時間結晶 時間結晶の概要

時間結晶

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/25 14:56 UTC 版)

普通の3次元結晶は空間的に繰り返しのパターンを持っているが、時間が経過しても不変である。時間結晶は時間に対しても自身を繰り返し、結晶を刻々と変化させる。時間結晶は非平衡物質の1つであるため熱平衡に達することはない。この物質の形態は2012年に提案され2017年に初めて観測された。この状態は環境から隔離することはできず[要出典]、非平衡状態の開放系である。

時間結晶のアイデアは2012年にノーベル賞受賞者マサチューセッツ工科大学教授のフランク・ウィルチェックにより最初に記述された。後により緻密な定義を作成した。これらは平衡状態で存在できないことが証明された[1]。次に2014年にクラクフヤグェウォ大学のKrzysztof Sachaは周期駆動の多体系における離散時間結晶の振る舞いを予測した[2]。2016年、カリフォルニア大学バークレー校のNorman Yaoらはスピン系において時間結晶を作り出すという別の手法を提案した。それよりクロストファー・モンローとMikhail Lukinは独立に自身の研究室でこれを確認した。どちらの実験も2017年にNatureで発表された。

歴史

ノーベル賞受賞者Frank Wilczek(Paris-Saclay大学)

空間時間結晶の着想は2012年にMITの教授でありノーベル賞受賞者であるフランク・ウィルチェックにより最初に提出された[3]

2013年、カリフォルニア大学バークレー校のナノエンジニアであるXiang Zhangと彼のチームは常に回転し続ける帯電したイオンの形態で時間結晶を作ることを提案した[4]

WilczekとZhangに応じて、フランス、グルノーブルにある欧州シンクロトロン放射光施設の理論家Patrick Brunoは、2013年に空間時間結晶が不可能であることを示すいくつかの論文を発表した。また、後に東京大学の押川正毅は時間結晶は基底状態では不可能であろうことを示した。さらに彼はあらゆる物質がその基底状態では非平衡状態に存在することができないことを暗に含んでいた[5][6]

その後の研究により時間並進対称性の破れのより正確な定義が進展し、これは最終的に平衡状態の量子時間結晶は不可能であるという"no-go" 証明英語版につながった[7][1]

平衡が成立しないという主張をかわす時間結晶を実現するものが後にいくつか提案された[8]クラクフヤギェヴォ大学のKrzysztof Sachaは周期的に駆動される極低温原子系の離散時間結晶の振る舞いを予測した[2]。後に行われた研究[9]では周期的に駆動される量子スピン系が同様の振る舞いを示すことが示唆されている。バークレーのNorman Yaoは時間結晶の異なるモデルを研究した[10]

Yaoの青写真はハーバード大学のMikhail Lukinのグループと[11]メリーランド大学クリストファー・モンローのグループの2つのグループにうまく使用された[12]

時間並進対称性

自然界における対称性は保存則に直接つながる。これはネーターの定理により精密に定式化されている[13]

時間並進対称性の基本的な考え方は時間の並進は物理法則には何の影響も及ぼさない、すなわち今適用される自然法則は過去でも同じであり今後もおなじであるだろうということである[14]。この対称性はエネルギー保存を意味している[15]

通常の結晶内の破れた対称性

図2. 普通の過程(N過程)とウムクラップ過程(U過程)。N過程は全フォノンの運動量を保存するが、U過程はフォノンの運動量を変化させる。

通常の結晶は壊れた並進対称性を示す。それらは空間的に繰り返しパターンを持ち、任意の並進もしくは回転の下では不変ではない。物理法則は任意の並進や回転により変化しないが、結晶の原子を固定すると結晶中の電子やその他の粒子の力学はそれが結晶に対してどのように動くかに依存し、粒子の運動量は結晶の原子と相互作用することで変わることができる(ウムクラップ過程など)[16]。しかし、擬運動量[17]は完全結晶内で保存されている。

時間結晶内の破れた対称性

時間結晶は時間並進対称性を破り、時間的に繰り返しパターンを持つようである。場もしくは粒子は、空間結晶と相互作用することで運動量を変えることができるように、時間結晶と相互作用することでエネルギーを変化させることがある。




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