エールフランス447便墜落事故
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事故原因
事故原因については、落雷の直撃を受けたのではないかという説[13]や、乱気流に入る際の速度を誤ったのではないかという説[14]、消息を絶つ直前に事故機の速度計に異常が発生していたという説[15]、エールフランスがエアバスに勧告されていた速度計の交換を行わなかったためではないかという説[16]などが浮上したが、いずれも決め手に欠けた。
事故原因の解明が進んだきっかけは2011年5月1日、仏航空機事故調査局 (BEA)が墜落現場の海底からフライトレコーダーを発見して回収したことによる[17]。フライトレコーダーを調査した結果、墜落の詳細が次第に明らかになった[18]。
事故発生前、機長は休憩中のためコクピットを離れており、コクピットにいたのは交代操縦士と副操縦士のみであった。このとき片方のピトー管が着氷し、2つの速度計が異なる値を示したため自動操縦は不可能になった。手動操縦に切り替えて機首を上げていくと、やがて対気速度が落ちて失速警報が鳴り始めた。失速した際は操縦桿を前に倒して機首を下げるのが通常の対処であるが、副操縦士は逆に操縦桿をさらに引いてエンジンをフルスロットルにしたため、機体の迎角が増加して対気速度がさらに低下した[19]。この時、2人のパイロットが失速警報について話し合った様子はなかった。失速警報が作動し高度が下がり続けている間も、速度計が正確な数値を示していないため、パイロット達は何の警報が作動しているのか分からなかった。やがて交代操縦士が副操縦士から操縦を引き継ぎ、速度を出すべく操縦桿を前に倒して機首を下げようと試みた。しかし、交代操縦士が操縦を引き継いだことは副操縦士にはうまく伝わっておらず、副操縦士は依然として下がり続ける高度を上げようと操縦桿を目一杯引いていた。一方で隣の席の交代操縦士は操縦桿を前に倒しており、2人のパイロットが正反対の操作(機首上げと機首下げ)を同時に行っていた。その結果、操作指示が相殺されて機体の姿勢を立て直すことができず、機長がコクピットに戻った時には完全な失速状態になっていた。
ボイスレコーダー(CVR)によれば、交代操縦士が「上昇しろ」と叫んだ[20]のに対し、副操縦士は「さっきからずっと操縦桿を引いている」と言っていたことが判明した[20]。副操縦士が失速状態にもかかわらず操縦桿を引き続けていることに気づいた機長は「機首を上げるな」と指示し[20]、副操縦士が操縦桿を手放したことで機首は下がり始めたが、すでに手遅れの状態となっていた。墜落のおよそ5秒前、先頃まで操縦桿を引き続けていた副操縦士は「なんてことだ、墜落するぞ、ありえない」「しかし何が起こったんだ?」と叫んだ[20][21]。機体はそのまま海面に叩きつけられた。
操縦輪式のボーイング機とは異なり、ジョイスティック方式のエアバス機では2本の操縦桿が機械的に連結されていない(タンデムしていない)ため、2人のパイロットが互いに正反対の操作をしていることを認識できなかったこと[18]や、エアバス機の迎角センサが対気速度センサに依存する仕様だった[18]ために、機体が完全に失速して対気速度が小さくなった時点で迎角センサが機能しなくなり、これにより失速警報が停止してしまったこと[18]も事故の要因になったものと考えられている。
報告書では、失速警報がたびたび鳴っていたにもかかわらず適切な操作が行われておらず、「失速状態にあることをしっかり認知していなかった」とも指摘されていた。また、副操縦士が高高度における「計器速度の誤表示」への対応と、マニュアルでの機体操作訓練を受けていなかったことも後に判明した。
第三次中間報告
2011年7月29日、BEAは事故の調査状況に関する第三次中間報告書を公開した[22]。この報告書には要約版[23]と、安全対策の勧告書[24]が添付されている。
第三次中間報告は幾つかの新事実を確立している。
- 交代操縦士と副操縦士は速度計が信頼出来ない場合の対処手順を適用しなかった
- 副操縦士が操縦桿を引き続けたので、機体は迎角が上がり急速に上昇した
- 操縦士たちは機体が最大上昇限度に到達したことに明らかに気付かなかった
- 操縦士たちは計器表示を読み取っていなかった(垂直速度や高度など)
- 失速警報は54秒間連続で鳴動していた
- 交代操縦士と副操縦士は失速警報について何ら会話しておらず、明らかに失速を認識していなかった
- 失速に伴ってバフェットが発生していた
- 失速警報は迎角の測定値が無効と看做された場合に停止する仕様であり、対気速度が一定値を下回るとそのような条件が満たされた
- その結果、操縦桿を押すと失速警報が鳴動し、操縦桿を引き戻すと警報が止まるという状況に陥り、それが失速してから何度も繰り返された。これが操縦士たちを混乱させた恐れがある
- 操縦士たちは高度が急速に落ちていることに気付いていたにもかかわらず、どの計器を信用すべきか分らなくなった。全ての値が支離滅裂に見えたかもしれない[22][要ページ番号]
最終報告
2012年7月5日、仏航空事故調査局(BEA)は、事故原因を速度計(ピトー管)の故障と操縦士の不手際が重なったこととする最終報告書を発表した[2]。
- ^ ASN.
- ^ a b 仏機墜落事故、原因は「計器故障と操縦士の不手際」最終報告AFP.BB.News(2012年7月6日)同日閲覧
- ^ 日本乗員組合連絡会議・ALPA Japan事務局 (2012年8月2日). “AF447 便の事故報告書(1)” (PDF). http://alpajapan.org/. ALPA Japan(AirLine Pilots' Association of JAPAN)/ 日本乗員組合連絡会議. 2019年2月閲覧。
- ^ 日本乗員組合連絡会議・ALPA Japan事務局 (2015年12月18日). “AF447 便の事故報告書(2)” (PDF). http://alpajapan.org/. ALPA Japan(AirLine Pilots' Association of JAPAN)/ 日本乗員組合連絡会議. 2012年8月2日閲覧。
- ^ 青木 2015, p. 98.
- ^ “回収物は「仏機の残骸ではなかった」と ブラジル空軍”. CNN. 2009年6月5日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “エールフランス機事故、男性2人の遺体など収容 事故後初”. AFPBB. (2009年6月7日)
- ^ “Air France tail section recovered”. BBC. 2009年6月15日閲覧。
- ^ “エールフランス機事故、捜索態勢を強化 原子力潜水艦を投入”. AFPBB. (2009年6月6日)
- ^ 青木 2015, p. 100.
- ^ “Remora ROV fishes out Air France black box”. CNET (2011年5月2日). 2023年6月22日閲覧。
- ^ “大西洋上の残骸はエールフランス機の一部=ブラジル国防相”. ロイター通信. (2009年6月3日) 2020年4月24日閲覧。
- ^ “航空機の軽量化が招いた落雷リスク、専門家が分析”. AFPBB. (2009年6月2日)
- ^ “事故機、適切な速度出さず?=仏紙”. 時事通信. 2009年6月5日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “エールフランス機の墜落原因、速度計の異常か 仏事故調査局”. AFPBB. (2009年6月5日) 2020年4月24日閲覧。
- ^ “エアバス社勧告の速度計交換、エールフランス怠った疑い”. 読売新聞. (2009年6月6日). オリジナルの2009年6月8日時点におけるアーカイブ。
- ^ “大西洋墜落のエールフランス機、フライトレコーダーを回収”. AFPBB. (2011年5月2日)
- ^ a b c d Henry Blodget (2012年5月1日). “FINALLY: New Details Explain Why Air France Jet Plunged Into The Atlantic”. Business Insider. 2018年8月20日閲覧。
- ^ 日本乗員組合連絡会議・ALPA Japan事務局 (2015年12月18日). “AF447 便の事故報告書(3)” (PDF). http://alpajapan.org/. ALPA Japan(AirLine Pilots' Association of JAPAN)/ 日本乗員組合連絡会議. 2012年8月2日閲覧。 “19.FD の表示を追ったか 大きな機首上げ操作は、ロール方向の操舵に注意が集中し力が入りすぎただけでは説明できない部分があります。特に失速警報が作動したのち、推力を最大(TOGA) にして、大きく機首上げ操作を行っている部分です。現在の規定ではFDR は機長席とスタンバイ計器の表示を記録するようになっており、副操縦士(右)側の表示は記録されていません。これに関してはCockpit Image Recorder が有益であるとされています。しかしコンピューターの作動を解析して右側のFD の指示を推定できました。FD は断続的に消えたり出たりしていますが、出ている時間の大半は機首上げ側を示していました。失速警報はFD には何ら反映されず、機長が操縦席に戻ったときには、連続して失速警報が作動し続けていましたが、FDはほぼ機首上げ一杯を示していました。”
- ^ a b c d “01 June 2009 - Air France 447”. Cockpit Voice Recorder Database. 2021年7月30日閲覧。
- ^ フランス航空事故調査局. “Appendix 1 CVR Transcript” (PDF) (English). 2021年7月29日閲覧。
- ^ a b BEA third 2011.
- ^ (PDF) Synthesis Note on Interim Report No. 3, BEA, (29 July 2011)
- ^ (PDF) Safety Recommendations from Interim Report No. 3, BEA, (29 July 2011)
- ^ 「Air France and Airbus charged with involuntary homicide for Rio-Paris crash in 2009」『CNN』、2022年10月10日。2023年4月18日閲覧。
- ^ 「Air France and Airbus cleared of involuntary manslaughter over 2009 crash」『theguardian』、2023年4月17日。2023年4月18日閲覧。
- ^ a b “Zeisterse in verdwenen Air France vlucht” (Dutch). rtvutrecht.nl. (2009年6月2日)
- ^ “Airbus-Absturz: Jetzt 28 Tote” (2009年6月4日). 2009年6月5日閲覧。
- ^ a b “Alexander kommer aldri tilbake på skolen” (Norwegian). Dagbladet. (2009年6月3日) 2009年6月3日閲覧。
- ^ a b “En el avión desaparecido de Air France iba una azafata argentina” (Spanish). Clarín. (2009年6月2日) 2009年6月2日閲覧。
- ^ “Flygplan försvann över Atlanten”. Dagens Nyheter. (2009年6月1日)[リンク切れ]
- ^ “The Last Resital in Rio de Janerio”. Korhan Bircan. (2009年6月6日)
- ^ “Press release N° 5”. Air France (2009年6月1日). 2009年6月5日閲覧。
- ^ “List of passengers aboard lost Air France flight”. Associated Press (2009年6月3日). 2009年6月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ Passenger List
- ^ “Riverdance star on lost airliner”. BBC. 2009年6月3日閲覧。
固有名詞の分類
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