次元解析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/13 09:05 UTC 版)
物理的な関係を表す数式においては、両辺や各項の次元が一致しなくてはならない。この規則を逆に利用すると、既知の量を組み合わせ、求めたい未知の物理量の次元に一致するように式を立てれば、それは正しい関係式になっている可能性が高い。
次元解析を用いると、一般解を得ることが困難な(ときには不可能な)現象に対して、物理量間の関係を推測することができる。また、ミスの防止にも役立つ。
次元一致の原理
数式の左右両辺の各項の次元が等しい式は次元的に健全[1]または次元的に斉一(homogeneous)[2]であると呼ばれる。物理法則に基いて理論的に導かれる理論式は次元的に健全であり、次元的に健全な式のみ物理では意味があると考える。すなわち物理現象を支配する物理方程式の各項の次元は次元的に健全でなければならない。この原理を次元一致の原理(principle of dimensional consistency)という[3]。
数学的表現
物理量Q がn 個の物理量xi によって決定されるとき、それらの関係を表す式
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概要
前提として、与えられた基本単位は有理数体上のベクトル空間(物理次元ベクトル空間と呼ぶ)の基底であり、物理単位の積はベクトルの和で表され、べき乗はスカラー倍を表すとする。有次元の物理変数を必要な基本単位の指数の組で表す(現れない基本単位に対しては指数はゼロとする)。例えば、重力加速度g は(長さ÷時間2)の次元を持つ。したがってこれは基底(長さ,時間)に関してベクトル(1, -2)で表される。
物理的単位を物理的関係式の両辺で一致させることは、物理次元ベクトル空間で線形従属性を課すこととみなすことができる。
正式な証明
有次元の物理変数n 個で表される系を考える。基本単位はk 種類とする。次元行列 M ∈ Rk×n を(i , j )成分がj 番目の物理変数のi 番目の基本単位の指数である行列とする。例えば
は物理変数 q1a1, q2a2, …, qnan の次元行列である。
無次元量は単位のべきが全てゼロとなる(すなわち次元がない)組み合わせであり、次元行列の零空間に相当する。無次元変数は有次元変数間の単位の線型結合である。
階数・退化次数公式により、k 個の(必要な)次元を持つn 個のベクトルから成る系は関係のp (= n - k )-次元空間を満足する。任意の基底の選択はp 個の無次元数の要素を持つ。
無次元変数は(分母を払うことで)いつも有次元変数の整数の組み合わせになるように取られる。不自然な有次元数の選択が数学的にはある。いくつかの無次元変数の選択は物理的により意味があり、理想的に使われるものがある。
- ^ 化学工学会 編『化学工学』(3版)槇書店、2006年、6頁。ISBN 4-8375-0690-9。
- ^ 大野克嗣『非線形な世界』東京大学出版会、2009年。ISBN 978-4-13-063352-9。
- ^ 五十嵐保; 杉山均『流体工学と伝熱工学のための次元解析活用法』共立出版、2013年、6頁。ISBN 978-4-320-07189-6。
- ^ 白樫正高「次元解析再考」『長岡技術科学大学研究報告』第16巻、1994年、93-95頁、hdl:10649/479、2023年8月13日閲覧。
- ^ 山本鎮男、曽根彰・芦野隆一・守本晃『ダイナミカルシステムの数理 基礎』共立出版、1999年、242頁。ISBN 978-4-320-08125-3。
- ^ 大野克嗣『非線形な世界』東京大学出版会、2009年、165頁。ISBN 978-4-13-063352-9。
- ^ a b c d e 広瀬勉「次元解析への一視点-次元定数を媒介として-」『化学工学論文集』第4巻第4号、化学工学会、1978年、331-336頁、doi:10.1252/kakoronbunshu.4.331。
- ^ 五十嵐保; 杉山均『流体工学と伝熱工学のための次元解析活用法』共立出版、2013年、104頁。ISBN 978-4-320-07189-6。
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