小田香とは? わかりやすく解説

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小田香

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/29 09:15 UTC 版)

小田 香(おだ かおり、1987年 - )は、日本の映像作家。主にドキュメンタリー映画の手法を使った実験的な作品の監督・製作で知られ、とくにサラエボの炭鉱を舞台とする第一長篇『鉱 ARAGANE』(2015)や、メキシコの自然と人々の関わりを描いた『セノーテ』(2020)などが高く評価されている[1][2]

経歴

小田は高校卒業まで大阪府で過ごしたのちアメリカへ留学、2011年にバージニア州のホリンズ大学英語版教養学部映画コースを修了[3]。卒業制作として自分自身と家族の関係を題材に製作した『ノイズが言うには』が、なら国際映画祭の学生部門で観客賞を受賞し注目を集める[4][5]

2013年、世界的な映画監督タル・ベーラによる若手育成プログラムの創設が発表されると、これに応募・合格し第一期生として参加。以後プログラムの拠点であるサラエボで3年間を過ごした[6]。この間にポーラ美術振興財団在外研究員として助成を受けて研究と製作を継続、2016年に同プログラムを終了して映画の博士号を取得した[6]

このプログラム参加中に製作されたのが、ボスニア・ヘルツェゴビナのブレザ炭鉱英語版を舞台とする第一長篇『鉱 ARAGANE』(2015)で、同作はトロント国際映画祭などに出品されたのち、山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞を受賞[6]。また2020年に坂本龍一黒沢清らを審査員とする大島渚賞が新設されると、その第一回受賞作品に選ばれている[2]

2017年からメキシコのユカタン半島に点在する巨大な洞窟泉「セノーテ」を舞台とする作品の構想を練り始め、現地を繰り返し訪れる。現地では自らスキューバダイビングを学び、水中撮影を行った[7]

この素材をもとにした長篇第二作『セノーテ』は、愛知芸術文化センター愛知県立美術館の製作で2019年に完成し、ロッテルダム国際映画祭などで招待上映されたのち、メキシコのFICUNAM映画祭とスペインのムルシア国際映画祭では特別賞を受賞するなど国際的に高い評価を受けた。また同作で2021年度の芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞[4]

映像作品を使ったインスタレーションなども手がけ、東根市まなびあテラス「小田香 光をうつして―映画と絵画」(山形、2020年)での絵画作品の個展に加えて[8][9]青森県立美術館との共同アートプロジェクトにも参加している(「美術館堆肥化計画」2021~2023年)[10]

2021年には、Netflixの短編ドキュメンタリーシリーズ『マイ・ラブ 6つの愛の物語』日本篇で撮影を担当[11]

2025年、「鉱 ARAGANE」「セノーテ」に続いて地下世界を題材とする「Underground」が全国公開。2023年製作『GAMA』の題材や登場人物を継承・拡大し、沖縄の鍾乳洞でつづく戦争の記憶継承の試みを、俳優(吉開菜央)を立てて撮影した[12][13]。同2025年に東京都写真美術館の「恵比寿映像祭2025」から委嘱を受けて製作した『母との記録「働く手」』では、『ノイズが言うには』『カラオケ喫茶ボサ』につづいて再び自身の母親にカメラを向けている[14]

手法・評価

小田は作品の多くで、簡易な機材を使って自ら撮影・編集するスタイルをとっており、『セノーテ』では水中撮影に iPhone 7、地上のインタビューなどでは8ミリカメラを使っている[7]

またしばしばフィクションドキュメンタリーの境界があいまいになる瞬間を意識的に作品へ取り込むことでも知られ、『ノイズが言うには』では自ら画面に登場して小田自身と家族のかかわりにカメラを向けながら、そこに事前の創作にもとづく劇映画のような部分とドキュメンタリー的な部分をあえて混在させている[15]。こうした制作姿勢は被写体に対するカメラがもつ「暴力性」や[16]、映像における虚実の関係についての現代的なアプローチと受けとめられている[17][18]

小田の作品は早くから海外で注目を集めた。英国映画協会は『ノイズが言うには』を原一男市川崑の作品とならぶ「現代日本の傑作ドキュメンタリー10本」のひとつとして挙げ、同作が「自分自身を主題とする《セルフ・ドキュメンタリー》という日本映画の伝統を、知的かつ実験的に再構築している」と指摘した[17]。また評論家の蓮實重彦は『鉱 ARAGANE』を取りあげて絶賛、「驚くべきショットが随所に挿入」「こんな監督が日本にいていいのかと思うほど」などと評している[19]

受賞

監督作品

公開年 邦題 英語題名 長さ(分)
2010 〈邦題なし〉 Anywhere But Here 8
2010 ノイズが言うには Thus a Noise Speaks 38
2012 ひらいてつぼんで The Thread of Red Cocoons 13
2014 〈邦題なし〉 Lost in Bosnia[21] 95
2014 呼応 Ko oh (Conniving) 19
2015 フラッシュ FLASH 25
2015 鉱 ARAGANE Aragane 68
2017 色彩論 序章 Theory of Colours: prologue 6
2017 TEN 11
2017 シネ・ヌーヴォ20周年プロジェクト Cine nouveau 20th Anniversary Project 18
2017 あの優しさへ Toward a Common Tenderness 63
2018 TUNE TUNE 6
2018 風の教会 Wind Church 12
2019 Night Cruise Night Cruise 7
2019 セノーテ Cenote 75
2020 OURT CINEMAS OURT CINEMAS 4
2021 夜行列車 Night Train 10
2022 ホモ・モビリタス Homo Mobilitas 12
2022 Underground[22] Underground 9
2022 カラオケ喫茶ボサ Karaoke Cafe BOSA 13
2023 GAMA GAMA 53
2024 Underground[23] Underground 83
2025 母との記録「働く手」 Recording with Mother “Working Hands” 25

外部リンク

関連項目

出典

  1. ^ 小田香『セノーテ』初公開 | 展覧会 | 愛知県美術館”. www-art.aac.pref.aichi.jp. 2023年9月22日閲覧。
  2. ^ a b 第1回(2020)/大島渚賞|大島渚賞|PFF(ぴあフィルムフェスティバル)公式サイト”. PFF(ぴあフィルムフェスティバル)公式サイト. 2023年9月22日閲覧。
  3. ^ 小田香”. DOTPLACE. 2023年9月22日閲覧。
  4. ^ a b 小田香|Tokyo Art Research Lab”. Tokyo Art Research Lab. 2023年9月22日閲覧。
  5. ^ 小田香特集2020”. ケイズシネマ (2020年9月5日). 2023年9月22日閲覧。
  6. ^ a b c 小田香 | Kaori ODA”. fieldrain. 2023年9月22日閲覧。
  7. ^ a b 『セノーテ』小田香監督インタビュー | インタビュー|神戸映画資料館”. kobe-eiga.net. 2023年9月22日閲覧。
  8. ^ 特集 小田香「光をうつして」 | TAKENORI MIYAMOTO / Portfolio”. TAKENORI MIYAMOTO / Portfolio | (2021年5月11日). 2023年9月22日閲覧。
  9. ^ まなびあテラス. “特集 小田香 光をうつしてー映画と絵画|美術館のイベント|イベント情報|東根市公益文化施設まなびあテラス”. まなびあテラス. 2023年9月22日閲覧。
  10. ^ 美術館堆肥化計画2023 Museum Composting Project 2023”. 青森県立美術館. 2023年9月22日閲覧。
  11. ^ マイ・ラブ 6つの愛の物語〈日本編〉”. www.cinenouveau.com. 2025年3月14日閲覧。
  12. ^ 「小田香さん 日本の地下世界を撮る、集団的な記憶に触る」『日本経済新聞』2025年2月20日、夕刊、10面。
  13. ^ 小田香『Underground アンダーグラウンド』公開日は2025年3月1日に 蓮實重彦コメントも”. Real Sound|リアルサウンド 映画部 (2024年12月17日). 2025年2月22日閲覧。
  14. ^ 小田香”. 恵比寿映像祭 2025 Yebisu International Festival for Art & Alternative Visions 2025. 2025年3月14日閲覧。
  15. ^ 「タレンツ・トーキョー」〈後編〉 小田香 | Tokyo Art Navigation”. 2023年9月23日閲覧。
  16. ^ 小田 香:未知と対話し、過去と現在をつないでいく|GINZA CREATER’S FILE vol.2”. GINZA (2021年1月4日). 2023年9月23日閲覧。
  17. ^ a b 10 great Japanese documentaries” (英語). BFI. 2023年9月22日閲覧。
  18. ^ Gorham, Luke (2020年7月24日). “Japan Cuts 2020 - Dispatch 2” (英語). In Review Online. 2023年9月23日閲覧。
  19. ^ 蓮實重彦 (2020). 見るレッスン 映画史特別講義. 光文社 
  20. ^ 芸術選奨に宮本浩次さん、米津玄師さん、「鬼滅」作者ら”. 朝日新聞. 朝日新聞社 (2021年3月3日). 2025年6月29日閲覧。
  21. ^ タル・ベーラの育成プログラム参加者らによるアンソロジー作品。小田は共同監督として参加。Fradelic, Suncica; Alqudcy, Ghazi; Cole, Graeme (2014-11-30), Lost in Bosnia, https://www.imdb.com/title/tt3906638/?ref_=nm_flmg_t_5_dr 2023年9月22日閲覧。 
  22. ^ https://www.sapporo-community-plaza.jp.+“「西2丁目地下歩道映像制作プロジェクト」小田香による映像作品『Underground 』が完成!4月1日より上映を開始します。 | お知らせ”. 札幌市民交流プラザ. 2023年9月22日閲覧。
  23. ^ 『セノーテ』『鉱 ARAGANE』小田香監督最新作『Underground アンダーグラウンド』2025年2月、ユーロスペースほか全国順次公開”. underground-film.com. 2024年10月31日閲覧。



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