東京ジョイポリス転落死亡事故
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/19 08:04 UTC 版)
東京ジョイポリス転落死亡事故(とうきょうジョイポリスてんらくしぼうじこ)とは、2005年(平成17年)4月18日に東京・お台場にある東京ジョイポリスで、利用客がスカイダイビングのシミュレーション機「ビバ・スカイダイビング」から転落し死亡した事故[1][2]。
搭乗する際、担当のアルバイトが責任者に相談した上で、シートベルト未着用を許可したことが主因とされる[1][2]。
概要
「ビバ・スカイダイビング」は、遊園地のフリーフォールライドのようなシートに横一列に定員6人が着座し、前面の400インチスクリーンに映し出された3DCG映像と組み合わせてスカイダイビングを擬似的に体験する遊具であり、2000年12月1日のリニューアル時に設置された[3][4]。高度960メートルからスカイダイビングする映像に合わせ、地面の送風機から強風が吹き上がるなか、7メートルの高さまで上昇したライドの座面が斜め前方60度に傾きながら緩やかに地面へ降下する所要時間3分半のアトラクションであった[2][4]。
運用上の安全装備として、
が装備され、これを併用することが運用マニュアルで指示されていた[1][注 1]。
搭乗した被害者は胴回りが肥満体型であったため腰周りのベルトの長さが足りず、搭乗する際にシートベルトを着用しなかった[1][注 2][2]。そのため、機械の作動中にシートが前傾した際、体が下方にすり抜ける形で数メートル下のタイル張りの床へ転落した[1][2]。
被害者以外にも肥満体型の乗客などシートベルトなしで利用させていた前歴があることが取材や後のヒアリング調査で判明した[5][6]。それらの事例では、足元のステップに踏ん張ることで落下を免れていた。しかし、本件の被害者は足に障害があったため、ステップに踏ん張ることができず転落したとみられている[注 3][2][4]。
ジョイポリスでは安全管理も含めた運営マニュアルが存在したが、「運用の実態に合わない」としてオープン後程なく現場社員レベルで安全軽視とも受け取られかねないローカルルールを決めて、本来のマニュアルを逸脱した運用が常態化していた事が事故後の調査およびマスコミ取材で明らかにされた[1][7][8][9][10]。また、1996年(平成8年)7月12日にオープンしてから他の遊具でも利用客や従業員が手足を挟まれるなどの怪我を負う事故が50件以上発生していたことも判明した[11][12]。
東京ジョイポリスは事故発生以降、自主休業していたが、2005年8月に該当機を撤去して営業再開した[13][14]。
不適切なマニュアル改訂
事故発生後に第三者機関を交えて設置されたセガの事故対策委員会の調査の結果、直接の原因はアトラクションの運営マニュアルの改訂に際して管理部門や開発部門の関与を義務付けるようなルールが存在しなかったことにあると指摘した[1]。
当該アトラクションの運用開始にあたり2000年に作成された運行マニュアルでは、肩からのハーネスとシートベルトの両方を装着することを“絶対運行条件”として、これを満たさない場合は運行しないものと規定しており、運行者もシートベルトが締まらない客の搭乗を全て断っていた[1]。
しかし、その後、要望があればシートベルトが締まらなくても搭乗を許容するようになった[6]。2003年に運用実態に合わせて運営マニュアルを改正し、シートベルトを締めることを原則としつつも例外を許すように規定した[1]。このようなマニュアル変更に当たっては、本社の管理部門や開発部門の合意を要するというようなルールが存在せず、運用者の判断でマニュアルを改訂できるような枠組みになっていた[1]。
調査結果を踏まえて、以下の安全対策を実施することとした[1]:
- 各種運営マニュアルの作成・改訂、および承認に関する手順を規定し、マニュアル類は本社にて承認・一元管理されるべきことがルール化された。
- アトラクションの運営にあたる社員は所定の社内教育を修了することを義務付けたことに加え、アトラクションの単独運行を行うためにはアトラクションごとに定めたアトラクション運行承認テストに合格しなければならないよう規定した。
- 東京ジョイポリスのアトラクションのうち、事故発生機である「ビバ!スカイダイビング」のほか「アクアノーバ」「かごめ唄(前編・後編)」「ミステリーウォーク」を廃止。「ハーフパイプキャニオン」「スピードボーダー」は調査結果を受けて改修。
- そのほか、全従業員を対象として身体障害者への対応を改善するための社員研修を行う、など。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d e f g h i j k 『「東京ジョイポリス事故対策委員会」報告書』「アミューズメント産業」34(9)(2005年9月号、通巻404)pp.87-90
- ^ a b c d e f 「遊具施設から転落、両足不自由の男性死亡…東京・台場」『読売新聞』読売新聞社、2005年4月18日。オリジナルの2005年4月20日時点におけるアーカイブ。2025年3月12日閲覧。
- ^ セガ、東京ジョイポリスをリニューアルオープン Ascii.jp 2000年12月1日
- ^ a b c 「お台場のアトラクションから転落 身障者死亡」『東京新聞』中日新聞東京本社、2005年4月19日。オリジナルの2005年4月20日時点におけるアーカイブ。2025年3月13日閲覧。
- ^ 「遊具転落死、男性の障害を現場責任者に伝えず」『読売新聞』読売新聞社、2005年4月19日。オリジナルの2005年4月19日時点におけるアーカイブ。2025年3月12日閲覧。
- ^ a b 「搭乗判断、現場任せ 東京ジョイポリス遊具転落死」『朝日新聞』朝日新聞社、2005年4月19日。オリジナルの2005年4月19日時点におけるアーカイブ。2025年3月12日閲覧。
- ^ 「セガ本社を家宅捜索 東京ジョイポリス遊具転落死」『朝日新聞』朝日新聞社、2005年4月21日。オリジナルの2005年4月23日時点におけるアーカイブ。2025年3月12日閲覧。
- ^ 「お台場遊具転落死 現場に別マニュアル」『東京新聞』中日新聞東京本社、2005年4月19日。オリジナルの2005年4月20日時点におけるアーカイブ。2025年3月13日閲覧。
- ^ 佐藤央明 (2011年7月4日). “アトラクション事故に見る「安全軽視の代償」死亡事故後6年、今なお客足は戻らず”. 日経ビジネス. 日経BP社. 2011年6月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年12月13日閲覧。
- ^ “アミューズメント施設の安全対策について”. セガホールディングス (2016年4月). 2016年4月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年12月13日閲覧。
- ^ “臨海副都心に「東京ジョイポリス」12日よりオープン”. PC Watch (1996年7月10日). 2012年5月7日閲覧。
- ^ 「ジョイポリス 遊具事故50件超」『東京新聞』中日新聞東京本社、2005年4月22日。オリジナルの2005年4月22日時点におけるアーカイブ。2025年3月13日閲覧。
- ^ 「ジョイポリス、今月中旬再開へ 4遊具は撤去」『朝日新聞』朝日新聞社、2005年8月3日。オリジナルの2005年8月5日時点におけるアーカイブ。2025年3月12日閲覧。
- ^ 「ジョイポリス事故のセガ、社長ら5役員を減俸処分」『読売新聞』読売新聞社、2005年8月4日。オリジナルの2005年8月6日時点におけるアーカイブ。2025年3月12日閲覧。
参考文献
- 『「東京ジョイポリス事故対策委員会」報告書』「アミューズメント産業」34(9)(2005年9月号、通巻404)pp.87-90
- アミューズメント施設の安全対策 -「東京ジョイポリス事故対策委員会」報告書- セガ企業情報サイト 2008年8月3日(PDF)
関連項目
- CAセガジョイポリス
- ジョイポリス
- エキスポランド - 2007年に乗客の遊具死亡事故が生じた。
- スピニングコースター舞姫 - 2011年に乗客の遊具死亡事故が生じた。
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