時以外はタンクの蓋を必ず閉めておく)。万一水などの不純物がストーブ内に混入・付着した場合は「芯とカートリッジタンクの交換」が必要となる場合がある。シーズンオフで長期保管する場合、「カートリッジタンクまたは本体タンク内に残っている灯油を必ず使い切り、油受け皿内にある灯油も『芯の空焼きクリーニング』によって完全に燃やしきる」よう指示されており、タンク内に灯油を残したまま長期保管すると「変質灯油」になり、翌シーズン使用開始時にストーブを故障させるおそれがある(保管時はストーブ本体の外観も掃除したうえで購入時の箱に入れる、または当該機種の本体サイズに合ったポリ袋・布カバーいずれかを本体へかぶせるなどして埃が付着しないようにし、直射日光・高温・火の気・雨水を避けられる場所へしまう)。

水など灯油以外の液体を入れていたポリタンクを灯油用へ転用する行為は、ストーブを故障させるおそれがあるので厳禁。灯油など他の種類の油より気化しやすく、静電気でも引火の危険があるガソリンは、消防法の規定により「専用の金属携行缶に入れて保管する」よう義務付けられており、携行缶以外へのガソリン保管は、気化による火災事故の危険があるため厳禁。ストーブをはじめとする全ての石油燃焼機器に、ガソリンを誤給油すると爆発火災が起きる[注 5])。

(下記のような一部の商品を除いて)点火は乾電池を動力源としており、フィラメント点火ヒーター式は単1型2本使用・高圧放電式は単2型4本使用(アルカリ乾電池を推奨)となっている(機種によっては、消火時に乾電池駆動のモーターで臭いを除去する機能も併載。他機器で使用した乾電池を流用すると点火しにくくなる場合があるため、「シーズン初めに新品乾電池使用」を推奨。シーズンオフで長期保管する場合、乾電池を入れたままにしておくと液漏れして本体や電池ケースを腐食させたり、不意の点火による火災事故につながりかねないので必ず外しておく)。

現行モデルはヒーター切れの心配がなく1回の操作で確実に着火する「高圧放電点火式」が主流となっており、従来型フィラメント点火ヒーターを用いる機種生産は(需要が減少傾向にあるため)縮小が進んでいる(フィラメント式の場合・芯が摩耗すると新品アルカリ乾電池使用時でも点火しにくくなり、乾電池および点火ヒーターの消耗を早めることがある)[注 6][注 7]

トヨトミは、反射式&対流式石油ストーブと石油コンロの現行モデルを(単2アルカリ乾電池を4本用いる)高圧放電点火式へ一本化し、(単1乾電池を2本用いる)従来型フィラメント点火式機種は生産を完全終了(トヨトミ純正点火ヒーターは交換用途に絞って生産・販売を継続)。点火ボタン・レバーは廃止され、芯調節つまみを回転式は「点火」位置まで時計回りに回しきると・上下式は下いっぱいの位置まで下げきるとそれぞれ放電音がして芯に着火する方式に統一された。乾電池不要の手回し発電点火機種「RS-Gシリーズ」は、芯調節つまみを時計回りに「点火」位置まで回しきったのち・手回し発電式点火ハンドルを引き出して左右いずれかに毎秒1〜2回転させれば放電音がして芯に着火する。


注釈

  1. ^ 1995年製造物責任法(PL法)施行以後に発売された製品には、地震等でやかんや鍋が揺れて火傷や吹きこぼれによる故障などにつながるおそれがあるため、製品本体のラベルや説明書に「ストーブ上にやかんや鍋をのせて使わないこと」などの表示がなされるようになった。
  2. ^ PL法の関係もあり、現在の石油ファンヒーターでは煮炊きは不可能になっている。ただしかつてはごく少数ではあるが「ウォームトップ式」と呼ばれ、同様のことが可能な石油ファンヒーターも存在した。
  3. ^ そのような使い方を想定したコンロのような石油ストーブも存在する(石油火鉢などと呼称されている)。
  4. ^ ポータブル石油ストーブは石油ファンヒータと異なり「自動電源切」機能がなく・途中で手動消火しない限り灯油が完全に無くなるまで無制限に燃焼し続けるので、地下室および結露水が凍結して窓を開けられない部屋での使用は一酸化炭素中毒の危険がある。また酸素が薄くなる標高1,500m以上の地域では、不完全燃焼による一酸化炭素中毒の危険があるため石油・ガス燃焼機器類の使用不可。
  5. ^ 不純物が混入した不良燃料は必ず「購入先の販売店・ガソリンスタンド・所轄消防署へ依頼し適切に処分してもらう」よう定められており、側溝・下水道・森林・河川・海洋への投棄は「下水道法」・「水質汚濁防止法」・「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海洋汚染防止法)」で禁じられている。ただ、耕作の盛んな地域では可燃ごみ焼却や野焼きの補助燃料として燃やして処分してしまうことが多い(ただし、多くの都道府県条例でこの行為は制限されている)。
  6. ^ かつての石油ストーブは、点火ボタンを押して点火ヒーターを出すと「燃焼筒を傾けて着火の有無を確認」する方式だった。(ヒーター切れがない)高圧放電点火式が大半を占める現行モデルは、一部機種を除き燃焼筒を傾けない「静止点火(従来型フィラメント点火ヒーター機種もヒーター部のみを動かす)方式」に統一されている(静止点火への統一により「点火ボタンを戻した時に脱線し据わりが悪くなった燃焼筒が芯を踏み異常燃焼する」現象が防げる。ヒーター切れなどで電池点火が使えないためマッチ点火する場合は、前面ガードを開いたのち従来通り手動で燃焼筒を傾けマッチの火を芯に近づける。着火後は燃焼筒を元に戻して前面ガードを閉じ、燃焼筒手前に付いているつまみを2〜3回左右に動かして「確実に据わり芯を踏んでいないか」確認。電池点火時に燃焼筒を傾ける現行機種は、フィラメント点火ヒーター使用対流式ストーブ「コロナSL-6619/5119」のみ)。着火後も点火ボタンを押して放電を続けていると煤が出て異常燃焼する他、乾電池の消耗を早め・フィラメントヒーター機種では点火ヒーターが断線することがある。
  7. ^ 従来型フィラメント点火ヒーターの場合、芯が摩耗すると着火に適した位置がずれて点火しにくくなるので電池の消耗が早まり、加えて長年使用しているうちに煤やごみが詰まるなどしてヒーター可動部や点火扉の動きが悪くなってくるため、定期的な「ヒーターの着火最適位置調整」が必要となる(専門店への依頼を推奨。位置調整を誤ると点火しにくくなったりヒーター可動部が破損することがあり、特に点火ボタンとヒーターが元の位置へ戻った時に点火扉が閉じなかったり、ヒーターが点火扉に引っかかると異常燃焼のおそれがある。石油ストーブの芯は点火ヒーターまたはプラグ近接部を周囲より約5mm下げた切り欠き部を設けて着火しやすくしており、フィラメント点火式ストーブでは芯が摩耗し切り欠き部が小さくなると点火しにくくなる)。高圧放電式はヒーター位置調整が不要で、かつ点火扉がなく可動部も少ない静止点火方式なので、芯が摩耗しても1回の操作で確実に着火し故障が少ない。
  8. ^ トヨトミの上位機種は芯が摩耗しても最大火力を維持でき・かつ着火最適位置がずれず点火しやすい「でるでる芯」を採用しており、芯調節つまみを最大位置にしても火力が弱い時はレバー操作で芯の底上げが可能(最大レベルまで底上げしても火力が回復しなかったり点火しにくくなった場合は芯を交換する)。
  9. ^ 着火時のみ乾電池による電気火花(スパーク点火という)で着火するものが主流になりつつある(トヨトミはこの方式を「Ponpa=ポンパ」と呼称)。以前はニクロム線による電熱着火がほとんどだった。電池切れの際にはマッチライターで点火できる。なお2011年3月に発生した東日本大震災の影響で一時的に乾電池が品薄になった経緯を生かし、2012年9月にトヨトミが業界で初めて手回し発電機を搭載し点火時に必要な乾電池を不要にした機種を発売(2020年12月時点では反射型のRS-G240とRS-G300、対流型のRB-G250の3機種)。手回し発電機付は2020年12月時点でトヨトミのみである。
  10. ^ コロナのカートリッジタンクは蓋を従来のねじ式から「つまみで固定するばね式」に統一し、蓋がきちんと閉まったか否かを目視で確認できる「カラーサイン」を採用(蓋が正しく固定されれば「青」が出る。つまみを手前に引けば蓋が瞬時に全開。蓋は軸となる片側を常にタンク本体へ固定する「落ちない灯油蓋」)。従来型ねじ式蓋を採用しているトヨトミも、蓋の周囲に樹脂製グリップを装着した「楽2(らくらく)ロック」を搭載し、蓋がきちんと閉まったか否かは「カチカチ」という音と手応えで確認できるようになっている。なおカートリッジタンクの蓋をきちんと閉めている・および灯油が空の状態でも残りの灯油が垂れる場合があり、ストーブ天板が熱くなっている場合は灯油が飛び散りやけどのおそれがあるので「外したカートリッジタンクはストーブ天板の真上を通過させない」よう指示されている。
  11. ^ 手動消火後にタンクを抜いた時も芯調節つまみは「緊急消火」位置になり、耐震自動消火装置が作動した状態となる。再点火時は芯調節つまみを時計回りいっぱいに回せば「カチカチ」と音がする形で耐震自動消火装置がセットされ再使用が可能となる(灯油を満たしたタンクが正しく据わり給油サインが赤色以外の表示になっていないと、ロック機構が作動し芯調節つまみを回せない)。タンク内蔵機種は耐震自動消火装置セットレバーが独立して設けられ、このレバーを押し下げないとロック機構が作動し芯調節つまみを回せない。
  12. ^ ただし、この「レーザーバーナー」はポット式の燃焼機構の発展形である。詳細は石油ファンヒーター#ポット式を参照
  13. ^ サンポットは2017-2018シーズンまでロータリー式を使用してきたが、2018-2019モデルからは「レーザーバーナー」の特許を購入し「ハイブリッドバーナー」の名称で製造・販売している。
  14. ^ a b 2022年4月、長府製作所に吸収合併。

出典

  1. ^ サンポット2018-2019版石油ストーブカタログ。PDF版
  2. ^ a b c 名古屋税関管内における“石油ストーブ”の輸出 名古屋税関調査統計課、2020年4月18日閲覧。
  3. ^ a b 暖房器具による事故の防止について 製品評価技術基盤機構
  4. ^ 誤使用による死亡事故、最多は石油ストーブ
  5. ^ 爆発事故の例
  6. ^ 日本の住宅の平均寿命
  7. ^ [1]






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