ヌルデ 人間との関わり

ヌルデ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/30 03:20 UTC 版)

人間との関わり

古来から日本の村里の人々の生活と深く関わり合いがある。葉にヌルデシロアブラムシ(ヌルデノミミフシアブラムシ)が寄生すると大きな虫癭(ちゅうえい)ができ[8][11]、中には黒紫色のアブラムシが多数詰まっている。この虫癭は五倍子(ごばいし)、または付子(ふし)といってタンニンが豊富に含まれており、これが腫れ物・歯痛の薬、皮なめしに用いられたり、黒色染料の原料になる[6][8][11]染め物では空五倍子色とよばれる伝統的な色をつくりだす。またインキや白髪染の原料になるほか、かつては既婚女性および18歳以上の未婚女性の習慣であったお歯黒にも用いられた[15]

ヌルデの果実は塩麩子(えんぶし)といい、下痢の薬として用いられた。この実はイカルなどの鳥が好んで食べる。

木材は色が白く材質が柔らかいことから、木彫の材料、木札、木箱などの細工物に利用される[15]。地方により、ヌルデ材は呪力を持った木として尊ばれ、病気や災い除けの護符の材として多く使われる[15][8]

日本ではふつう食用に用いないが、朝鮮では、春に出た若い葉を摘んで食用にするという[14]。果実は表面に酸味のある白い粉がついていて、秋遅くになると酸味が増し、信州長野県)では昔これを煮て塩の代用にしたと言うが、塩分は含まれていない[11]

五倍子

ヌルデの葉からは五倍子(ごばいし)あるいは付子(ふし)を得ることができた[18]。五倍子はヌルデの稚芽や葉柄がヌルデシロアブラムシにより刺激され、こぶ状に肥大化した虫癭(虫こぶ)である[15][10]中華人民共和国での生産量が最大で、インドでも採取される[11]。日本では瀬戸内海沿岸が多く[11]、工業用のタンニン酸製造の原料として、1938年頃には山口県三重県兵庫県などを中心に200tの五倍子が生産されていた。戦後は、中華人民共和国からの輸入品が急増して生産は激減している。主成分はペンタ-m-ジガロイル-β-グルコースという物質である[11]。大きさはさまざまであるが、多くは長さ6 - 8センチメートルほどで、不揃いに分枝した黄色を帯びた灰色の袋状の形をしている[11]。中にはアブラムシの死骸が残っていることもあり、これを取り除いて製品にする[11]

虫こぶは黒い染料に使われていて、白髪染めやお歯黒[19][10]腫れ物歯痛などに用いられた。江戸時代の家庭の医学書である『救民医学書』には「五倍子が疱瘡の薬」と記されており、疱瘡(天然痘)の治療に用いられた[8]

ただし、猛のあるトリカブトの根「附子」も「付子」[注 1]と書かれることがあるので、混同しないよう注意を要する。

文学

ヌルデは『万葉集』に詠まれた歌がある。

  • 足柄の 吾を可鶏山の かづの木の 吾をかつさねも かづさかずとも(詠人知らず)(『万葉集』巻一四)

花言葉は、「肉親の絆」「意外な思い」である[8]


注釈

  1. ^ トリカブトの方は「ぶし」または「ぶす」と読む。「付子」よりも「附子」の字を当てるのが多い。

出典

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus javanica L. var. chinensis (Mill.) T.Yamaz. ヌルデ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月13日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus javanica L. ヌルデ(広義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月13日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus semialata Murray ヌルデ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月13日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus chinensis Mill. ヌルデ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月13日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus javanica L. var. roxburghii auct. non (DC.) Rehder et E.H.Wilson ヌルデ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月13日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g 西田尚道監修 志村隆・平野勝男編 2009, p. 232.
  7. ^ a b c d e f g h i j 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 101
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 田中潔 2011, p. 21.
  9. ^ a b c d e 辻井達一 1995, p. 224.
  10. ^ a b c d e f g 亀田龍吉 2014, p. 41.
  11. ^ a b c d e f g h i j k 辻井達一 1995, p. 227.
  12. ^ シオノキ”. 大江町山里交流館 やまさぁーべ. 2024年4月5日閲覧。
  13. ^ a b c d 林将之 2008, p. 42.
  14. ^ a b 辻井達一 1995, p. 226.
  15. ^ a b c d e f g h i 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 248.
  16. ^ 林将之 2008, p. 40.
  17. ^ 辻井達一 1995, p. 225.
  18. ^ 五倍子』 - コトバンク
  19. ^ 伊藤清三、小野陽太郎「ごばいし 五倍古」『新版 林業百科事典』第2版第5刷 p252 日本林業技術協会 1984年(昭和59年)発行


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