ミラーレス一眼カメラ ミラーレス一眼カメラの概要

ミラーレス一眼カメラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/02 23:58 UTC 版)

世界初のミラーレス一眼カメラ
パナソニック LUMIX DMC-G1

ミラーレス一眼の呼称は、従来の一眼レフカメラと比較して、撮影用レンズの入射光を光学式ファインダーに導くための反射ミラーが存在しないことに由来する。ミラーレス式カメラミラーレス機ミラーレスなどとも称される。市場では画質・表現力が同等のデジタル一眼レフカメラとひとくくりに分類され、デジタル一眼カメラまたはレンズ交換式カメラという表現を用いるメーカーや販売店、価格比較サイトも見られる。ミラーレス一眼レフは誤用。

メーカーによってはあえてミラーレスと呼称せず、独自の名称を使用しているメーカーも存在していた[注釈 1]

CIPAは、統計上の呼称として、ミラーレス一眼の他に、コンパクトシステムカメラ、レンズ交換式レンジファインダーカメラ、カメラユニット交換式カメラなどが含まれた総称として「ノンレフレックス」を使用していた[1]が、2019年より「ミラーレス」に変更している[2]

ミラーレス一眼カメラ、APS-Cセンサー搭載機は小型で軽量。

概要

厳密な定義はないが、2013年時点では「レンズ交換が可能なデジタル一眼レフカメラから、光学式ファインダー(レフレックスファインダー)に関係する構造を除くことで小型軽量化を図ったもの」と認知されているが[3][4]、「レンズ交換が可能なコンパクトデジタルカメラ」と考えることもできる。光学式ファインダーの代わりに電子ビューファインダーを内蔵したもの、液晶ディスプレイをファインダーとして使用するもの、電子ビューファインダーが着脱可能なものなどが存在する。イメージセンサーは、フルサイズ、コンパクトデジタルカメラと同サイズの1/2.3型から、4/3型(フォーサーズ)サイズ、APS-Cサイズなど、メーカーによってさまざまなサイズのセンサーのカメラが販売されている。

そもそも一眼レフカメラは撮影画像とファインダー画像を一致させるために発明されたものであり、撮影用レンズを通った光をフィルムの手前に置いたミラーで反射させ、その光を光学式ファインダーに導くことで実現した。この機構はフィルムカメラ時代には複雑高価であったが、デジタルカメラにおいてはイメージセンサーで捉えた画像を電子式ファインダーに表示するだけで同じことを簡単に実現できるため、光学式ファインダーを省くことで小型軽量化を実現する新形式のレンズ交換式デジタルカメラが開発・商品化され、一眼レフカメラのデジタル化の中で派生した形式として「ミラーレス一眼」と称されると、重くて大きなカメラは持ち歩きたくないが綺麗な写真が撮りたい、という顧客層を中心に受け入れられた。

歴史

一眼レフカメラをデジタル化する試みは1986年頃から始まった。当時は既存のフィルム式一眼レフのオプション品として、フィルムバックにイメージセンサーを取り付けた形で提供されていた[5]が、1991年に世界初のデジタル一眼レフカメラ、コダックプロフェッショナルデジタルカメラシステムDCS100が発売された。これはフィルム式一眼レフニコンF3をベースに130万画素のCCDセンサーを搭載したものであった[6]。その後、フィルムカメラが市場から駆逐されデジタルカメラがカメラ市場の主流となる中でデジタル一眼レフの低価格化が進み、デジタルカメラ市場における一眼レフの割合は台数ベースで1割、金額ベースで3割を占めるまでになった(2010年3月、日本市場)[7]。しかし、外観・構造においては基本的にフィルム時代の一眼レフと変わらない状態が続いた。

その中で、デジタル一眼レフ市場で劣勢に立たされていたフォーサーズ陣営が巻き返しを図って新たに「マイクロフォーサーズシステム」規格を策定し、2008年8月5日に発表した[8]。これはレンズ交換式でありながら、ライブビュー専用規格としてミラーボックスを持たない構造(ミラーレス)とすることでフランジバックを約半分まで縮めたもので[9]、光学式ファインダーを省いたこのミラーレス機は、様々な点で一眼レフ機とは異なるレンズ交換式カメラの新形式である。1か月後の2008年9月12日にはパナソニックが世界初のミラーレス一眼「LUMIX DMC-G1」を発表、10月31日から発売が開始され[10]、その後オリンパスからもミラーレス一眼が発売された。ミラーレス機はイメージセンサーを常に動作させ続けなければならないため、その発熱や消費電力が問題となる。最初のミラーレス機がフォーサーズ陣営から登場した背景としては、ライブビューやコントラスト検出AFを前提とした低消費電力のイメージセンサーが2006年の時点ですでに実用化されていたことが挙げられる[11][12]

その後両社のミラーレス機がいずれも売上を伸ばし、2010年上半期の日本市場においては、レンズ交換式カメラの中でミラーレス機の占める割合は台数ベースで20%前後に達した[13]。ミラーレス市場への他社の参入も見られ、サムスン電子が2010年2月からAPS-Cミラーレス機「NX10」を韓国や欧州などの市場で順次発売[14]ソニーもAPS-Cミラーレス機「NEX-5」「NEX-3」を2010年6月に発売すると[15]、日本市場においては、レンズ交換式カメラの中でミラーレス機の占める割合は台数ベースで32.5%に達した[13]

ミラーレス機の登場後、メーカー別シェアにも変化が表れ始めている。日本でのレンズ交換式カメラ市場は、2009年度でキヤノンが39.1%、ニコンが31.3%と旧来からのカメラメーカーが高いシェアを維持してきたが[16]、ミラーレス機の普及は市場に大きな変化をもたらしており、2011年秋にはペンタックスとニコンが、2012年秋には最大手のキヤノンが相次いで参入。2013年にはソニーが35ミリフルサイズの大型撮像素子を採用した「α7」を発売。後継機種の高機能化や交換レンズの整備に伴い、レンズ交換式一眼レフの市場で2強を占めていたキヤノンとニコンに食い込むまでにシェアを伸ばす[17]。2018年にはキヤノンとニコン両社もフルサイズ対応の新マウントによる新機種を開発。ライカと提携してフルサイズ対応機種を出したパナソニックも含め、プロユースの機種開発も一眼レフからミラーレスに転換している。

ミラーレス機の年間出荷台数は日本市場で2018年[18]、世界市場で2020年[19]一眼レフ機を逆転した。


注釈

  1. ^ ニコンはかつて、2011年発売のNikon 1シリーズをレンズ交換式アドバンストカメラと称していた。しかし、2018年のZシリーズ発表以降は、Nikon 1を含めミラーレスカメラと称している。
  2. ^ 一眼レフカメラの場合に、同じマウントのカメラに撮像素子が35mmフルサイズのものとAPS-Cサイズのものがあるのと同様である。例えば、ペンタックスQは、若干の撮像素子サイズの変更が可能とされる[20]
  3. ^ ライカTマウントはAPS-C撮像素子を採用したライカT発売時の名称。35ミリフルサイズ撮像素子を採用したライカSLの発売時に「ライカLマウント」と改称された[21][22]。通称として「ライカLマウント」と呼ばれていたレンジファインダーのライカスクリューマウントとは異なる。
  4. ^ シグマのオートフォーカス一眼レフと同一規格
  5. ^ 2021年時点でカメラボディは現行機としてメーカーのラインナップにあるが、メーカーはLマウントのシグマfp発売時にSAマウント機の開発終了を発表している。
  6. ^ フィルムカメラ時代からのKマウントがベースとなっているKAF2マウントを採用しており、ペンタックスのデジタル一眼レフと同一規格である。
  7. ^ Kマウントのミラーレスは1機種のみであるが、Kマウントの一眼レフは2021年も新機種(K-3 Mark iii)が発売された。
  8. ^ ニコンではCXフォーマットと称している。
  9. ^ 2010年のα33系、α55系以降。これ以降のAマウント機は全てトランスルーセントミラー方式である。

出典

  1. ^ 【CP+】CIPA、ミラーレスカメラなどの呼称を「ノンレフレックス」に」『デジカメWatch』、2012年2月9日。
  2. ^ 「ノンレフレックス」から「ミラーレス」カメラに。CIPAが呼称変更。」『Impress Watch』、2019年2月5日。
  3. ^ 価格.comマガジン ミラーレス一眼カメラ 徹底比較特集価格.com 2010年6月18日
  4. ^ さらば、一眼レフ 「ミラーレス機」の秘密日本経済新聞 2010年4月9日
  5. ^ DCS StoryNikon and Kodak DSLR history
  6. ^ Kodakの歴史 1990~1999Kodak
  7. ^ デジカメの回復顕著 画素数アップが需要を喚起週刊BCN 2010年04月26日
  8. ^ オリンパスイメージングと松下電器 フォーサーズシステム規格の拡張規格「マイクロフォーサーズシステム規格」を策定オリンパスイメージング株式会社 2008年8月5日
  9. ^ マイクロフォーサーズ|規格説明フォーサーズウェブサイト
  10. ^ 初のマイクロフォーサーズ搭載機「LUMIX DMC-G1」発表ASCII.jp 2008年9月12日
  11. ^ Olympus E-330 DSLR has live LCD and new sensor technologydpnow.com 2006年1月26日
  12. ^ 【インタビュー】オリンパスに聞く“マイクロフォーサーズ”の狙いデジカメWatch 2008年8月11日
  13. ^ a b 2010年上半期、デジタル一眼1位はニコン、ミラーレス好調で変化の兆しも BCNランキング 2010年7月8日
  14. ^ サムスン、「NX10」を韓国で23日に先行発売デジカメWatch 2010年1月28日
  15. ^ 世界最小・最軽量ボディを実現 レンズ交換式デジタルカメラなど 2機種発売 ソニー株式会社 2010年5月11日
  16. ^ 2009年1月~12月までの実売データBCN Award 2010
  17. ^ a b c d e 五輪のカメラに異変 ミラーレスに脚光、「新興勢力」が存在感:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2021年8月8日閲覧。
  18. ^ 2018年デジタルカメラ生産出荷実績表カメラ映像機器工業会
  19. ^ 2020年デジタルカメラ生産出荷実績表カメラ映像機器工業会
  20. ^ ““Auto110デジタル”じゃダメだ――「PENTAX Q」誕生秘話 (1/2)”. ITmedia デジカメプラス. http://camera.itmedia.co.jp/dc/articles/1108/16/news026.html 
  21. ^ ライカSL、その名の由来は? キーパーソンに現地インタビュー」『Impress デジカメWatch』、2015年11月4日。
  22. ^ 【フォトキナ】インタビュー:「Lマウントアライアンス」の経緯と今後 ライカ、パナソニック、シグマに聞く」『Impress デジカメWatch』、2018年10月2日。
  23. ^ 一眼レフが抱えるブレ問題、その深刻さが明らかに 電通大らが開発。1/60秒シャッターで実質解像度は1/4以下日経エレクトロニクス2009年5月4日号
  24. ^ ミラーレスカメラの特徴と仕組みミラーレス一眼.jp
  25. ^ 月刊アサヒカメラ2017年10月号186ページ
  26. ^ さらば、一眼レフ 「ミラーレス機」の秘密(1)日本経済新聞 2010年4月9日





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ミラーレス一眼カメラ」の関連用語

ミラーレス一眼カメラのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ミラーレス一眼カメラのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのミラーレス一眼カメラ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS