応力 応力テンソル

応力

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/01 22:53 UTC 版)

応力テンソル

応力テンソルは、応力ベクトルの定め方の違いから、真応力テンソル・コーシー応力テンソル、公称応力テンソル・第1パイオラ・キルヒホッフ応力テンソル、第2パイオラ・キルヒホッフ応力テンソルの3種類が定義されておりいずれも(行列の形式で記述できる)2階のテンソルとなる。ただし、これらの応力テンソルに違いが生じるのは有限変形理論に基づいて物体の運動を記述した場合であり、材料力学応用力学で多用されている微小変位・微小変形の仮定の下では、これらの応力テンソルはすべて真応力テンソルに一致する。

真応力テンソル(微小変形理論における応力テンソル)を σ で表すものとすると、その成分は座標軸を x , y , z と定めた3次元デカルト座標の下では、

応力テンソルの座標変換

真応力はテンソル量であり、座標系によってその成分は変化することとなる。以下のように座標系を変換する。

2次元における一般的な応力状態
2次元における主応力面

平面応力状態では σz, τyz, τzx が 0 なので、主応力は以下の関係から求められる[11]

上式を展開するとλに関する2次方程式が得られ、これを解くと、平面応力状態での主応力 σ1, σ2 は次のようになる。

主軸の方向は次のようになる。

ここでθは、x 軸とσ1、σ2の主軸がなす角度である。

主せん断応力

あらゆる座標系の中で最大となるせん断応力を主せん断応力または最大せん断応力と呼ぶ。主せん断応力が働く面は、主軸に対して45°あるいは135°傾いた面となる。主せん断応力τ1、τ2、τ3 は、主応力σ1、σ2、σ3 より次式で求まる[11]

一般的に、主応力とは異なり、主せん断応力が働く面にはせん断応力だけでなく垂直応力も働く。

平衡方程式

外力F を受けて静的な釣り合い状態にある物体内部の任意の点では、その応力σは次の平衡方程式あるいはつりあい方程式を満たす[13]

あるいは次のような書き方もされる。

応力場σが平衡方程式と、表面力規定境界∂Rt における境界条件(コーシーの式)

を満たすとき、その応力場σを静的に許容な場という[14]

パイオラ・キルヒホッフ応力テンソル

真応力(コーシー応力)テンソルσと変形勾配テンソルF を用いて定義される次のテンソルをパイオラ・キルヒホッフ応力テンソル(Piola-Kirchhoff stress tensor)という[15]

第1パイオラ・キルヒホッフ応力テンソル
第2パイオラ・キルヒホッフ応力テンソル

真応力に関するコーシーの式は上述のとおり現配置での応力ベクトルt と法線ベクトルn で表されるが、パイオラ・キルヒホッフ応力テンソルを用いても類似の関係式が成り立つ。

ここで、

  • :基準配置の微小面の法線ベクトル
  • :現配置の微小面に作用している力を、基準配置の微小面の面積で割って定義される応力ベクトル
  • :現配置の微小面に作用している力を基準配置で求めなおし、それを基準配置の微小面の面積で割って定義される応力ベクトル

である。

仮想仕事の原理を適用する際には、これらの応力テンソルと共役な関係にあるひずみテンソルは以下のようになる。

  • コーシー応力 - アルマンシーひずみ
  • 第1パイオラ・キルヒホッフ応力 - 変形勾配
  • 第2パイオラ・キルヒホッフ応力 - グリーンひずみ

注釈

  1. ^ 連続体などの基礎仮定を満たすものとする。
  2. ^ cosα, cosβ, cosγは方向余弦である。
  3. ^ このことはコーシーの応力原理より導かれる。
  4. ^ モーメントのつり合い条件から対称性が保証されている応力テンソルは真応力テンソル(コーシー応力テンソル)と第2パイオラ・キルヒホッフテンソルのみであり、公称応力テンソル(第1パイオラ・キルヒホッフ応力テンソル)は必ずしも対称とはならない。

出典

  1. ^ 平凡社大百科事典、応力の項、「応力の大きさは単位面積に作用する内力のおおきさにより定義され、これを応力度あるいは応力強さともいうが、一般には応力度のことを単に応力と呼び・・・」第2巻、p.831、平凡社、1984年11月2日 初版
  2. ^ 福井コンピュータ. “応力度”. 建築用語大辞典. ウェブリオ株式会社. 2013年8月12日閲覧。ウェイバックマシンより)
  3. ^ 萩原芳彦 (2007年9月30日). “第5話 応力とは何”. 初学者のための材料力学四方山話. p. 3. 2011年12月25日閲覧。
  4. ^ 計量単位令 別表第一 項番23、応力、「一平方メートルにつき一ニュートンの応力」
  5. ^ 小林英男 & 轟章 2007, p. 29.
  6. ^ 渋谷陽二 2011, p. 66.
  7. ^ 「弾性力学」pp.8-9
  8. ^ 「弾性力学」pp.5-6
  9. ^ 「機械工学辞典」pp.567-568
  10. ^ 中村恒善 編 『建築構造力学 図説・演習Ⅰ』(2版)丸善、1994年、135頁。ISBN 4-621-03965-2 
  11. ^ a b c d e 「弾性力学」pp.10-15
  12. ^ 非線形CAE協会 編 『例題で学ぶ連続体力学』森北出版、2016年、66頁。ISBN 978-4-627-94821-1 
  13. ^ 野田直剛 et al. 1999, p. 18.
  14. ^ 渋谷陽二 2011, p. 34.
  15. ^ 渋谷陽二 2011, pp. 29–31.
  16. ^ 非線形CAE協会 編 『例題で学ぶ連続体力学』森北出版、2016年、70頁。ISBN 978-4-627-94821-1 
  17. ^ 非線形CAE協会 編 『例題で学ぶ連続体力学』森北出版、2016年、71頁。ISBN 978-4-627-94821-1 
  18. ^ a b c 「材料強度」pp.9-12
  19. ^ 大矢根守哉監修 『塑性加工学』(14版)養賢堂、1999年、76頁。ISBN 4-8425-0113-8 






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