返校 言葉が消えた日
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/08 16:21 UTC 版)
返校 言葉が消えた日 | |
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タイトル表記 | |
繁体字 | 返校 |
簡体字 | 返校 |
英題 | Detention |
各種情報 | |
監督 | ジョン・スー |
脚本 | ジョン・スー |
原作 | 赤燭遊戲『返校』 |
製作 |
リー・リエ アイリーン・リー |
製作総指揮 | 劉宜佳 |
出演者 |
ワン・ジン ツェン・ジンホア フー・モンボー チョイ・シーワン リー・グァンイー パン・チンユー チュウ・ホンジャン |
音楽 | ルー・ルーミン |
主題歌 | 「光明之日」 |
撮影 | チョウ・イーシェン |
編集 | ライ・シュウション |
製作会社 |
影一製作所 販賣機電影 |
公開 |
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上映時間 | 102分 |
製作国 |
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言語 | 中国語(国語・台語) |
製作費 | 9300万ニュー台湾ドル |
興行収入 |
台湾:2億6000万ニュー台湾ドル[1] 香港:1161万香港ドル[2] |
『返校 言葉が消えた日』(へんこう ことばがきえたひ、繁体字中国語: 返校、英語: Detention)は、ジョン・スー監督による2019年9月20日公開の台湾映画。台湾における中国国民党政権下の白色テロ時代を題材に描いたダークミステリー[3]。原作は赤燭遊戲(Red Candle Games)が2017年に発売したゲームソフト『返校』で、ゲームを原作とする台湾映画は本作が初となる[4]。日本では2021年7月30日に公開された。
観客動員数が公開24日間で100万人を突破する大ヒットとなり[5]、同年の映画賞の金馬奨では最多12部門にノミネートされ5部門で受賞した[6]。
あらすじ
1962年、台湾は中国国民党による戒厳令下にあり、学校も軍隊のように統制されていた。そうした状況の中、翠華高校の2年男子であるウェイ・ジョンティンは反乱を計画したとして逮捕され、計画の全容を吐かせる為に過酷な拷問を受けていた。そして、ウェイは牢で眠る度に悪夢を見ていた。
一方、同校3年生の女生徒ファン・レイシンは、真夜中の無人の校舎で目を覚ました。その後ウェイと出会うが、共に用務員の幽霊に追われることになる。
ウェイは「読書会」の仲間の身を案じていた。読書会とは国民党によって閲覧禁止とされた本を密かに読み、書き写す学生組織で、創設者はチャン先生だった。数人の教師も同士だったが憲兵に逮捕され、メンバーの女教師インは隠していた禁書を安全の為に処分する。その後、チャン先生がまだ本を隠し持っていると聞いた学生たちは、憲兵がうろつく中、一人づつ順番を決めて受け取りに行く事になった。
憲兵隊の公告が貼られ荒れ果てた校舎を見て、読書会の仲間は逮捕されたとウェイは絶望するが、防空壕に隠れているかもしれないと見に行くと、途中でメンバーの学生・ウェンションが現れ、仲間の一人が裏切り密告したとウェイに告げる。しかし、ウェンションは官憲の制服を着た化け物に殺されてしまう。
ウェイとファンは防空壕で読書会のメンバーやイン先生を見つける。だがそれは幻で、イン先生はファンこそが密告者だとウェイに告げて消える。
ファンは夜の学校に来る以前の生活を思い出す。ファンとチャン先生はプラトニック・ラブの関係にあった。そして、チャン先生とイン先生の親しげな様子を見て嫉妬したファンは、イン先生が読書会と関わっている事を知り、ウェイから禁書を借りて官憲に渡したのだ。それが愛するチャン先生の逮捕に繋がる行為だったと知った時、現実世界のファンは首を吊って死んだ。しかし、ファンは悪夢の中では生きており、ウェイを助けて校門の外に出した後、崩れ落ちる校舎の中に消えていった。
牢内にいる現実世界のウェイは、刑死する直前のチャン先生から伝えられた「生き延びろ」という言葉を思い出す。生きる為に読書会について白状し釈放されたウェイは、後年、解体される直前の高校を訪れ、隠されたままだったチャン先生の禁書を取り出し、挟まれていた愛のメッセージをファンの霊に捧げた。
キャスト
- ワン・ジン - ファン・レイシン(方芮欣)
- ツェン・ジンホア - ウェイ・ジョンティン(魏仲廷)
- フー・モンボー - チャン・ミンホイ(張明暉)
- チョイ・シーワン - イン・ツイハン(殷翠涵)
- リー・グァンイー - ホアン・ウェンション(黄文雄)
- パン・チンユー - ヨウ・ションジエ(游聖傑)
- チュウ・ホンジャン - バイ教官(白國鋒)
- 雲中岳 - ウェイ・ジョンティン(魏仲廷・中年)
- 李沐 - 周欣
- 劉士民 - 高雨新
- 夏靖庭 - 方道勤
- 張本渝 - 李妙子
- 王可元 - 黄又新
スタッフ
- 監督・脚本:ジョン・スー
- 製作総指揮:劉宜佳
- プロデューサー:リー・リエ、アイリーン・リー
- 撮影:チョウ・イーシェン
- 編集:ライ・シュウション
- 音楽監修:ルー・ルーミン
製作
監督のジョン・スーは原作のゲームを発売日当日に購入して最後までプレイし、その物憂げで美しい物語に強く惹かれた。そして、周囲の映画業界の知人に作品の映画化を薦めていたところ、数か月後にプロデューサーのアイリーン・リーとリー・リエが映画化権を獲得し、スーが監督として起用されることになった[7][8]。
白色テロを扱った台湾映画は、過去にホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』(1989年)、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)、ワン・レン監督の『スーパーシチズン 超級大国民』(1994年)がある。これらが上映された時代には「話題にしてはいけない社会の空気」が存在したが、その空気が薄れた時代にどのように歴史を描くのかをスーは検討し、多くの関係者に取材するなどのフィールドワークを実施した。スーは、過去作は20年から30年ほど前の映画で若い世代にはとっつきにくい部分があることから、この作品で白色テロの時代を知ってもらいたいと語っている[9][10]。
ゲーム版では政治的なテーマに加え道教の要素が至る所で用いられているが、ゲーム版を知らない観客が情報過多で混乱しないように、映画版では政治的な面と歴史的な面に焦点を絞ることにした。その取り組みの一例として、作品内に登場する幽霊は、ゲーム版では道教の衣装をまとっているが、その衣装が何を象徴しているのかを観客に説明するのが難しかったため、姿の恐ろしさを理解しやすいよう、議論の末に軍人風の衣装に変更している[7]。
作品の撮影はほとんどがロケで行われた。舞台となる学校は1960年代に建てられ2001年に廃校となった学校(志成工商)で、教室の場面では内部を改装して撮影し、一方で改装せずそのまま撮影した場面もある[11][12]。また、ウェイ・ジョンティンが牢に入っている場面は、過去の歴史を伝える記念館の内部にあり白色テロの時代に実際に使われた牢で撮影された[11]。
公開
台湾では、2019年6月19日に予告編映像が公開され、9月20日に封切となった[13]。
香港では2019年12月5日に公開された。当初の公開予定日は10月17日だったが、その1か月ほど前に映画の公式サイトが一時的に消滅し、9月24日にサイトが復活した際に公開日を12月5日に延期することが発表された。延期の理由は公表されていないが、インターネット上では、2019年11月24日実施の香港区議会議員選挙を避けていると指摘され、香港での公開時に内容の削除や変更があるのではないかと懸念する声も上がった[14]。
中国本土では、台湾での公開前の時期には本作に関する情報をメディアが報じていたが[15]、その後、上映が禁止された[16]。なお、後述のように本作は映画賞の金馬奨で数々の賞を受賞しているが、中国本土の各種大手映画サイトでは金馬奨に関する報道が行われず、映画に関するSNSサイトの「豆瓣电影」では本作のタイトルを「XX」という文字に置き換えて紹介された[16]。
日本では当初2020年12月に公開を予定していたが、当時の新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で延期され[6]、2021年7月30日に公開された。その1週間前の7月23日には、映画版の映像とゲーム版の映像がクロスオーバーする特別動画が公開された[17]。
受賞
年 | 賞 | 部門 | 対象 | 結果 | 出典 |
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2019 | 第56回金馬奨 | 作品賞 | 『返校』 | ノミネート | [18][19] |
新人監督賞 | ジョン・スー | 受賞 | |||
主演女優賞 | ワン・ジン | ノミネート | |||
新人俳優賞 | ツェン・ジンホア | ノミネート | |||
脚色賞 | ジョン・スー、フー・カイリン, ジェン・シーゲン | 受賞 | |||
オリジナル映画歌曲賞 | 「光明之日」 | 受賞 | |||
オリジナル映画音楽賞 | ルー・ルーミン | ノミネート | |||
音響効果賞 | デニス・ツァオ、ブック・チアン | ノミネート | |||
編集賞 | シエ・マンジュー | ノミネート | |||
美術設計賞 | ワン・チーチェン | 受賞 | |||
アクション設計賞 | ジミー・ハン | ノミネート | |||
視覚効果賞 | 再現影像製作有限公司、トミ・クオ | 受賞 | |||
2020 | 第40回ポルト国際映画祭 | 審査員特別賞 | 『返校』 | 受賞 | [20] |
第39回香港電影金像奨 | アジア華語映画 | 『返校』 | ノミネート | [21] | |
2020年台北電影奨 | グランプリ | 『返校』 | 受賞 | [22][23] | |
長編劇映画賞 | 『返校』 | 受賞 | |||
監督賞 | ジョン・スー | ノミネート | |||
脚本賞 | ジョン・スー、フー・カイリン、ジェン・シーゲン | ノミネート | |||
主演男優賞 | ツェン・ジンホア | ノミネート | |||
主演女優賞 | ワン・ジン | 受賞 | |||
撮影賞 | チョウ・イーシェン | ノミネート | |||
編集賞 | シエ・マンジュー | ノミネート | |||
美術賞 | ワン・チーチェン | 受賞 | |||
デザイン賞 | シー・シャオロウ | ノミネート | |||
視覚効果賞 | 再現影像製作有限公司、トミ・クオ | 受賞 | |||
音響効果賞 | デニス・ツァオ、ブック・チアン、タン・シャンジュー | 受賞 | |||
第14回アジア・フィルム・アワード | 新人監督賞 | ジョン・スー | ノミネート | [24][25] | |
視覚効果賞 | 再現影像製作有限公司、トミ・クオ | 受賞 |
備考
- 原作のゲーム内におけるファン・レイシンの学籍番号は「5350126」だが、映画版では「493856」となっている。この数字は「台湾が1949年に敷いた戒厳令(台湾省戒厳令)が38年と56日続いた」という史実を踏まえている。また、ウェイ・ジョンティンの映画版での学籍番号「501014」は、1947年の二・二八事件後に政府打倒のための活動を行っていた鍾浩東が逮捕されて死刑判決を受け処刑された1950年10月14日を示している[26]。
- 映画内の読書会で学生たちが文章を書き写す本は、ゲーム版にも登場するラビンドラナート・タゴールの『迷い鳥たち』に加え、チャン先生が隠していた本として厨川白村の『苦悶の象徴』が使用されている。これは脚本家のフー・カイリンによるアイデアで、チャン先生は人間としての欲望と理想主義者としての夢との間で絶え間なくもがいている、と考えたことが反映されている[7]。
脚注
- ^ “全國電影票房2020年02/24-03/01統計資訊” (繁体字中国語). 國家電影中心 (2020年3月5日). 2020年6月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月29日閲覧。
- ^ “【最佳助攻?】《返校》《十年》越鬧越旺 胡慧中文革舊戲曾被禁” (繁体字中国語). 蘋果日報 (2020年7月2日). 2021年5月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月29日閲覧。
- ^ “返校 言葉が消えた日:作品情報”. 映画.com. 2024年12月6日閲覧。
- ^ “たった1本のホラーゲームが、なぜ世界を変えるに至ったのか? 『返校 -Detention-』が表現したのは、 “台湾の人々が抱える最大の恐怖”だった”. 電ファミニコゲーマー (2021年7月29日). 2024年12月6日閲覧。
- ^ “台湾ホラーゲーム原作映画「返校」台湾で大ヒット中。日本での版権はすでに購入されており、国内上映に期待かかる”. AUTOMATON. (2019年10月20日) 2020年4月20日閲覧。
- ^ a b “台湾の大ヒットゲームを映画化! “白色テロ時代”を描くダークミステリー「返校」21年7月公開”. 映画.com (2020年12月5日). 2024年12月6日閲覧。
- ^ a b c “映画『返校 言葉が消えた日』オフィシャルサイト”. 2022年1月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年12月3日閲覧。
- ^ “『返校 言葉が消えた日』ジョン・スー監督 台湾史の暗部、白色テロ時代を描いたゲームを映画化する【Director’s Interview Vol.128】 (1/5)”. CINEMORE (2021年7月29日). 2024年12月3日閲覧。
- ^ “『返校 言葉が消えた日』ジョン・スー監督 台湾史の暗部、白色テロ時代を描いたゲームを映画化する【Director’s Interview Vol.128】 (4/5)”. CINEMORE (2021年7月29日). 2024年12月3日閲覧。
- ^ “映画『返校 言葉が消えた日』ジョン・スー監督インタビュー再録”. ライター新田理恵 (2024年7月26日). 2024年12月3日閲覧。
- ^ a b “『返校 言葉が消えた日』ジョン・スー監督 台湾史の暗部、白色テロ時代を描いたゲームを映画化する【Director’s Interview Vol.128】 (3/5)”. CINEMORE (2021年7月29日). 2024年12月3日閲覧。
- ^ 郭芷瑄. “返校的陰森校園 是荒廢18年的屏東志成工商” (繁体字中国語). 2019年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年12月3日閲覧。
- ^ 李亨山 (2019年6月19日). “國片返校預告曝光 忠實還原戒嚴肅殺氛圍” (繁体字中国語). 中央通訊社. 2019年10月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月29日閲覧。
- ^ “電影返校年底香港上映 定檔12月5日” (繁体字中国語). 中央社 CNA (2019年9月24日). 2024年11月29日閲覧。
- ^ 林怡妘 (2019年8月15日). “中元节《返校》曝预告 读书会、师生恋揭露关键” (簡体字中国語). 新浪娱乐. 2019年10月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月29日閲覧。
- ^ a b 陳立妍 (2019年10月2日). “【金馬56】《返校》金馬入圍12項 中國大陸竟改名XX被消失” (繁体字中国語). 鏡週刊. 2019年10月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月29日閲覧。
- ^ “『返校 言葉が消えた日』ゲームとのコラボ映像 初解禁の“濁流”シーンも”. クランクイン! (2021年7月23日). 2024年12月3日閲覧。
- ^ “第五十六回金馬獎ノミネート発表!”. アジアンパラダイス (2019年10月1日). 2024年11月29日閲覧。
- ^ “第56回「金馬奨」、台湾映画『陽光普照』が6部門で受賞”. Taiwan Today (2019年11月25日). 2024年11月29日閲覧。
- ^ “THE AWARDS - FANTASPORTO 40 YEARS”. FANTASPORTO (2020年3月7日). 2020年7月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年8月8日閲覧。
- ^ “香港電影金像獎”. 29 May 2020時点のオリジナルよりアーカイブ。20 May 2020閲覧。
- ^ “2020 台北電影獎、『返校』が百萬元大賞と長編劇映画賞受賞!”. アジアンパラダイス (2020年7月11日). 2024年11月29日閲覧。
- ^ “第22回台北映画奨 「返校」がグランプリ、最多6部門受賞<授賞式詳報>”. フォーカス台湾 (2020年7月28日). 2024年11月29日閲覧。
- ^ “第14回アジア・フィルム・アワード”. 2020年11月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月29日閲覧。
- ^ “受賞記録”. Asian Film Awards. 2024年11月29日閲覧。
- ^ 唐千雅 (2019年9月27日). “徐漢強解開3隻半的長頸鹿密碼 《返校》王淨學號有玄機” (繁体字中国語). 鏡週刊. 2020年4月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月29日閲覧。
外部リンク
- 映画『返校 言葉が消えた日』オフィシャルサイト(アーカイブ)
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