ファロー四徴症 ファロー四徴症の概要

ファロー四徴症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/28 23:28 UTC 版)

ファローは当時「ブルー病」と呼ばれたチアノーゼを伴う心臓病の心臓について調べ、論文「ブルー病の解剖病理への貢献」でブルー病が「少数の完全に明確な心臓奇形の結果」で「74%は次の四徴を示す」とのちに彼の名をとってファロー四徴症と呼ばれるものをあげた[注釈 1]

  • 肺動脈狭窄:肺動脈の入り口(漏斗部)が狭くなっている。(なお、肺動脈狭窄が閉鎖に至った場合は「極型ファロー四徴症」といわれる。)
  • 大動脈騎乗:大動脈の起始が左右の心室にまたがっている。
  • 心室中隔欠損:心室中隔に穴が開いている。
  • 右心室肥大:右心室の心筋が厚くなる。

また、当時はチアノーゼの原因として心臓の中隔欠損によるという説があったが、ファローは中隔欠損だけではチアノーゼが起きないと指摘し、さらにこの奇形と思われる症例は18世紀以来少なくとも50例以上文献に記載されている[注釈 2]とした[1]

ファローの四徴が一緒に起こる原因は発生の段階で肺動脈大動脈の2つを分ける動脈幹円錐中隔が前方に偏位することで連鎖的に生じたもの(病態を参照)であるが、厳密には「四徴」のうち、この症例に特徴的なチアノーゼ症状を引き起こしている本質要素は肺動脈狭窄と心室中隔欠損である[2]

病態

循環器の発生において肺動脈大動脈は最初は共通の動脈管として1つの脈管であるが、動脈管に隆起が生じそれが螺旋状に成長し動脈管中隔として2つの動脈を分ける、また心円錐でも左右を分ける円錐中隔が形成される。この2つの中隔が融合して動脈管円錐中隔として右室流出路と左室流出路を分ける。この中隔が前方に偏位したものがファロー四徴症である。動脈管円錐中隔の前方偏位により肺動脈が狭窄するとともに、その分だけ大動脈が拡張する(大動脈騎乗)。一方で動脈管円錐中隔が偏位のために心室側の洞部中隔が融合できないので心室中隔欠損を生じる。通常のアイゼンメンジャー化していない心室中隔欠損では左室圧の方が右室圧より高く、左右短絡(左右シャント)を生じ肺高血圧となるが、ファロー四徴症の場合は肺動脈狭窄があるために肺に血液が流れ込みにくく肺血流量は減少するとともに右室圧と左室圧が等しくなり、右左短絡(右左シャント)を生じ右心室からの静脈血が心室中隔欠損を通じて流れ込むのでチアノーゼが起きる。また、通常の心臓に比べると右室圧は高いので右室肥大を生じることになる。

(広義の)ファロー四徴症の約15%は22q11.2欠失症候群、約25%は右側大動脈弓(大動脈が正常と逆に右側に旋回して下降する)を合併し、また約15%は肺動脈閉鎖に至っている極型ファロー四徴症である[3]

なお、極型ファロー四徴症でない場合は出生時の右室流出路(肺動脈)狭窄は強くなく、心臓が発達するにつれ漏斗部の肥厚で狭窄が強くなるので生後数か月で徐々にチアノーゼが悪化していく[4]

臨床症状

チアノーゼも呈しているファロー四徴症成人患者のばち指
チアノーゼ出現の時期は重症度によって異なり、重症では出生直後、軽症では生後2・3か月、肺動脈狭窄が軽度の場合は右→左シャントが起こらずチアノーゼをきたさない場合もある(ピンクファロー[注釈 3][5]
  • 太鼓バチ状指(ばち指)
チアノーゼによる慢性的な低酸素症で手指の変形が起きる[6]
チアノーゼによる慢性的な低酸素症で起きる血中酸素濃度低下を補うために赤血球数が増加し(二次的)赤血球増加症が起きる。(長期にわたる組織の低酸素症を補うために、エリスロポエチンの産生が増加し、追加の酸素運搬赤血球も産生されるため。)
これによって血液粘性が極端に増加して血栓(血栓形成と脳卒中のリスク)が起きやすくなるうえ、赤血球数が多くてもヘマトクリット(MCV(Ht/RBC))が低下していれば生体にとっては貧血状態である[6]
  • しゃがみこみ:呼吸困難
歩行時、あるいは運動後に胸に膝をあてるようにしてしゃがみこむ(蹲踞)。こうすることにより、末梢血管(特に下肢)の抵抗が大きくなるため、肺への血流量が増加してある程度楽になる[7][6]
ファロー四徴症に限ったことではないが、シャントにより血流ジェットが起きていると心内膜に傷がつきそこに細菌感染を起こしやすい[6]
右→左シャントがあるので静脈系の塞栓子(血栓など)がシャント経由で体循環に流れ込み、脳や腎臓・四肢の動脈をふさいで塞栓を起したり、脳の場合は脳膿瘍を起こすこともある[6]。小児や若年成人でも脳梗塞を起こすことがある[8]



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