反多数派主義という難問
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/08 12:49 UTC 版)
反多数派主義という難問とは、立法府(または住民)によって制定された法律に対する司法審査をめぐる問題意識。語が示すとおり、多数派の意思を反映する法律を司法が無効化・撤回できる点に異議や問題を見る立場がある。
この論点は、しばしばアメリカ合衆国憲法の議論、とりわけ連邦政府の三権の権能を論じる文脈で取り上げられる。
起源
イェール・ロー・スクールの法学者アレグザンダー・ビッケル(英語版)が、1962年の著書『最も危険ではない権力』で「反多数派主義という難問」という語を作った。彼は、司法審査は選挙で選ばれた代表の立法を選挙で選ばれていない裁判官が覆しうるため正統性に欠ける、すなわち多数者の意思(多数派主義)を掘り崩すのだ、という議論を指す語として用いた。問題の出どころは、民主主義の正当性は多数の意思の実現に由来する、という理解にある。
応答
多数派主義は、民主主義を手続のみで定義できるとみなす見解に立脚している。しかし、民主主義の定義自体が争いの的である。実体的権利(英語版)は、たとえ多数決的性格を弱めるとしても、民主主義において保護されなければ真の民主主義にならない、という議論もしばしば提示される。この見方では、裁判官が憲法などで合意された実体的権利を執行する場合、裁判官は実は民主主義を前進させているのだとされる。
また政治理論家の中には、選挙で選ばれた代表が国民の意思を反映しない法律を可決してしまう場合があり、そのような場合には司法審査は民主的過程を是正する正当な手段であると論じる者もいる。
一方で、2008年、ジョン・E・ジョーンズ三世(英語版)判事(共和党系、ペンシルベニア州中部地区合衆国地方裁判所)は、合衆国憲法第3条(英語版)は「反多数派的」であるとして、次のように述べた。
ジョーンズ判事は、キッツミラー対ドーヴァー地域学区事件(英語版)の画期的判決の執筆者であり、この事件でインテリジェント・デザインは創造論の一形態であって公立学校の理科で教えることはできないとし、合衆国憲法修正第1条の国教樹立禁止条項(英語版)と、建国の父が築いた政教分離に照らして違憲と判断した。[2]
関連項目
脚注
- ^ ERIC GHOSH, Deliberative Democracy and the Countermajoritarian Difficulty: Considering Constitutional Juries, Oxford Journal of Legal Studies, Vol. 30, No. 2 (2010), pp. 327–359 doi:10.1093/ojls/gqq011.
- ^ Judge John E. Jones III, Inexorably toward Trial: Reflections on the Dover Case and the “Least Dangerous Branch,” The Humanist, January/February 2009. "The Humanist - a magazine of critical inquiry and social concern". Archived from the original on 2011-06-13. Retrieved 2010-08-29..
参考文献
- Political Ignorance and the Counter-majoritarian Difficulty: A New Perspective on the “Central Obsession” of Constitutional Law
- "The Counter-Majoritarian Difficulty", Legal Theory Blog.
- Gabriel J. Chin & Randy Wagner, The Tyranny of the Minority: Jim Crow and the Counter-Majoritarian Difficulty, 43 Harvard Civil Rights-Civil Liberties Law Review 65 (2008)
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