キヌガサタケ 分布

キヌガサタケ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/01 22:30 UTC 版)

分布

日本(全土)・中国北米オーストラリアなどに分布する[3]とされているが、近縁種との混同がしばしば生じていることから、分布域はややあいまいである。食用としての利用が盛んなことから、中国での分布はほぼ確実であり、日本でも類が分布している地域には定着して分布しているものと考えられる。

埼玉県・三重県[4]においては、本種はレッドデータリストに収録され、準絶滅危惧種としてランクづけられている。また、愛媛県においては絶滅危惧Ⅱ類[5]、千葉県では「保護を要する生物」[6]、栃木県では「要注目種」としてレッドデーターリストに加えられている。

分類学

分類位置の変遷

1798年、フランスの植物・菌学者エティエンヌ・ピエール・ヴァントナによって、スッポンタケ属の新種として記載された。その後(1809年)、著しく発達して目を引く菌網の存在によってスッポンタケ属と区別され、同じくフランス人の Desvaux によって独立したキヌガサタケ属に移され、Dictyophora indusiata の学名が長らく当てられてきた。しかし最近では、菌網を形成するかどうかは二次的な相違であり、分類学的に属を区別するほどの重要形質ではないという意見があり、再びスッポンタケ属に移されている[7]

類似種

類似種のPhallus merulinus。傘の表面が本種より滑らかであり、菌網も短い。

アカダマキヌガサタケは、幼い子実体全体を包む殻皮外層が帯褐暗赤色~暗赤紫色を呈し、菌網の網目がより粗雑なものであるが、少なくとも日本では、ながらく真のキヌガサタケと混同されていた。いっぽう、マクキヌガサタケは菌網がより短く貧弱で、竹林よりも林内地上を好み、真のキヌガサタケが少ない針葉樹林などでも見出される[8]。日本での分布は確認されていないが、外観がよく似たものとしてはPhallus merulinus が記載されており、かさの表面に発達するくぼみが真のキヌガサタケに比べて発達せず、不明瞭なしわ状をなすことで区別されている。

キヌガサタケに似て、かさの地肌・菌網・柄などがさまざまな色を帯びる種類もいくつか存在しており、日本ではウスキキヌガサタケがよく知られている。

生長のスピード

子実体の伸長が非常に速いことで有名で、つぼみの頂端が裂開し始めてから托が伸び、さらに菌網が展開するまでには数時間程度しかかからない。そのため、教育用動画の題材として用いられることがある(キヌガサタケの仲間の成長の動画)。托の伸長速度は一分間に1 - 4㎜、菌網の伸長速度は同じく1 - 3㎜に及ぶ。托の伸長は、その全長にわたって均一に進むのではなく、初めは托のなかほどで活発な伸長が起こり、次第に托の上方および下方での伸びが大きくなるとされている。さらに、托の伸長には中休みがあり、いったん伸長が鈍った時点で菌網の伸長が開始されるという[9]。ただし、これは形態形成が幼い卵状の子実体の内部ですでに完了し、それが順次に展開するものであるから、厳密な意味で成長と同一視していいかどうかは議論の余地がある。

衣川[10]によれば、じゅうぶんに伸長したキヌガサタケの托の細胞容積は、伸長開始前の細胞容積にくらべて、最大で35.9倍に増大すると報告されている。また、伸長開始前のキヌガサタケの細胞内にはグリコーゲンが検出されるが、伸長が進むにつれて減少し、かわって還元糖が増えてくるという。彼は、グリコーゲンの分解による細胞質内の溶質分子の増加が細胞質の浸透圧低下を妨げ、細胞の膨大を促進していると推定している。


  1. ^ 吉見昭一、1977年.『キノコの女王―キヌガサタケが開く (子ども科学図書館)』.大日本図書.ISBN 9784477165462
  2. ^ Tsuno, N., 1998. Spore dispersal of Dictyophora (Phallaceae)fungi by flies. Ecological Research 13: 7-15.
  3. ^ 今関六也・本郷次雄(編著).原色日本新菌類図鑑Ⅱ.保育社. ISBN 978-4586300761
  4. ^ 2005.三重県レッドデータブック2005.植物・キノコ.
  5. ^ 愛媛県県民環境部、2005.愛媛県の絶滅のおそれのある野生生物 愛媛県レッドデータブック.松山市.
  6. ^ 千葉県、2009.千葉県の保護上重要な野生生物 -千葉県レッドデータブック- 植物・菌類編(2009年改訂版)
  7. ^ Sarasini M.、2005. Gasteromiceti epigei. Vicenza: Fondazione Centro Studi Micologici.
  8. ^ 糟谷大河・竹橋誠司・山上公人, 2007.日本から再発見された3種のスッポンタケ属菌.日本菌学会会報48: 44-56.
  9. ^ 衣川堅二郎、1961. キヌガサタケ子実体の生長について I. 生長曲線. 日本菌学会会報2 (5):94-98.
  10. ^ 衣川堅二郎、1965. On the growth of Dictyophora iudusiata II.Relations between the change in in osmotic value of expressed sap and the conversion of Glycogen to reducing sugar it tissues during Recectaculum elongation(キヌガサタケ子実体の生長について 2.托の伸長中におこる細胞搾汁の浸透価の変化とグリコーゲン分解との関係).植物学雑誌 78:171-176.
  11. ^ Hu D., 2004 (PDF). Mushroom industries in China "small mushroom & big business" (Report). Wageningen, Netherlands: Wageningen University and Research Centre, Agricultural Economics Research Institute, LEI BV. http://www.lei.dlo.nl/leichina/files/d50cde8fcbc78dc42a68700b96b10ee0.pdf.
  12. ^ Yang QY, Jong SC. (1987). "Artificial cultivation of the veiled lady mushroom, Dictyophora indusiata". In Wuest PJ, Royse DJ, Beelman RB. (eds.). Developments in Crop Science: Cultivating Edible Fungi. 10. International Symposium on Scientific and Technical Aspects of Cultivating Edible Fungi, University Park, PA (USA). Amsterdam, The Netherlands: Elsevier Science Publishers B.V.. pp. 437-42. ISBN 0-444-42747-3.
  13. ^ Zhou、F. L., and C. S. Qia, 1989. "Initial research on the rapid cultivation of Dictyophora indusiata" (キヌガサタケの効率的栽培に関する基礎的研究:中国語). Zhongguo Shiyongjun(中国食用菌)(1): 17-18.
  14. ^ 大久保秀樹、2008.姶良町牟田山地区産キヌガサタケの発生条件と菌糸特性.九州森林研究61:158-160.
  15. ^ “珍キノコ、珍しい人工栽培に成功 フカヒレ並の高級品”. 朝日新聞. (2018年8月13日). https://www.asahi.com/articles/ASL834QQVL83OHGB008.html?iref=pc_ss_date=2018年8月13日 


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