子癇 疫学

子癇

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/26 16:09 UTC 版)

疫学

妊娠高血圧症候群患者の約1%にみられる。妊娠子癇が50%、分娩子癇と産褥子癇が50%程度である。先進国においては、分娩全体の0.05%に起こる。貧困層あるいは発展途上国ではさらに高い。子癇発作は未治療で放置すれば反復しやすい(重責発作)。反復することにより脳浮腫をきたし、致死的となる。途上国に於いては子癇による死亡率は高い。

鑑別疾患

妊婦の意識障害を起こす疾患を以下に列記する。

意識障害からの回復がおそい、麻痺などの神経学的な所見があるといった場合、子癇以外を考えるべきである。しかし、これらの疾患には子癇に続発して起きるものもあり、何より救命を優先して治療すべきである。治療の項に述べるように、本症は暗室にて絶対安静が必要であり、十分な痙攣発作再発予防策を取った上で動かすことが可能になるまではCTスキャンなどの方策は採りがたい。

合併症

脳血管疾患

妊娠中の脳出血はまれな疾患であるが、その多くの割合が子癇に続発するものである。アメリカにおける疫学調査では、全妊娠中で脳出血を起こす危険度は10万対で7.1(=0.0071%)であるが、その3~4割が子癇や妊娠高血圧腎症に続発するものであり、オッズ比で言えば10倍にもなる[3]。フランス[4]、タイ[5]等の疫学調査の結果も同様であった。

また、妊娠中の脳梗塞の発生率は10万対で4.3だが、その4割もやはり子癇や妊娠高血圧腎症に続発するものである[4]。また一過性盲が見られ、一過性脳虚血発作も起きているものと考えられる[6]

従って、子癇と診断された患者に後になって脳出血が発見されたとしても、それのみを以って誤診と決め付けることはできない。こうしたことから、

  • マグネシウムに反応しない
  • 意識障害が遷延する
  • 巣症状を認める

などの症状を呈した患者にはCT撮影を推奨した研究もある[7][8]。 しかし疫学の節で述べた子癇の発生率から逆に計算すれば、子癇発作の中でも脳出血に発展する確率は1%にも満たない。前述の通り、子癇発作の直後は体動や光などわずかな刺激で再度の痙攣発作を誘発し、生命に関わる。そのため子癇の状況で、特別脳出血を疑う所見がない限り頭部CTなどは原則として撮ることはない。

治療

子癇の治療の目標としては、痙攣の制御、低酸素血症の補正、高血圧の管理、分娩の管理である。


  1. ^ https://minds.jcqhc.or.jp/n/cq/D0003276 “妊娠高血圧症候群の診療指針 2015”. 公益財団法人日本医療機能評価機構 (原典は日本妊娠高血圧学会). 2019年6月25日閲覧。
  2. ^ https://minds.jcqhc.or.jp/n/cq/D0003276 “妊娠高血圧症候群の診療指針 2015”. 公益財団法人日本医療機能評価機構 (原典は日本妊娠高血圧学会). 2019年6月25日閲覧。
  3. ^ Bateman BT, Schumacher HC, Bushnell CD, Pile-Spellman J, Simpson LL, Sacco RL, Berman MF. "Intracerebral hemorrhage in pregnancy: frequency, risk factors, and outcome." Neurology. 2006 Aug 8;67(3):424-9. PMID 16894102
  4. ^ a b Sharshar T. "Incidence and causes of strokes associated with pregnancy and puerperium. A study in public hospitals of Ile de France. Stroke in Pregnancy Study Group." Stroke. 1995 Jun;26(6):930-6. PMID 7762040
  5. ^ Chinayon P. "Clinical management and outcome of eclampsia at Rajavithi Hospital." J Med Assoc Thai. 1998 Aug;81(8):579-85. PMID 9737110
  6. ^ Zeeman GG; Fleckenstein JL; Twickler DM; Cunningham FG Cerebral infarction in eclampsia. Am J Obstet Gynecol 2004 Mar;190(3):714-20. PMID 15042004
  7. ^ Akan H, Kucuk M, Bolat O, Selcuk MB, Tunali G. "The diagnostic value of cranial computed tomography in complicated eclampsia." J Belge Radiol. 1993 Oct;76(5):304-6. PMID 8119869
  8. ^ Witlin AG, Friedman SA, Egerman RS, Frangieh AY, Sibai BM. " Cerebrovascular disorders complicating pregnancy--beyond eclampsia." Am J Obstet Gynecol. 1997 Jun;176(6):1139-45; discussion 1145-8. PMID 9215166
  9. ^ Sibai BM. Magnesium sulfate prophylaxis in preeclampsia: Lessons learned from recent trials. Am J Obstet Gynecol 2004 Jun;190(6):1520-6. PMID 15284724
  10. ^ Sibai BM. "Diagnosis, prevention, and management of eclampsia." Obstet Gynecol. 2005 Feb;105(2):402-10. Review. PMID 15684172


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