シリコンアイランド シリコンアイランドの概要

シリコンアイランド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/18 08:26 UTC 版)

概要

NEC 256K DRAM(1989年)。1980年代後半、熊本川尻工場(現・ルネサス川尻工場)を主力とするNECはDRAMの世界シェア1位となり、シリコンアイランド・九州に数十社の協力企業を従えたが、2001年にDRAMから撤退。協力企業の多くは撤退・倒産し、ルネサスも経営悪化の末、2013年に事実上国有化される
ソニーのゲーム機・PS3に搭載されたCELL/B.E.(2005年)。2000年代以降、半導体メーカーが九州から次々と撤退・倒産する中、ソニーだけは工場を増設したが、CELLプロセッサの応用はPS3以外に広がらず、経営は厳しかった
Sony IMX503 イメージセンサー(2019年)。ソニーは2010年代以降、長崎TECでCELLの代わりに製造したCMOSイメージセンサーが各社のスマホに採用されて成功し、2020年代以降に工場をさらに増設。そのためシリコンアイランド・九州の復調の兆しがある

九州は日本の10%程度の経済規模を占めることから「1割経済」と呼ばれるが、半導体の経済規模が特に大きい。

九州は、半導体製造に必要な良質なが豊富、労働力や広い用地の確保が容易、各地に空港が整備されて製品の空輸が可能な事などの好条件が揃っており、1960年代末から大手メーカーによる半導体工場の設置が増加した[2]。それに伴って、半導体装置メーカーや半導体材料メーカーも九州に多く進出した。この結果として、大手メーカーの支援を受けた地元企業が半導体関連分野へ新規参入すると同時に、地元企業の製造技術・製品開発における能力を高め、1980年代には九州地域に「半導体クラスター」を形成するに至った[3]。そのため、1980年代に九州が「シリコンアイランド」と呼ばれるようになった。

日本製半導体の世界シェアが49%に達した最盛期である1990年とは違い、2021年現在の日本製半導体の世界シェアは6%である[4]

2000年代以降、パナソニックが半導体から撤退したり、東芝が主力を大分から四日市に移すなど、かつてシリコンアイランド九州を支えたソニー以外の大手メーカー各社が九州地方における半導体の生産を縮小し、代わりに自動車産業が隆盛したため、九州は「シリコンアイランド」ではなく「カーアイランド」と呼ばれていたが、ソニーだけは2005年から2006年にかけて国分TEC(鹿児島県国分市→2005年に合併して霧島市、現・鹿児島TEC)と熊本TEC(熊本県菊池郡菊陽町)に工場を増設するなど、九州地方に巨大な工場を次々と建てた。ソニーの半導体部門は2005年よりソニー長崎TEC(長崎県諫早市)で製造が開始された「Cell Broadband Engine」の失敗で大きな赤字を抱えた時期もあったが、スマホ向けイメージセンサーの製造で成功して2010年代に業績を急拡大し、そのため「シリコンアイランド九州」の復調の兆しがある。ソニーは2020年に長崎TECに新棟を増設するなどさらなる拡大を続けており、2021年現在、九州のICの金額ベースの国内シェアは43.7%と、過去最高となっている[5]。つまり、2010年代以降の九州地方の半導体生産はソニーが支えている。ソニーは日本随一の半導体メーカーとなっており、日本の半導体設計人材の70%がソニーの仕事をしているという[6]

2020年現在、九州最大の半導体メーカーはソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(熊本県菊陽町)で、売上高6123億円。2010年代後半にはスマートフォンのカメラなどに用いるイメージセンサーが好調で、年々と業績を伸ばしている[7]。ちなみに、九州売上高ランキングでは九州電力トヨタ自動車九州に次ぐ九州3位である。ファウンドリとして見た場合、2020年のMEMSファウンドリ売上高ランキングでサイレックス(スウェーデン)とテレダイン(アメリカ)に次ぐ世界3位である[8]。ソニーの半導体部門全体(ソニーセミコンダクタソリューションズ)として見た場合、2020年半導体ランキングではキオクシアに次ぐ日本2位・世界16位であるが、四半期レベルではキオクシアを上回ることもあり、例えば2019年Q3の半導体売上高ランキングでは日本1位・世界9位である[9]。スマホ向けイメージセンサーの製造は長崎TEC(諫早市)で、デジカメ向けイメージセンサーの製造は熊本TEC(菊陽町)で、MEMSの製造は鹿児島TEC(霧島市)で行われている。2021年には更なる業績拡大に向け、デンソー(車載電装品国内最大手)・台湾TSMC(半導体製造世界最大手)・日本政府と協同して、熊本TEC隣接地に8000億円程度の投資を行い、日本最先端である20nmプロセス級FABの建設を行う予定で、2025年の稼働を目指している[10]

純利益ランキングではソニーセミコンと同じ地区(セミコンテクノパーク)にある東京エレクトロン九州(熊本県合志市)が九州1位(2021年度は384億5600万円)で、2位のソニーセミコン(141億4800万円)を上回る。半導体製造装置と液晶パネル製造装置を製造している。世界各地に様々な半導体製造装置を輸出しているので、市況や経済摩擦などの影響を受けにくく、堅実な業績である[11]。2010年代後半より5GEVなどの普及を受けて業績が急拡大しており、九州の半導体製造装置の出荷額が急拡大している。

ルネサス セミコンダクタ マニュファクチュアリングも九州地方の半導体大手である。1990年代中頃に高画質ディスプレイのSFT液晶の製造で知られたNEC液晶テクノロジー鹿児島工場(旧・鹿児島日本電気、鹿児島県出水市、2009年閉鎖)や、かつては後工程で錦工場とともに主力だったルネサス福岡工場(旧・福岡日本電気、福岡県柳川市、2011年閉鎖)など閉鎖された工場もあるが、2021年現在、九州地方に川尻工場(熊本県熊本市)、大分工場(大分県中津市)、錦工場(熊本県球磨郡錦町)、の3つの工場が残っている。このうち、NEC川尻工場(旧・九州日本電気 熊本川尻工場)は1980年代には256K DRAMの量産工場として知られ、半導体で日本メーカーが初めて米国メーカーを抜いてトップとなった1985年から、Intelに抜かれる1991年までNECを半導体売上世界一に導くなど、東芝大分工場とともに1980年代から1990年代にかけてのDRAM王国・日本を支えた工場として知られるが、2001年にDRAMから撤退し、2021年現在は「車載半導体」と呼ばれる自動車向けの半導体などを主に製造している。

ジャパンセミコンダクター大分事業所(旧・東芝大分工場、大分県大分市)も九州地方の大手半導体製造工場である。旧・東芝大分工場は1984年に世界初の1M DRAMを製造し、1989年には東芝をNECに次ぐ半導体売上世界2位に導くなど、NEC川尻工場とともにDRAM王国・日本を支えた工場として知られるが、2021年現在は家電の省エネ化につながる「パワー半導体」などを主に製造している。

九州の産業構造

経済産業省「工業統計」によると、シリコンアイランド・九州における半導体の生産額は、自動車・食料品に次ぐ3位と言うのが平成時代における定位置となっている。例えば、半導体生産額日本一(2015年)の熊本県では、2011年の時点ではまだ電子機器が熊本県産業別収支で1位(2508億円)であったが、2015年時点においては出荷額ランキングでは輸送用機器が3775億円(構成比15.8%)と最も多くなり、次いで食料品13.4%、半導体などの電子部門は12.3%で3位となってしまった[12]

1990年代以降、車載半導体の増加とともに九州に自動車産業の進出が進み、2000年代以降には半導体産業の規模を遥かに上回っている。そのため、2000年代以降の九州は「シリコンアイランド」に代わって[要出典]カーアイランド」と呼ばれることが定着しつつある[13]

九州は1990年に農業産出額が2兆341億円のピークに達し、その後も平成時代にわたって2兆円近くをキープしているなど食料品の生産額が大きく、九州農政局では「食育アイランド九州」と言う呼称を提唱している[14]。半導体生産額日本一であると同時にトマトキクラゲなどの出荷額日本一でもある熊本県では、2009年の農地法改正後、半導体から野菜に転ずる例も多く、例えば液晶ディスプレイのカラーフィルターの管理をしていた旧・共栄精密熊本(現・共栄精密人吉きのこセンター)なども、2010年に半導体の製造からキクラゲの製造に転じた[15]

なお、半導体のクリーンルームで野菜の栽培を始める例は全国的に珍しくなく、大手では東芝横須賀事業所(東芝ライテック本社、2014年より「東芝クリーンルームファーム横須賀」としてレタスやホウレンソウを栽培)やパナソニック福島工場(2014年よりレタスを栽培)などの例がある。半導体からレタスの製造に転じた旧・富士通会津若松工場(2014年当時の社名は「会津若松Akisaiやさい工場」)によると、半導体用のクリーンルームは雑菌の繁殖が抑えられるので、野菜の製造がしやすいとのこと[16]


  1. ^ a b 山崎 2003, p. 317.
  2. ^ 九州電力 新たな産業の芽を生むシリコンアイランド九州”. 2011年11月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年8月5日閲覧。
  3. ^ a b c 山崎・岡野 2005, p. 1.
  4. ^ 日本の半導体ICの世界市場シェアがついに6%になった(津田建二) - 個人 - Yahoo!ニュース
  5. ^ 「九州シリコンアイランド」の絶対価値はいまだに高いのだ 電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
  6. ^ 今や日本の半導体設計人材の70%がソニーの仕事をしている電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
  7. ^ 100億円企業7年ぶり減 19年度、九州・沖縄689社 米中摩擦、増税など影響 熊本日日新聞
  8. ^ 2020年のMEMSサプライヤ売上高ランキングトップ30、日本勢は7社がランクインTECH+
  9. ^ 2019年Q3の半導体売上高ランキング、ソニーが9位に:CMOSイメージセンサーで浮上 - EE Times Japan
  10. ^ 台湾TSMC、熊本に半導体工場 雇用2000人、ソニーG・デンソー参加 時事ドットコム
  11. ^ 18-21レポートⅢ.ec8 - k_2020210_bouekimasatsu.pdf 公益財団法人 地方経済総合研究所
  12. ^ 「半導体立国」熊本県でも製品出荷額トップは自動車関連になった!! 電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
  13. ^ 福銀調査月報 2007年12 福岡銀行
  14. ^ 食育アイランド九州交流会 九州農政局
  15. ^ 企業の農業参入、熊本県内は200件超に 九州最多 熊本日日新聞社
  16. ^ レタスを作る半導体工場!? 植物工場は製造業を救う切り札になるのか:モノづくり最前線レポート - MONOist
  17. ^ 伊東 2000, p. 59.
  18. ^ a b 山崎 2003, p. 325.
  19. ^ 山崎 2003, p. 320.
  20. ^ a b 伊東 2000, p. 61.
  21. ^ 山崎 2003, p. 319.
  22. ^ 友澤 1989, p. 294.
  23. ^ a b 伊東 2000, p. 62.
  24. ^ a b c d 山崎・岡野 2005, p. 2.
  25. ^ a b 山崎・岡野 2005, p. 4.
  26. ^ 伊東 2000, p. 63.
  27. ^ 山崎 2003, p. 330.
  28. ^ 伊東 2000, p. 60.
  29. ^ a b c 主要産業の動向 九州半導体・エレクトロニクスイノベーション協議会
  30. ^ 山崎 2003, p. 321.
  31. ^ 山崎 2003, p. 323.
  32. ^ 山崎 2003, p. 326.
  33. ^ シリコンアイランド復活へ 九州に投資1兆円超見通し今後数年で 読売新聞オンライン
  34. ^ 国土庁 1999, p. 30
  35. ^ キオクシア 北上の2棟目製造棟着工 総投資額1兆円規模/岩手IBC NEWS


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