ヘイトクライム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/18 21:56 UTC 版)
ヘイトクライム関連法の問題点
アメリカ合衆国では、「ヘイトクライム判決強化法(1994年)[37]」が制定されているが、その制定過程の議論において、また運用後において問題点が指摘されている。
特定の行為を「ヘイトクライム」と定義することで、むしろ偏見が助長されるとみる識者も少なくない[38]。ヘイトクライム法案成立運動を「特定グループが自分のグループを利するための運動」、「特定グループを優遇するのは逆差別」と指摘されることがある[39]。
また、同じ窃盗罪でもヘイトクライムなら重刑になるというのは、刑法上のアファーマティブ・アクションになるという見方からアメリカ合衆国憲法修正第14条に含まれる平等保護の条項との関連を指摘する法学者も少なくない[40]。
1990年代の米国ニューヨーク市でおこった韓国系アメリカ人と黒人、黒人とユダヤ人との摩擦や暴動の事例では、ヘイトクライム厳罰法支持を訴えて市長に当選したディンキンズ(初のニューヨーク黒人市長であった)にとって試練となった。「相手が起こした事件はヘイトクライムであるのでヘイトクライム法に基づいて厳罰に処すべき」だと訴える声が後を絶たなくなり、実際は事実関係さえ整理できない「ののしり合い」や「いさかい」といった類のものが大半であった。結局この問題は1993年選挙の敗因の一つとなり、「ヘイトクライムに対するゼロ・トレランス(容赦なし)」の姿勢で挑んだディンキンズではなく、鬼の元連邦検事として立候補したジュリアーニの打ち出した、犯罪に対して徹底的に挑む「アンチ・クライム」というスタンスがニューヨーク市民に有効に働いたとされる[41]。
内野正幸はドイツやフランスのヘイトクライム立法に対し「本来自由であるべきだと思われるような表現行為に対してまで、適用される傾向」があると指摘している[42]。
憲法学者の長谷部恭男は、表現内容に基づくヘイトスピーチ規制には慎重に慎重を重ねる必要があるが、ヘイトクライムを重く処罰することは憲法学から見ても問題は少ないとした[43]。
注釈
- ^ 英: Ku Klux Klan Act
- ^ 英: federally protected activities
- ^ 英: Hate Crime Statistics Act of 1990
- ^ 英: Hate Crimes Sentencing Enhancement Act of 1994
- ^ 例えば過重暴行の場合、判決ガイドラインに定められた基本となる反則レベルは15だが、ヘイトクライムが認められた場合18となり、実際の判決も「禁固18カ月 - 24カ月」から「禁固27カ月 - 33カ月」と厳しくなる。
- ^ 英: Racial hatred offences。日本語訳については(元山(1988))
出典
- ^ [1] デジタル大辞泉 - コトバンク
- ^ a b ブリタニカ百科事典:ヘイトクライム (英語)
- ^ (新恵里 2001, p. 141)
- ^ “PUBLIC LAW 101-275—APR. 23, 1990” (PDF). 2015年11月閲覧。
- ^ a b c d e 前嶋和宏 2001.
- ^ “NYで線路に男性突き落とし殺害 女訴追、憎悪犯罪か”. 共同通信社. 47NEWS. (2012年12月30日) 2014年1月29日閲覧。
- ^ 米、ヘイトクライムで3人訴追 黒人学生を侮辱、暴行 47NEWS(よんななニュース) 2013年11月23日
- ^ Pat Buchanan Dis-Integrating America Townhall Aug 28, 2015
- ^ Ashley Fantz; Faith Karimi; Eliott C. McLaughlin (2016年6月13日). “Orlando shooting: 49 killed, shooter pledged ISIS allegiance”. CNN
- ^ “バイデン氏、アジア系標的のヘイトクライムを非難 「米国らしくない」”. AFP (2021年3月12日). 2021年3月14日閲覧。
- ^ いきなり顔を横一直線に切られ……急増するアジア系アメリカ人への暴力
- ^ a b c https://www.vogue.co.jp/change/article/celebrities-stop-asian-hate
- ^ 「全てのアジア人殺す」米でアジア系女性ら8人殺害2021/03/19 15:15テレ朝ニュース
- ^ “アジア系女性、突然蹴られ重傷 NY、ヘイトクライムか:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2021年11月3日閲覧。
- ^ “日本人女性を暴行した韓国人 差別的発言に韓国TVも「ピー音」だらけ”. ライブドアニュース. 2019年11月29日閲覧。
- ^ “"헌팅 거절하자 때려"…홍대 폭행사건 日여성, 법정서 '눈물'” (朝鮮語). news.naver.com. 2019年11月29日閲覧。
- ^ “韓国の「弘大日本人女性暴行」30代男性、拘束起訴”. 中央日報 - 韓国の最新ニュースを日本語でサービスします. 2019年11月29日閲覧。
- ^ 編集部. “韓国・日本人女性暴行事件、「チョッパリ!」に透ける韓国人の“根深い反日感情””. ビジネスジャーナル/Business Journal | ビジネスの本音に迫る. 2019年11月29日閲覧。
- ^ “韓国人の暴行事件に『ゴゴスマ』で武田邦彦が「日本男子も韓国女性が来たら暴行しなけりゃいかん」とヘイトクライム煽動 (2019年8月28日)”. エキサイトニュース. 2021年4月26日閲覧。
- ^ “朝鮮学校で「スパイの子」 “抗議行動”を告訴へ”. 47NEWS (2009年12月18日). 2009年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年4月26日閲覧。
- ^ 『世界』(7月号)中村一成「ヘイトクライムに抗して──ルポ・京都朝鮮第一初級学校襲撃事件」[リンク切れ]
- ^ “社説[障がい者施設殺傷]兆候は幾つも出ていた”. 沖縄タイムス. (2016年7月27日)
- ^ “相模原・障害者殺傷 ヘイトクライム許さない 「優生思想、尊厳抹殺の克服を」”. 東京新聞. (2016年7月16日)
- ^ 伊藤乾『京都アニ放火殺人の本質はヘイトクライム』(JP press 2019.7.30)[2]※学術博士(東京大学)
- ^ 伊藤乾 (2019年7月30日). “京都アニ放火殺人の本質はヘイトクライム (6/7)”. gooニュース. 日本ビジネスプレス. 2019年12月7日閲覧。
- ^ “京都・ウトロ放火は「ヘイトクライムの可能性」 市民団体が根絶目指し声明”. 京都新聞 (2021年12月15日). 2021年12月16日閲覧。
- ^ 18 U.S.Code§245
- ^ 元山(1988).
- ^ Anti-terrorism, Crime and Security Act 2001. Part5 Race and Religion. 40 Racial hatred offences: penalties In section 27(3) of the Public Order Act 1986 (c. 64) (penalties for racial hatred offences) for “two years” substitute “ seven years ”.(legislation.gov.uk)[3]
- ^ 日本国憲法における「表現の自由」の意義、梅山香代子
- ^ 山口厚『刑法総論』有斐閣、大谷實『新版 刑法講義総論』成文堂、裁判所職員総合研修所監修『刑法総論講義案』司法協会、大塚仁『刑法概説(総論)』有斐閣ほか刑法総論の基本書多数あり。
- ^ 東京新聞 (2013-3-29)「こちら特報部 欧州との違い 法規制なし」
- ^ 前田朗『ヘイト・クライム法研究の射程 人種差別撤廃委員会 第79会期情報の紹介』pp. 5-13 NAID 40019492803
- ^ 前田朗『ヘイト・クライム法研究の射程 人種差別撤廃委員会 第79会期情報の紹介』pp. 12-13 NAID 40019492803
- ^ ヘイト・スピーチ処罰は世界の常識である(前田朗Blog)を参照。
- ^ a b 第183回国会 参議院法務委員会 第7号 [4]
- ^ 英: Hate Crimes Sentencing Enhancement Act of 1994
- ^ ジェームス・ジェイコブス(ニューヨーク大学法科大学院教授)など
- ^ Jacobs and Potter,Hate Crimes
- ^ James Morsch,“The Problem of Motive in Hate Crimes: The Argument against Presumptions of Racial Motivation,” Journal of Criminal Law and Criminology 82 (1991) 659-96
- ^ (新恵里 2001)
- ^ 月刊機関紙『法と民主主義』435号(日本民主法律家協会、2009年1月)<刑事法の脱構築 1> 「人種差別の刑事規制について」
- ^ “憎悪の表現と法規制 ヘイトスピーチ 朝日新聞「報道と人権委員会」”. 朝日新聞: p. 朝刊12版9面. (2015年7月21日)
- 1 ヘイトクライムとは
- 2 ヘイトクライムの概要
- 3 概要
- 4 ヘイトクライム関連法の問題点
- 5 脚注
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