三島喜美代
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三島 喜美代(みしま きみよ、1932年12月10日[1] - 2024年6月19日[2])は、日本の現代美術家。新聞・チラシ等の情報や空き缶などのゴミを陶で制作した作品で知られる[2]。大阪府大阪市東淀川区(現・淀川区)出身[2]。大阪市十三と岐阜県土岐市を拠点に制作を行った[3]。
生涯
大阪市東淀川区(当時)十三で、志水喜代次ときぬ子の長女として誕生する[1]。家は酒屋を経営し、母親は喫茶店を営んでいた[4]。中学校のとき、担任が美術教師であったことから、絵を描き始める[4]。1951年、大阪市立扇町高等女学校(後の大阪市立扇町高等学校)を卒業[1]。卒業後最初の結婚をするが、1年で逃げ出す[4]。
1952年に、アトリエモンターニュ美術研究所に入所し、三島茂司(1920年 - 1985年)に学ぶ[1]。茂司は具体美術協会の吉原治良(吉原製油社長)に師事した画家だった[4]。1953年には茂司と結婚[1]。連日絵画を描き、1954年からは独立美術協会に出展する[1]。
1962年にコラージュの制作を始める[1]。外国の雑誌や新聞のほか、戦争帰りの義兄の軍隊毛布や蚊帳を使用した[1]。1970年には、シルクスクリーンで文字を陶に転写して焼成する作品制作に取り組むようになる[1]。
1986年から翌年まで、ロックフェラー財団の奨学金でニューヨークに留学し、アンソニー・カロ、ロイ・リキテンスタイン、ルイーズ・ネヴェルソンと交流する[1]。
2000年頃から、溶融スラグを用いた作品を手掛け始める[1]。
2005年に瀬戸内海の香川県直島に、高さ5mに拡大したゴミかごの野外彫刻「もう一つの再生 2005-N」を設置[1][5]。2015年に開設されたART FACTORY城南島に、作品が常設展示される[1]。
2018年に「三島茂司 三島喜美代 二人展」が東京のギャラリーMEMで開催[1]。夫婦での二人展は1963年以来の開催だった[6]。
2021年に、森美術館の「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」に選出され出展[1]。 2023年には、岐阜県現代陶芸美術館で、大規模個展開催。美術館での展覧会は初[7]。2024年に、練馬区立美術館で「三島喜美代 未来への記憶」開催。5月19日から7月7日までの会期中、6月19日に91歳で死去した[2]。
作風と主な作品

「おもろさ」を制作の動機とする[8]一方で、「やきものになった印刷物」という文章では、「氾濫する丈夫に埋没する恐怖」について述べ、自分の作品によって出来上がった空間が「現代の不安、恐怖をも含めた乾いたユーモアがあればいい」としている[9]。三島の作品は、ポップアートと対比されることもあるが、大量生産・大量消費社会を礼賛するポップアートと「恐怖」の部分では重ならないと徳山拓一は指摘している[10]。
紙のように薄く延ばした陶土に、シルクスクリーンや手書きで新聞やチラシの文字を転写した立体作品群は、「割れる印刷物」と通称されている。段ボールや飲料ボトルなど、身の回りの日常品をリアルに制作した[11]。
「Work2000‐Memory of Twentieth Century」は、ART FACTORY城南島の床に煉瓦約2万個を敷き詰めた作品で、焼物を焼く際に下に台として敷く耐火煉瓦を再利用し、1900年から2000年までの新聞記事を転写してある[12]。表に見える記事は日本語のもので、裏面には世界の言語の記事が使用されている[12]。1984年から制作に着手し、2001年には「20世紀の記憶」として個展に出品、2013年に完成した[1]。三島は制作のため、図書館でマイクロフィルムを繰りながら記事を選んだという[12][13]。
受賞
- 1974年:イタリア・ファエンツァ国際陶芸展 「Package」にて金賞[14]
- 1988年:第2回日本現代陶彫展 「Package-88-T」にて金賞[15]
- 1996年:さいたま彫刻バラエティ'96 「Newspaper97-A」にて大賞[1]
- 2001年:第19回現代日本彫刻展 「Work-2001-U」が山口県立美術館賞と市民賞を受賞[16]
- 2019年:第5回安藤忠雄文化財団賞[1]
- 2021年:令和3年度文化庁長官表彰[17]
- 2021年:日本陶磁協会賞金賞[18]
- 2022年:第11回円空大賞展円空賞[19]
- 2022年:第63回毎日芸術賞 「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」の展示で受賞[20]
脚注
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 練馬区立美術館 2024, pp. 178–183
- ^ a b c d “三島喜美代さんが91歳で死去。陶で新聞や空き缶を表現した革新的な作品で世界的評価”. Tokyo Art Beat (2024年6月27日). 2025年8月31日閲覧。
- ^ “三島喜美代”. sokyo gallery. 艸居. 2025年8月31日閲覧。
- ^ a b c d “一聞百見「ゴミばーっかり作ってます」88歳 現代美術作家・三島喜美代さん(2/3ページ)”. 産経新聞 (2021年6月11日). 2025年8月31日閲覧。
- ^ “三島喜美代”. アジアの女性アーティスト(データベース) (2021年5月24日). 2025年8月31日閲覧。
- ^ “三島茂司 三島喜美代 二人展”. MEM. 2025年8月31日閲覧。
- ^ 練馬区立美術館 2024, p. 13
- ^ 練馬区立美術館 2024, p. 9
- ^ 鈴木健二 編『現代日本の陶芸 第15巻 明日の造型をもとめて』講談社、1985年、137頁。ISBN 4061853252。
- ^ 練馬区立美術館 2024, p. 11
- ^ 練馬区立美術館 2024, p. 82
- ^ a b c 秋元 2015, pp. 92–94
- ^ 「三島喜美代 ゴミ・情報・陶をつらぬくもの」『芸術新潮』第75巻第7号、新潮社、2024年7月、88-91頁。
- ^ “一聞百見「ゴミばーっかり作ってます」88歳 現代美術作家・三島喜美代さん(3/3ページ)”. 産経新聞 (2021年6月11日). 2025年8月31日閲覧。
- ^ 「ここにあります過去の受賞作品たち」(PDF)『広報とき』第1345号、土岐市、2004年11月1日、5頁。
- ^ “第19回 現代日本彫刻展 2001”. UBE BIENNALE. 2025年8月31日閲覧。
- ^ “令和3年度文化庁長官表彰名簿”. 2025年8月31日閲覧。
- ^ “2021(令和3)年度 日本陶磁協会賞・金賞のご報告”. 公益社団法人日本陶磁協会. 2025年9月2日閲覧。
- ^ 第11回円空大賞展 - 岐阜県公式ホームページ(文化創造課)(2024年8月8日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- ^ “風間さんら6人に第63回毎日芸術賞 都内で贈呈式”. 株式会社文化通信社 (2022年2月9日). 2025年9月2日閲覧。
参考文献
- 練馬区立美術館 編『三島喜美代-未来への記憶』青幻舎、2024年。 ISBN 9784861529566。
- 「三島喜美代 遊ぶように制作をし続ける小柄な巨人」『美術手帖』第73巻第1089号、美術出版社、2021年8月、40-45頁。
- 秋元雄史「ゴミを擬態化したアート―三島喜美代『Newspaper08』『Work92‐N』『Work2000‐Memory of Twentieth Century』(アートファクトリー城南島・東京)」『日本列島「現代アート」を旅する』小学館、2015年、80-101頁。 ISBN 9784098252435。
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