イランの核開発問題
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核開発技術の拡散の懸念と原油価格高騰
イランが、ボイコット(経済制裁)による報復として、「イランが潜水艇を使いホルムズ海峡封鎖することにより原油の流通が途絶え、世界経済が混乱するのではないか」と懸念された。この海峡封鎖に、北朝鮮の開発した潜水艇と魚雷などが使用されるのではという観測もなされた。これらはイランの核開発技術を北朝鮮に供与した見返りとして提供されたものである可能性が指摘されている[5]。北朝鮮は2006年に核実験を行い核兵器保有を公言しているため、核兵器を供与したことが事実であればイランはNPTに違反したことになるが、NPTは平和利用のための核開発技術の供与は認めており、また核兵器供与の事実は確認されていない。
2011年後半からアメリカ、欧州連合(EU)を中心に原油の禁輸、また金融市場からの締め出しなどを打ち出し、一時的に原油高を招くなど市場は反応した。しかし、イランの最大の取引相手国である中国とインド、さらにはロシアやパキスタンなどが制裁には同調せず、イラン以外の通貨での取引や物々交換など不透明な取引を助長しているとする新たな懸念を生み、このため制裁の効果は限定的との見方もなされた[6]。
核協議の合意と制裁解除
イランの政権は、2013年の大統領選挙によって、憲法規定による任期で退任したアフマディーネジャードからハサン・ロウハーニーに交代した。
2015年7月14日、P5プラス1とイランとの間で行われていた核協議が最終合意に達し、イラン側は核開発の大幅な制限、国内軍事施設の条件付き査察を含めた内容を受け入れた[7]。イラン国内では核開発能力自体は維持したことが評価され、最高指導者のアリー・ハーメネイーも合意についてロウハーニーをねぎらったと報じられた[8]。
2016年1月16日、国際原子力機関(IAEA)はイランが核濃縮に必要な遠心分離器などを大幅に削減したことを確認したと発表[9]。これを受けてイランとP5プラス1は同日、合意の履行を宣言し、米欧諸国はイランに対する経済制裁を解除する手続きに入った[10]。
米国の合意離脱と制裁再開、イランの合意違反
2018年5月8日、米国は、イランが合意の精神に違反していると非難し、合意から正式に離脱した [11] 。
米国を除く合意の参加国とイランは合意に残留することを発表した。
2018年8月7日、米国は合意により停止していたイランへの経済制裁を再開した。
2019年5月8日、イランは合意内容の一部を履行しないことを宣言した。
2019年7月以降、イランは3.67%以上の濃度にウランを濃縮するなど、合意に違反している [12] 。
- ^ “イラン制裁解除、世界に光と影”. 『日本経済新聞』. (2016年1月18日) 2016年1月23日閲覧。
- ^ “Germany's Pivotal Role in the Iranian Nuclear Standoff – Carnegie Endowment for International Peace”. 2013年11月26日閲覧。
- ^ “ガザ支援船をイスラエル軍が強襲、10人以上死亡 トルコ強く抗議”. AFP通信. (2010年5月31日) 2012年2月17日閲覧。
- ^ “イスラエルが破壊したシリアの核施設の手掛りは平壌との電話通話量だった”. 現代コリア. (2009年11月9日) 2012年2月16日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “北朝鮮、イランに潜水艇輸出 米韓が確認”. 『朝日新聞』. (2010年6月9日) 2012年2月17日閲覧。
- ^ “中印、物々交換で原油輸入 イラン制裁回避へ自国通貨取引も”. ブルームバーグ. (2012年3月31日) 2012年4月11日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “イランと米欧など6カ国、核協議で最終合意”. 『朝日新聞』. (2015年7月14日) 2016年1月23日閲覧。
- ^ “イラン、「外交的勝利」にわく ロウハニ政権への支持も拡大”. 『産経新聞』. (2015年7月16日) 2016年1月23日閲覧。
- ^ “IAEA、イランの核設備縮小を確認 米欧は制裁解除へ”. 『日本経済新聞』. (2016年1月17日) 2016年1月23日閲覧。
- ^ “イラン制裁解除へ、米欧など6カ国 核合意履行受け”. 『日本経済新聞』. (2016年1月18日) 2016年1月23日閲覧。
- ^ “イラン核合意に関する米国大統領の発表について(外務大臣談話)”. 外務省 (2018年5月9日). 2023年5月19日閲覧。
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- ^ John Bolton: Israel will attack Iran by end of 2009 - YouTube 2009/08/06 RT
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- ^ “オバマ大統領、軍事手段も排除せず イラン核施設問題”. 『産経新聞』. (2009年9月25日)[リンク切れ]
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- ^ http://jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2009092600113
- ^ “イラン、新核施設の査察を容認 月内に次回協議”. 『産経新聞』. (2009年10月2日)[リンク切れ]
- ^ “イラン核で決議採択 施設建設停止を要求”. 『産経新聞』. (2009年11月27日)[リンク切れ]
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- ^ “サウジ、エジプトも核開発着手 イラン成功ならと首脳警告”. 47NEWS. (2010年12月3日) 2010年12月3日閲覧。
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- ^ “イラン 国産の核燃料棒装墳”. 『東京新聞』. (2012年2月15日) 2012年2月16日閲覧。
- ^ “イラン「新型遠心分離器開発」 米欧、イスラエルの反発必至”. 『産経新聞』. (2012年2月16日) 2012年2月16日閲覧。[リンク切れ]
- ^ 「イスラエル、イランが核兵器を追求していないことを認める」 IRIB, 2012年3月20日16時25分配信[リンク切れ]
- ^ ““イランと戦闘30日間続く””. NHK NewsWeb. (2012年8月16日) 2012年8月16日閲覧。[リンク切れ]
- ^ Saudi Arabia to help Israel in possible Iran attack: reportALALAM 2013年11月17日
- ^ “イラン核協議:「第1段階の措置」で合意”. 『毎日新聞』. (2013年11月24日) 2013年11月24日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “イラン外相が中国を訪問 イラン核合意の当事国歴訪スタート”. 産経ニュース. (2018年5月13日) 2018年5月28日閲覧。
- ^ “核合意5カ国に貿易保護策要求 米離脱後初協議”. 『毎日新聞』. (2018年5月26日) 2018年5月28日閲覧。
- ^ 「核合意存続へ経済支援/EU イランとの仲介組織」『読売新聞』朝刊2019年2月13日(国際面)。
- 1 イランの核開発問題とは
- 2 イランの核開発問題の概要
- 3 概要
- 4 中東の緊張
- 5 核開発技術の拡散の懸念と原油価格高騰
- 6 経緯
- 7 関連項目
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