アンナ・ボレーナ アンナ・ボレーナの概要

アンナ・ボレーナ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/29 14:59 UTC 版)

  • 原作:イッポリト・ピンデモンテの小説『エンリーコ8世、またはアンナ・ボレーナ(Enrico VIII ossia Anna Bolena )』及びアレサンドロ・ペーポリ『アンナ・ボレーナ』
  • 台本:フェリーチェ・ロマーニ

「ドニゼッティ女王三部作」(英語:the Three Donizetti Queens)と呼ばれる、テューダー朝とその女性たちを主役としたオペラ(1830年の本作品、1835年の『マリーア・ストゥアルダ』、1837年の『ロベルト・デヴリュー』)の1つである。

役柄及び上演史

役柄及び初演のキャストは、以下の表の通りである。

アンナを演じるジュディッタ・パスタ
役柄[1] 声種 初演のキャスト
イングランド王妃アンナ・ボレーナ (アン・ブーリン) ソプラノ ジュディッタ・パスタ
イングランド国王エンリーコ8世 (ヘンリー8世) バス フィリッポ・ガッリ
ジョヴァンナ・セイモー (ジェーン・シーモア), アンナの女官 メゾソプラノ エリザ・オルランディ
ロシュフォール卿 (ジョージ・ブーリン), アンナの弟[2] バス ロレンツォ・ビオンディ
リッカルド・ペルシー卿 (ヘンリー・パーシー) テノール ジョヴァンニ・バティスタ=ルビーニ
スメトン (マーク・スミートン), 王妃の楽士 コントラルト ヘンリエッテ・ラロシュ
エルヴェイ, 国王の武官 テノール アントニオ・クリッパ
宮廷人たち, 兵士たち, 猟師たち

1830年12月26日の初演は、「圧倒的な成功」であった。ドニゼッティの師であるヨハン・ジモン・マイールは、かつての弟子を「マエストロ」と呼ぶようになった[3]。また、イタリア・オペラ界においてもドニゼッティは一躍ロッシーニベッリーニと並ぶ「イタリアオペラ界における最も輝ける名前」となった[3]

初演から19世紀後半にかけての状況

1830年のイタリア初演の後、本作は1831年7月8日ロンドン王立劇場でイギリス初演され、1839年11月12日にはニューオーリンズのテアトル・ドルレアンにおいてアメリカ初演が行われている。アメリカ初演に際しては、フランス語で上演されている。1850年からヴェリズモが台頭する1881年まで、25都市で上演がされ、人気を博した[4]。しかし1881年以降、上演は稀になっていった。

1950年代まで

20世紀前半にはほとんど上演されなかった本作が頻繁に上演されるようになったのは、第二次世界大戦後のことである。1947年12月30日バルセロナリセウ大劇場の開場100周年を記念して上演された(同劇場は、1847年に本作品で開場している)。アンナはサラ・スクデッリ、セイモーをジュリエッタ・シミオナート、エンリーコ8世はチェーザレ・シエピというキャストであった。1957年4月にはスカラ座初演が行われ、アンナをマリア・カラスが演じている。この上演は、ルキノ・ヴィスコンティの演出の元で行われた。この上演に関して、カラスの伝記を記したユルゲン・ケスティングは、「この公演は、マリア・カラスのキャリアにおいてもひとつの頂点となっている。」[5]と述べている。なお、この上演は録音が残されている(後述)。1959年6月26日には米国のサンタフェ・オペラにおいて、「ほぼ1世紀以上ぶりとなる全曲ノーカット上演」[6]が行われた。

1960年代以降

1960年代以降の上演に関しては、「ドニゼッティ・ルネサンス」と称されるドニゼッティ再評価運動において上演が増加したことが特筆される。レイラ・ジェンチェルモンセラート・カバリェ、マリサ・ガラヴァニー、レナータ・スコットエディタ・グルベローヴァ、マリエラ・デヴィーアなどが、本作品の上演ないし録音に貢献している。また、アメリカのソプラノであるビヴァリー・シルズは、1970年代にニューヨーク・シティ・オペラにおいて本作を含むドニゼッティのテューダー朝三部作を取り上げ、大成功を収めた。彼女はまた、この三部作のスタジオ録音を残している。

21世紀以降

本作品は、いわゆる歌劇場の「スタンダードなレパートリー」とは言えない[7]。しかし、21世紀の今日において、特に英語圏において上演が増加し、録音もなされるようになってきている。2010年11月に、ダラス・オペラが本作品と『マリーア・ストゥアルダ』を同時に上演した。また、ミネソタ・オペラも「Three Queens」3部作の1つとして本作を上演した。ヨーロッパにおいては、2011年の春にウィーン国立歌劇場で上演された。この時は、アンナ・ネトレプコエリーナ・ガランチャがそれぞれアンナとセイモーを演じた。また、同年9月にはメトロポリタン歌劇場が2011-2012年のシーズンの開幕作品として、初めて本作を取り上げた。アンナをネトレプコ、演出はデヴィッド・マクヴィカーであった。また、イギリスマンチェスターOpera Seria UKは、2012年から2014年にかけて「テューダー・クィーンズ」(Tudor Queens)3部作として本作を取り上げる予定である。ウェールズ・ナショナル・オペラ2013年9月から11月にかけて本作を上演しており、英語圏の各地で本作品が上演され続けている。

楽曲構成[8]

第1幕
  • 1 導入:「王は来られたのか?Né venne il Re? (合唱)
  • 2 ジョヴァンナの登場:「王妃が私をお呼びになったElla di me sollecita (ジョヴァンナ)
  • 3 シェーナとロマンツァ - アンナのカヴァティーナ:「ああ、取繕わないでDeh non voler costringere (スメトン) - 「ああ、この純真な若者はCome, innocente giovane (アンナ、合唱)
  • 4 シェーナと二重唱:「余の持つすべての光はTutta in voi la luce mia (エンリーコ、ジョヴァンナ)
  • 5 シェーナとカヴァティーナ:「彼女を失ったあの日からDa quel dì che, lei perduta (ペルシー、ロシュフォール、合唱)
  • 6 シェーナと五重唱:「私は感じた、この手の上をIo sentii sulla mia mano (アンナ、エンリーコ、エンリーコ、ペルシー、ロシュフォール、合唱)
  • 7 シェーナとカヴァティーナ:「ああ、恍惚の余りAh, parea che per incanto (スメトン)
  • 8 シェーナと二重唱:「国王が君を憎んでも、私は君を今でも愛しているS'ei t'abborre, io t'amo ancora (ペルシー、アンナ)
  • 9 第1幕フィナーレ:「皆、黙っておるのか、震えているのかTace ognuno, è ognun tremante (エンリーコ、スメトン、 ペルシー、アンナ、ロシュフォール、ジョヴァンナ、合唱)
第2幕
  • 10 導入:「ああ、どこに行ってしまったのかOh, dove mai ne andarono (合唱)
  • 11 シェーナと二重唱:「神がその者の頭上にSul suo capo aggravi un Dio (アンナ、ジョヴァンナ)
  • 12 合唱、シェーナと三重唱:「どうなった?裁判官の前にEbben? Dinanzi ai giudici -「2人とも死ぬがよい、不実な者どもめAmbo morrete, o perfidi (エンリーコ、アンナ、ペルシー)
  • 13 シェーナとアリア:「このような手に負えぬ炎はPer questa fiamma indomita (ジョヴァンナと合唱)
  • 14 レチタティーヴォ、シェーナとアリア :「君は生きるのだ、私はそれを望むVivi tu, te ne scongiuro (ペルシー)
  • 15 合唱:「一体誰が直視できようChi può vederla a ciglio asciutto
  • 16 狂乱の場及び第2幕フィナーレ: 「あなたたちは、泣いているの?Piangete voi? -「あの場所に連れて行ってAl dolce guidami (アンナ) -「邪悪な夫婦よCoppia iniqua

  1. ^ 河原(2006)、目次
  2. ^ 河原(2006年)では「兄」と表記。ただし、実際のジョージ・ブーリンはアンより遅く生まれている可能性が濃厚であるため、兄ではなく弟と表記した。
  3. ^ a b Weinstock 1963, pp. 73 - 75
  4. ^ Osborne 1994, pp. 194 - 197
  5. ^ ケスティング【2003】p362 L.9~12
  6. ^ Scott 1976, p. 21
  7. ^ http://operabase.com/oplist.cgi?id=none&lang=en&is=Anna+Bolena&by=&loc=&stype=abs&sd=1&sm=1&sy=2009&etype=abs&ed=&em=&ey= Performances on operabase.com
  8. ^ 楽曲の日本語訳は、河原廣之(2006)p1~34を参照
  9. ^ Osborne 1994, pp. 194 - 197
  10. ^ Source for recording information: Recording(s) of Anna Bolena on operadis-opera-discography.org.uk


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