OCXO
別名:温度制御型水晶発振器
OCXOとは、水晶発振回路を恒温槽に挿入することにより高安定化が図られた発振器のことである。
温度制御型水晶発振器を用いれば、+/-0.1ppm以下の周波数安定度を得ることができる。
水晶恒温槽
(OCXO から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/10/10 16:57 UTC 版)
水晶恒温槽 (水晶オーブン、クリスタルオーブンとも)は、発振器の周囲温度変化による周波数変動を防ぐために、水晶振動子を一定温度に保つために使われる恒温槽。OCXO(Oven-Controlled Crystal Oscillator:恒温槽付水晶発振器)という名称でも知られる。OCXOは、水晶を用いた発振器の中では最高水準の周波数安定度を実現するものである。主に、無線機、携帯電話基地局、軍用通信機器の周波数制御や、精密な周波数測定などに使用されている。
概要
水晶振動子は精密な周波数制御のために、発振回路で広く使用されている。水晶振動子の共振周波数は、その物理的な寸法に依存する。温度が変化すると、熱膨張によって水晶に膨張や収縮が発生し、それによって発振周波数が変化する。水晶の熱膨張係数は非常に小さいものの、温度変化は依然として周波数変動の大きな要因となっている。
断熱構造の筐体に収められた水晶振動子と、1つ以上のヒーターにより、恒温槽(オーブン)を構成する。発振回路内の他の電子部品も温度変動の影響を受けやすいため、通常は回路全体がオーブン内に収められる。また、サーミスタにより温度変化を検出、ヒーターへの電力を制御し、オーブンを所定の温度に維持するような閉ループ制御回路が組み込まれている。オーブンは周囲よりも高い温度で動作するため、電源投入後動作温度に達するまでに通常はウォームアップ(予熱)期間を必要とし[1]、この期間中の発振出力は規定の周波数安定度には達していない。
恒温槽の設定温度は、水晶振動子の周波数対温度特性の曲線の傾きがゼロになる温度に選定されており、これによって周波数安定度がさらに向上する。振動子にはATカットまたはSCカット(応力補償型)のものが使用される。SCカットは温度係数がほぼゼロとなる範囲が広いため、ウォームアップ時間を短縮できる[2]。ヒーターには、抵抗発熱体の代わりにパワー・トランジスタが使われることが多く、その熱出力は電流の2乗ではなく電流に比例するため、制御ループ利得が線形化される[2]。
恒温槽の温度は75 °Cのものが多いが[3]、設定によって30 - 80 °Cの範囲で変更することもある[4]。
一般的なグレードの水晶振動子は、動作環境温度が0–70 °Cと規定されているものがほとんどだが、産業用グレードでは通常−40 - +85 °Cと規定されている[5]。
安定度
水晶恒温槽はヒーターの動作に電力が必要なため、恒温槽のない発振器よりも多くの電力を消費する。また、ヒーター、熱容量を持つ構造体、断熱材が必要となることから、物理的なサイズも大きくなる。そのため、腕時計のような電池駆動の機器や小型化が求められる用途には使用されない。しかしその一方で、水晶発振器としては最高水準の周波数安定度を実現できる。短期的な周波数安定度は、数秒間において一般的に1×10−12程度だが、長期的安定度は水晶の経年変化により、年間約1×10−8(10 ppb)程度に制限される[1]。 これ以上の安定度を実現するには、ルビジウム原子時計、セシウム原子時計、水素メーザー原子時計といった原子時計を使用する。より安価な代替案として、GPSの時刻信号を用いて水晶発振器を補正するGPS同期発振器(GPS制御発振器, GPSDO)がある。UTCとの誤差が約~30 ns以内の安定した時刻信号を生成できるGPS受信機を使用すると、GPSDOは長期間にわたり10−13レベルの安定度を維持できる。
水晶オーブンは光学分野でも使用されている。非線形光学に用いられる結晶では位相整合が温度の影響を強く受けるため、レーザー光加熱に伴う結晶の温度安定化が特に必要となる。また、結晶の動作条件を素早くチューニングすることも頻繁に行われる。こうした用途では、結晶とサーミスタを極めて密着させる必要があり、かつ双方の熱容量を可能な限り小さく抑える必要がある。結晶の破損を防ぐためには、短時間における急激な温度変化を避けなければならない。
他の周波数標準器との比較
| 種類* | 安定度** | 経年変化 / 10年 | 消費電力 | 質量 (g) |
|---|---|---|---|---|
| 水晶発振器 (XO)[6] | 10−5 to 10−4 |
10...20 ppm |
20 μW |
20 |
| 温度補償水晶発振器 (TCXO)[6] | 10−6 |
2...5 ppm |
100 μW |
50 |
| マイクロコンピューター補償水晶発振器 (MCXO)[6] | 10−8 to 10−7 |
1...3 ppm |
200 μW |
100 |
恒温槽付き水晶発振器 (OCXO)[6]
|
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|
| ルビジウム原子時計 (RbXO)[6] | 10−9 |
5 × 10−10 to 5 × 10−9 |
6...12 W |
1500...2500 |
| セシウム原子時計[6] | 10−12 to 10−11 |
10−12 to 10−11 |
25...40 W |
10000...20000 |
| GPS同期発振器[7][8] | 4 × 10−8 to 10−11 |
10−13 |
4 W |
340 |
| 電波時計 (DCF77)[9][10] | 4 × 10−13 |
— |
87 |
* サイズと価格は、水晶発振器の5 cm3未満・5ドル未満から、セシウム周波数標準器の30リットル以上・4万ドル超まで様々。
** 軍事環境下での影響および1年間の経年変化(エージング)を含む。
脚注
- 1 2 “OCXO”. Glossary. Time and Frequency Division, NIST (2008年). 2008年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年8月7日閲覧。
- 1 2 Marvin E., Frerking (1996). “Fifty years of progress in quartz crystal frequency standards”. Proc. 1996 IEEE Frequency Control Symposium. Institute of Electrical and Electronics Engineers. pp. 33–46. 2009年5月12日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2009年3月31日閲覧.
- ↑ “Temperature Controller for Crystal Oven”. freecircuitdiagram.com. Free Circuit Diagram (2009年5月2日). 2009年11月17日閲覧。
- ↑ “Oven for Nonlinear Crystals TK7”. EKSMA OPTICS. 2012年6月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年11月17日閲覧。
- ↑ “IQXO-350, -350I Commercial Oscillator”. surplectronics.com. 2012年3月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年11月18日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 “Tutorial Precision Frequency Generation Utilizing OCXO and Rubidium Atomic Standards with Applications for Commercial, Space, Military, and Challenging Environments IEEE Long Island Chapter March 18, 2004”. ieee.li. 2009年11月16日閲覧。
- ↑ “Time and Frequency - Precisely the Way You Need It”. spectruminstruments.net. 2009年11月18日閲覧。
- ↑ “GPS Time and Frequency Reference Receiver”. leapsecond.com. 2009年11月18日閲覧。
- ↑ “URSI/IEEE XXIX Convention on Radio Science, Espoo, Finland, November 1-2, 2004”. vtt.fi. 2009年11月18日閲覧。
- ↑ “ETH - IfE-Wearable Computing - Miniature pocket-worn motion sensor with DCF77 clock”. wearable.ethz.ch. 2011年7月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年11月18日閲覧。
参考文献
- Marvin E., Frerking (1996). “Fifty years of progress in quartz crystal frequency standards”. Proc. 1996 IEEE Frequency Control Symposium. Institute of Electrical and Electronics Engineers. pp. 33–46. 2009年5月12日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2009年3月31日閲覧.
外部リンク
- OCXOのページへのリンク