スティーヴン・ウィルシャー スティーヴン・ウィルシャーの概要

スティーヴン・ウィルシャー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/04 01:27 UTC 版)

大英帝国勲章を受けたスティーヴン・ウィルシャー

1987年の「ドローイングス」をはじめとして複数の画集も出版している。2003年にはトゥイッケナムのオルレアン・ハウス・ギャラリーで回顧展が開かれた。

略歴

幼少期

ウィルシャーは1974年イギリスのロンドンに生まれた。両親は西インド諸島の人間である[1]。幼い頃は発音障害をかかえた無口な子であり、3歳のときに自閉症と診断された。またこの年には父親をバイク事故で亡くしている[1][3]。5歳のときに通わされたロンドンのクイーンスマイル・スクールで絵を書くことに興味を示し、コミュニケーションも美術を通じて行われるようになった。教師たちの奨励が助けともなり、ウィルシャーはこの頃に会話を覚えた[3]。8歳のときには想像力を働かせ地震が起こった後の街の風景を描いており、その2年後にはロンドンのランドマークを頭文字のアルファベット順にスケッチするということを繰り返した。ウィルシャーはこれを「ロンドン・アルファベット」と呼んでいる[2]

雨降りの午後のビッグベン(2008年)

1987年にはBBCのテレビ番組「The Foolish Wise Ones 」に出演し[2]、この頃すでに作品集も出版している[2]。その後1995年から1998年に卒業するまで、ランベスのケニントンにあるシティ・アンド・ギルド・ロンドン美術学校に通った[4]

映像記憶

かつてヘリコプターでロンドン上空をまわった後にロンドンの中心部全体を絵にしてみせたことがある[5]が、ウィルシャーは一度みたものは細部まで正確に絵に起こすことができる。

2005年5月には東京を俯瞰した記憶をもとにパノラマ的な32.8-フート (10.0 m)大の絵を描いている。これは過去最大の作品で、東京をヘリコプターで飛んだ直後に描かれたものである。同様の試みはローマ香港フランクフルトマドリードでも行われている[6]ドバイ[7][8]エルサレム[9][10]、ロンドン[11][12]などの都市も巨大なカンバスに再現された。ローマ上空をヘリコプターで飛んだときにはパンテオンの柱の数までわかる極めて精緻な絵を描いている[13]

2009年10月、ウィルシャーはパノラマ・シリーズの区切りとして、「こころの祖国」であるニューヨークの記憶を18-フート (5.5 m)大の絵として完成させた[14][15]。20分間のヘリコプター周遊の後、プラット・インスティテュートニュージャージー州マンハッタンウォール街エリス島自由の女神ブルックリンの景観を5日かけてスケッチしたものだ。まず絵を大まかに分節していき、それから細かく書き込んでいくイメージなのだという[16]。2010年にはシリーズを延長してシドニーを描き[17][18]、9月から上海を皮切りに中国へのツアーも行っている[19]

作品はしばしばオークションにもかけられる。2010年にはウィルシャー自身がバミューダ・ナショナルギャラリーを訪れてハミルトンを題材にした自分の作品を競売に出し、オークションハウスの記録を更新した[20]。2010年6月にはクリスティーズでも作品がオークションにかけられ、新たなアイコンともなる「夜のタイムズ・スクエア(Times Square at night )」が落札された[21]

2011年には記憶をもとにニューヨークを250フィート (76 m)のパノラマで描くというプロジェクトを行っており、作品はジョン・F・ケネディ国際空港に巨大なビルボードとして展示された。これはスイスのUBS銀行による「われわれはこのままでは終わらない(We Will Not Rest )[22]」をテーマにした国際的な広告キャンペーンの一環でもある[23][24]

顕彰

ウィルシャーはテレビのドュメンタリー番組で何度も取りあげられているが、神経学者のオリバー・サックスも「An Anthropologist on Mars[25]の「神童たち」の章でウィルシャーのことを書いている。

2008年2月15日にはABCニュースで「今週の人」に選ばれている[26]。翌年には初めてインデペンデント誌で詳細なインタビューが行われ、夢や希望、憧れや後悔などが語られている[27]

2006年の大英帝国勲章に続き、2009年6月からイギリスの「チルドレンズ・アート・デイ」の大使として活動するとともに、2011年には建築イラストレーター協会(SAI)の名誉会員になっている。

画集

  • スティーヴン・ウィルシャー画、ヒュー・カッソン著、ゆあさふみえ訳『ドローイングス』すえもりブックス、1993年
  • スティーヴン・ウィルシャー画、オリバー・サックス著、ゆあさふみえ訳『シティーズ』すえもりブックス、1993年

  1. ^ a b c Kirby, Terry (2006年1月4日). “Honour for autistic man who speaks through art”. The Independent (London). http://news.independent.co.uk/uk/this_britain/article336417.ece 2007年11月12日閲覧。 
  2. ^ a b c d Treffert, Darold. “Stephen Wiltshire - Prodigious Drawing Ability and Visual Memory”. Wisconsin Medical Society. 2007年11月7日閲覧。
  3. ^ a b Biography”. The Stephen Wiltshire Gallery. 2007年11月12日閲覧。
  4. ^ Education details at www.stephenwiltshire.co.uk
  5. ^ “Unlocking the brain's potential”. BBC News. (2001年3月10日). http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/1211299.stm 2007年11月8日閲覧。 
  6. ^ ADN - La memoria fotocopiadora de Stephen Wiltshire
  7. ^ "Inkredible man", Khaleej Times, 15 April 2008.
  8. ^ "UK Artist Stephen Wiltshire’s Giant Canvas on Display at DIFC", ePathram.com, April 2008.
  9. ^ A picture's worth at ynet.com
  10. ^ Painting a picture of Jerusalem, Haaretz
  11. ^ Wansell, Geoffery (2008年4月8日). “Revealed: How autistic genius Stephen Wiltshire drew his amazing picture of London's skyline”. Daily Mail. http://www.dailymail.co.uk/pages/live/articles/news/news.html?in_article_id=557942&in_page_id=1770 
  12. ^ Adams, Stephen (2008年4月2日). “Stephen Wiltshire, the human camera who drew London from memory”. The Daily Telegraph. http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2008/04/02/ncamera102.xml 
  13. ^ "Stephen el memorioso", El Pais, 5 February 2008. (in Spanish)
  14. ^ Dwyer, Jim (2009年10月28日). “Like a Skyline Is Etched in His Head”. The New York Times. http://www.nytimes.com/2009/10/28/nyregion/28about.html?_r=1 
  15. ^ “Autistic artist Stephen Wiltshire draws spellbinding 18ft picture of New York from memory... after a 20-minute helicopter ride over city”. Daily Mail (London). (2009年10月29日). http://www.dailymail.co.uk/news/article-1223790/Autistic-artist-draws-18ft-picture-New-York-skyline-memory.html 
  16. ^ Dwyer, Jim (2009年10月27日). “Like a Skyline Is Etched in His Head”. The New York Times. http://www.nytimes.com/2009/10/28/nyregion/28about.html?_r=1/ 
  17. ^ Stephen Wiltshire's Sydney project at his official website
  18. ^ Artist with a difference - Stephen Wiltshire in Sydney, Australian Broadcasting Company, 29 April 2010.
  19. ^ Article image, Shanghai Times (archived at his official website), 29 September 2010.
  20. ^ Article[出典無効], The Royal Gazette
  21. ^ A Star is Born
  22. ^ UBSの名誉回復は「行動にかかっている」”. swissinfo.ch. 2012年4月15日閲覧。
  23. ^ Television ad for UBS featuring Stephen Wiltshire
  24. ^ Elliott, Stuart (2011年5月12日). “This Billboard Could Draw Attention”. The New York Times. http://mediadecoder.blogs.nytimes.com/2011/05/12/this-billboard-could-draw-attention/ 
  25. ^ 吉田利子訳 (2001). 火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者. 早川書房. ISBN 415050251X 
  26. ^ "Stephen Wiltshire Person of the Week" ABC World News, 2008-02-15
  27. ^ The Independent - My secret life


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