コンパクト空間 コンパクト化

コンパクト空間

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 03:23 UTC 版)

コンパクト化

位相空間Xコンパクト化とは X をコンパクトな位相空間に稠密に埋め込む操作を指す。コンパクトな空間は数学的に取り扱いやすい為、X をそのような空間に埋め込む事で X の性質を調べやすくする事ができる。コンパクトでない位相空間に一点付け加えるだけでコンパクト化する方法が必ず存在する(アレクサンドロフの一点コンパクト化)他、いくつかのコンパクト化の方法が知られている。実用上は X の構造を保つなど、X の性質が調べやすくなるコンパクト化の方法を選ぶ必要がある(例えば X が多様体であるときにコンパクト化 K として多様体になるものを選ぶ等)。

関連概念とその関係性

コンパクト性は位相空間論における重要概念の一つなので、コンパクト性の定義を拡張したり修正したりした概念が複数存在する。本節ではこうした概念を紹介し、それらの関係性を述べる。

可算コンパクト、点列コンパクト、擬コンパクト

これらの概念は以下のように定義される。点列コンパクトの定義は前の章ですでに述べたがが再掲している:

名称 名称(英語) 定義
可算コンパクト countably compact space Xの任意の可算開被覆は有限部分開被覆を持つ。ここでX可算開被覆とは開被覆で可算集合であるものをいう。
点列コンパクト sequentially compact space X 上の任意の点列は収束部分列を持つ事を指す。すなわち X 上の任意の点列 に対し適当な部分列 を取れば X 上のいずれかの点に収束する事を指す。点列コンパクト性の事を点列に対するボルツァーノ・ワイエルシュトラス性とも言う。
擬コンパクト pseudocompact Xから実数体への連続関数 f が必ず有界となる

これらの概念は以下の関係性を満たす:

定理 ― コンパクト⇒点列コンパクト⇒可算コンパクト⇒擬コンパクト[15]

擬距離化可能な空間ではこれら4つの概念は同値である:

定理 (擬距離化可能空間における同値性) ― を位相空間とする。 Xが擬距離化可能空間であれば、コンパクト、可算コンパクト、点列コンパクト、擬コンパクトは同値[16]

Xが擬距離化可能とは限らない場合はこれらは同値とは限らないが、以下のような関係を満たす:

定理 ― を位相空間とする。

  • Xが第一可算公理を満せば、Xの点列コンパクト性と可算コンパクト性は同値[17]
  • Xがパラコンパクト(後述)で擬コンパクトならコンパクト[18]

局所コンパクト、σ-コンパクト、リンデレーフ、パラコンパクト、メタコンパクト

これらは以下のように定義される:

名称 名称(英語) 定義
局所コンパクト locally compact Xの任意の点がコンパクトな近傍を持つ事。
σ-コンパクト(しぐま-) σ-compact space Xは可算個のコンパクト集合の和集合として書ける
リンデレーフ Lindelöf space X の任意の開被覆は可算部分被覆を持つ
パラコンパクト paracompact Xはハウスドルフであり、Xの任意の開被覆は局所有限な細分を持つ[19]。ここで X の被覆が被覆細分(: refinement)であるとは、の任意の元Tに対しての元Sが存在してTSを満たす事を言う[20]。またX の被覆局所有限(: locally finite)であるとは、任意のxXに対し、xの近傍Nが存在し、となるが有限個しかない事を指す[20]
メタコンパクト metacompact X の任意の開被覆はpoint finiteな細分を持つ。ここで被覆point finiteであるとは任意のxXに対し、xTとなるが有限個である事を言う[21]

σ-コンパクトの定義に関して留意点を述べる。σ-コンパクトは局所コンパクトと違い、コンパクトな近傍(すなわち内点を持つ集合)である事を要求されていない。これが原因でσ-コンパクトであっても局所コンパクトではない事があり得る。例えば有理数の集合は一点集合(これはコンパクトである)の可算和で書けるのでσ-コンパクトだが、の各点のいかなる近傍も距離空間として完備でないのでコンパクトではなく、よっては局所コンパクトではない。

関係性

以上の概念は以下の関係性を満たす:

定理 (各種概念の関係性) ― を位相空間とする。

  • X第二可算公理を満たせばリンデレーフ[22]
  • Xが距離化可能空間であれば、リンデレーフ性と第二可算公理と可分性は同値[23]
  • Xがσコンパクトかつ局所コンパクトならパラコンパクトである[24]
  • Xがσ-コンパクトならリンデレーフ空間[25]
  • X正則リンデレーフ空間であればパラコンパクト[25]
  • Xが擬距離化可能ならパラコンパクト[19]
  • XがメタコンパクトなT1空間であれば、可算コンパクト性とコンパクト性は同値[26]

パラコンパクト

以上で述べた概念の中で重要なものの一つにパラコンパクトがある。本節ではパラコンパクトの性質について述べる。なおパラコンパクトの定義において我々は文献Kellyに従い、ハウスドルフ性を条件として課したが、書籍によってはハウスドルフ性を仮定していないので、注意が必要である。

パラコンパクトに関しては以下のようにも特徴づけられる。なお(ハウスドルフ性を満たす)パラコンパクトな空間は必ず正規空間になる事が知られている[19]

定理 (パラコンパクトの特徴づけ) ― を正則な位相空間とするとき、下記の条件は全て同値である[19][注 6]

  • Xはパラコンパクト
  • Xの任意の開被覆は局所有限で開な細分を持つ
  • Xの任意の開被覆は局所有限で閉な細分を持つ

ここで細分が開であるとは細分が開被覆になっている事を意味する。同様に細分が閉であるとは細分が被覆になっている事を意味する。上記の定理はパラコンパクトな空間において開被覆が単に局所有限な細分を持つだけでなく、局所有限でしかも開な細分や閉な細分を持つ事を保証している。

コンパクト性は開被覆が、(開な)部分被覆を持つ事を保証しているので、パラコンパクトな空間において開で局所有限な細分が保証される事は、コンパクト性において成り立っている議論をパラコンパクト性に拡張する際に有益である。

パラコンパクトな空間の重要な性質の一つとして、開被覆に従属する1の分割の存在が保証されるというものがある。この事実を述べるためにまず1の分割の定義、およびそれが開被覆と両立する事の定義を述べる:

定義 (1の分割) ― を位相空間とする。X上の1の分割(: partition of unity)とは(fα)αAXから[0,1]区間への連続関数

で、以下の2性質を満たすものを言う[27]

  1. 集合族は局所有限
  2. 任意のxXに対し、

なお上述の条件1に対する関連概念として関数の台(: support)

が存在するが、1の分割の定義では関数の台と違い閉包を取っていない事に注意されたい。また条件2において和を取っているが、この和は条件1より各xXに対して有限和である事が保証されているので、族(fα)αAが仮に非可算無限個の元を持っていても和は意味を持つ。

定義 (開被覆に従属する1の分割) ― を位相空間とし、Xの開被覆とし、(fα)αAXの1の分割とする。

  • 任意のαAに対し、あるτBが存在し、が成立するとき、(fα)αA従属する(: subordinate)という[27]
  • A=Bであり、任意のαA=Bに対し、が成立するとき、(fα)αA正確に従属する(: precisely subordinate)という[27]

パラコンパクトな空間は開被覆に従属する1の分割で特徴づけられる:

定理 (1の分割によるパラコンパクトの特徴づけ) ― がハウスドルフ空間であるとき、下記の条件は全て同値である[28][注 7]

  • Xはパラコンパクト
  • Xの任意の開被覆に対し、に従属する1の分割が存在する。
  • Xの任意の開被覆に対し、に正確に従属する1の分割が存在する。

脚注


注釈

  1. ^ この部分の議論はコンパクト化の概念を定義する事により、厳密化する事ができる
  2. ^ なお、閉多様体という言葉は書籍により意味の違いがあり、コンパクトな多様体を閉多様体と呼ぶものと、コンパクトで縁のない多様体を閉多様体と呼ぶものが有る
  3. ^ より厳密に言うと、有向集合(Λ,≤)と、ΛからXへの写像x : ΛXの組の事をΛを添字集合とする有向点族と呼ぶ
  4. ^ 単に「ボルツァーノ・ワイエルシュトラス性」といったとき有向点族に対するものを指すのか点列に対するものを指すのかは書籍により異なるので注意が必要である。
  5. ^ なお、任意の点列が収束部分列を持つこと(すなわち点列コンパクトである事)と集積点を持つ事とは一見同値にみえるが、Xが第一可算公理を満たさない場合は前者のほうが後者よりも一般には強い条件である。Xが第一可算公理を満たしさえすれば、点列の集積点xXの加算近傍系に属する各近傍からの元を一つずつ選ぶことでxに収束する部分列を取れるが(具体的にはとするとき、とすれば、部分列xに収束する)、Xが第一可算公理を満たさない場合はこのような手法でxに収束する部分列を作る事ができないからである。
  6. ^ #Schechter p.449ではパラコンパクト性質の条件としてハウスドルフではなくそれより弱い「preregular」を課しているが、この意味でのパラコンパクト性を満たせばハウスドルフになる事が示されているので定義は同値である
  7. ^ なお#Schechter p.449.ではハウスドルフではなくそれより弱い「preregular」(同文献p.439-440参照)をこの定理に課しているが別の注釈ですでに述べたようにパラコンパクトな空間ではpreregularならハウスドルフである

出典

  1. ^ Cambridge English Dictionary”. 2021年1月19日閲覧。
  2. ^ a b #Kelly pp.65-66.
  3. ^ a b #Schechter 7.6
  4. ^ a b c d e #Kelly pp.135-136.
  5. ^ #Schechter p.461.
  6. ^ #Kelly p.141.
  7. ^ #内田 p.146
  8. ^ #内田 pp.145-146.なお、この文献では必要性しか示されていないが、十分性に関しても以下のアイデアで示せる:Xの完備化とすると、仮定より上の点列はコーシー列を部分列に持ち、は完備なのでこのコーシー列は収束する。すなわちは点列コンパクトである。点列コンパクトは全有界かつ完備である事と同値なので、は全有界であり、したがってXも全有界である。
  9. ^ #Kelly p.198.
  10. ^ #Schechter pp.505-506.
  11. ^ #Schechter p.507
  12. ^ #Heil p.3.
  13. ^ #内田 p.95
  14. ^ #内田 p.118.
  15. ^ 「コンパクト⇒点列コンパクト」は定義より明らか。「可算コンパクト⇒擬コンパクト」は#Schechter p.468より。「点列コンパクト⇒可算コンパクト」は#Kelly p.162より可算コンパクト性は任意の点列が集積点を持つ事と同値なので。ここで点xXが点列集積点であるとは、xの任意の近傍Nに対し、となるnが無限個ある事をいう(#Kelly p.71)[注 5]
  16. ^ #Schechter p.470
  17. ^ #Kelly p.162.
  18. ^ #Schechter p.468
  19. ^ a b c d #Kelly pp.156-161.
  20. ^ a b #Kelly pp.126,128.
  21. ^ #Kelly p.171.
  22. ^ #Willard、Theorem 16.9, p. 111
  23. ^ #Willard、Theorem 16.11, p. 112
  24. ^ #松島,p. 86.
  25. ^ a b #Kelly p.172.
  26. ^ Kelly p.171.
  27. ^ a b c #Schechter p.445.
  28. ^ #Schechter p.449.





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