オオカミの再導入 中央ヨーロッパと西ヨーロッパ

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オオカミの再導入

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/02 01:33 UTC 版)

中央ヨーロッパと西ヨーロッパ

オオカミが絶滅したと考えられるいくつかの地域で、再導入が検討されている。デンマーク[注釈 2]ドイツイタリア、およびスコットランドなどのヨーロッパ各国の非政府組織[9]、田舎の森林地帯に再導入することを提唱している。提案者達は「再導入は観光や生物多様性に利益がある」と主張するが、一方で再導入による家畜の損失を恐れる意見がある。いくつかの国では非政府組織から、アメリカ合衆国で実施されているのと同様の補償が提案されている[10]

日本

日本ではエゾオオカミニホンオオカミが生息していたが、両種とも明治時代に絶滅した。他方で、昭和時代末期より山間部においてはニホンジカイノシシなどによる農作物樹皮食害などの獣害が恒常的な問題となっている。

このため、主に一般社団法人日本オオカミ協会によって日本へのオオカミ再導入の必要性が訴えられている。同協会によれば、日本に再導入するオオカミは、中国などの小型のハイイロオオカミが適しているとしている[11]

オオカミ再導入によって、猟友会会員の高齢化・会員数減少が進む中で、増えすぎたシカやイノシシの個体数が抑制され、下層植生が復活、生物多様性が増加し、崩壊した生態系が復活することが期待される[11]

一方で、沖縄でのマングースのように生態系に悪影響を及ぼしたり、オオカミが家畜や人間などを襲ったりすることを懸念する声もある[12]

これについて日本オオカミ協会は、元来日本に生息していたニホンオオカミは遺伝子分析の結果大陸のハイイロオオカミと同一種であり、導入オオカミは外来種ではないとしている[12]。オオカミはもともと日本に存在した在来種で、日本の生態系に不可欠な頂点種(キーストーン種)であったため、その絶滅により日本の生態系は崩壊したのであり、オオカミ再導入は崩壊した日本の生態系を元に戻すものであって、マングースの移入(元来存在しない外来種のため移入により生態系が壊れた)とは全く逆であるとしている[12]

また、オオカミが人を襲うのは世界的に見ても極めて稀なケースであり、毎年国内で何件もの人的被害を生じるクマイノシシよりもはるかに安全であるとしている[12]。家畜被害については、補償制度を整備する必要があるとしているが、ヒツジの粗放的放牧が殆ど行われていない日本での被害は限定的であろうとしている[11]荒川弘は著作『百姓貴族』作中(4巻101ページ)で酪農家の意見としては大反対としている。

各地の動き

2011年、大分県豊後大野市が害獣駆除を目的として、オオカミの再導入を提案した[13][14]。また、知床でのオオカミ再導入を想定した研究がある[15]

世論

日本オオカミ協会は、1993年以来、全国の国民を対象にオオカミ再導入の是非についてアンケートを取っている。開始当初は賛成12.5%、反対44.8%、わからない44.8%であったが、年々賛成の割合が増える傾向にあり、最新の2019年の調査では賛成41.2%、反対14.5%、わからない43.9%となっている[16]

2023年6月、立命館大学政策科学部の桜井良准教授らの研究チームがオオカミを野山に放すことに対して意識調査を行ったところ、賛成17.1%、反対39.9%、賛成とも反対とも言えない43.3%となった[17][18]

脚注


注釈

  1. ^ 外部リンク「日本オオカミ協会」ではニホンオオカミの代わりの導入を提唱しているが、学術的には北海道において遺伝子レベルでほぼ同一のエゾオオカミの代わりとしての導入が研究されており、その賛否には両論がある[1]
  2. ^ デンマークのオオカミは19世紀に絶滅したと考えられているが、2017年に小規模な群が発見された[8]

出典

  1. ^ それに関連する論文は、知床博物館研究報告 - 米田政明「知床に再導入したオオカミを管理できるか」(知床博物館) (PDF) (参考資料)や外部リンク「Wolf Network JAPAN」了承済要約文 を参照。
  2. ^ a b c d Defenders of Wildlife (2006), "A Yellowstone Chronology."
  3. ^ アメリカ合衆国・魚類野生生物局「北ロッキー山脈オオカミの回復計画」(1987年) (PDF) (英語)
  4. ^ アメリカ合衆国・魚類野生生物局「絶滅危惧種法」(1973年) pp.34-35 第10節 例外規定(j)実験的個体群 (PDF) (英語)
  5. ^ アメリカ合衆国・魚類野生生物局 "Rocky Mountain Wolf Recovery 2009 Interagency Annual Report"(2010年)(英語)
  6. ^ "Lessons from the Wolf -- Bringing the top predator back to Yellowstone has triggered a cascade of unanticipated changes in the park's ecosystem"(2006)
  7. ^ Mexican Wolf Blue Range Reintroduction Project Statistics (PDF) (英語)
  8. ^ 19世紀初頭に絶滅したオオカミ、2世紀ぶりに発見 デンマークフランス通信社(AFP)2017年5月5日。
  9. ^ Wild wolves "good for ecosystems"
  10. ^ "Wolf Trust: understanding of wolves & natural heritage of Scottish Highlands."
  11. ^ a b c 日本オオカミ協会HP「Q&A
  12. ^ a b c d 日本オオカミ協会HP「オオカミとは
  13. ^ 有害獣駆除 オオカミにお願い 豊後大野市が輸入構想 - 西日本新聞、2010年10月29日
  14. ^ 毎日新聞 毎日jp 2011年1月15日【オオカミ:害獣除去の切り札に 大分・豊後大野市が構想】
  15. ^ 米田政明(2006)「知床に再導入したオオカミを管理できるか」知床博物館研究報告 Bulletin of the Shiretoko Museum 27:1-8
  16. ^ 日本オオカミ協会HP「第9回全国オオカミアンケート調査2016報告
  17. ^ 真生, 藤崎 (2023年10月28日). “【びっくりサイエンス】絶滅したオオカミの再導入で生態系再生 調査からみえた日本人の意識”. 産経ニュース. 2024年3月2日閲覧。
  18. ^ 生態系再生のために日本の野山にオオカミを放すべきか?1 万人を対象とした意識調査より オオカミの生態系の中での役割が認識されるとともに人々の再導入への意識はより肯定的に”. 立命館大学. 2024年3月2日閲覧。


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