マイクロ磁気学とは? わかりやすく解説

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マイクロ磁気学

(マイクロマグネティクス から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/10/07 16:47 UTC 版)

マイクロ磁気学(マイクロじきがく、マイクロマグネティクス : Micromagnetics とも)とは物理学の一分野で、サブマイクロメートルスケールの磁気的挙動の予測を取り扱う。ここで取り扱われる長さスケールは材料の原子的構造を無視できる(連続体近似)程度には大きいが、磁壁英語版や磁気渦を取り扱える程度には小さい。

マイクロ磁気学は、磁気エネルギーを最安定化することで力学的平衡英語版を、また時間依存動力学方程式を解くことにより動的挙動を扱うことができる。

歴史

物理学の一分野としてのマイクロ磁気学(すなわち、(磁性体のサブマイクロメートル領域における振る舞いを扱う分野)は1963年ウィリアム・フラー・ブラウン・ジュニア英語版が反平行磁壁構造についての論文を発表したことに始まる。比較的最近まで、計算マイクロ磁気学には計算コスト的な困難が付き纏っていたが、現在では最新型のデスクトップPCで小さめの問題なら解くことが可能になってきている。

静的マイクロ磁気学

静的マイクロ磁気学の目的は、力学的平衡における磁化 M の空間的分布を解明することである。ほとんどの場合、扱われる材料の温度キュリー温度よりもかなり低いため、磁化係数 |M| はいたるところ飽和磁化 Ms と等しい。この場合、問題は、「磁化配向ベクトル」もしくは「規格化磁化」と呼ばれる m = M/Ms により記述される、磁化の空間的配向を解明することに帰着する。

力学的平衡は、次のように表わされる磁気エネルギーを最安定化することで達成される。

マイクロ磁気配向の例。 一様状態と比べて、磁束閉鎖構造により反磁場エネルギーは低下するが交換エネルギーは上昇する。

反磁場とは磁性試料が自身に及ぼす磁場である。反磁場エネルギーは以下のように書ける。

ランダウ・リフシッツ・ギルバート方程式に表われる項:歳差(赤)、減衰(青)。点線で表わした磁化のトラジェクトリは有効磁場 Heff を一定とする単純化された仮定のもとでは螺旋を描く。

ランダウ・リフシッツ・ギルバート方程式は磁化の運動方程式である。有効磁場周りの磁化のラーモア歳差運動と、磁性系と環境との間の相互作用により生じる減衰を組み合わせた運動を記述する。この方程式のいわゆる「ギルバート形式」(もしくは陰形式)は次のように書き下される。

ここで、γ は電子の磁気回転比α はギルバート減衰定数である。

上記の形式は次の「ランダウ・リフシッツ形式」(もしくは陽形式)と等価であることを数学的に示すことができる。

応用

マイクロ磁気学と力学の組み合わせにより、超音波スピーカーや高周波磁気歪みトランスデューサーなどの磁気音響共鳴の関わる産業分野への応用が可能であり興味を集めている。この分野では上述した磁気歪み効果を取り込んだマイクロ磁気学モデルに基づくFEMシミュレーションが重要である[1]

従来の磁区と磁壁の他にも、磁気や磁気反渦状態[2]や、例えば磁化が全ての点で原点と逆もしくは原点に向いている配向やトポロジカルに等価な配向である三次元ブロッホ点[3][4]等のトポロジカルな線状・点状配向にもマイクロ磁気学は適用されている。このため、空間的にも、時間的にもナノ(さらにはピコ)スケールまで利用されている。

対応するトポロジカル量子数[4]を情報担体として応用することが、最新の、既に進行中の情報技術的計画において構想されている。

関連項目

出典

  1. ^ Miehe, Christian; Ethiraj, Gautam (2011-10-15). “A geometrically consistent incremental variational formulation for phase field models in micromagnetics”. Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering (Elsevier) 245–246: 331–347. Bibcode 2012CMAME.245..331M. doi:10.1016/j.cma.2012.03.021. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0045782512000977. 
  2. ^ Komineas, Stavros; Papanicolaou, Nikos (2007年). “Dynamics of vortex-antivortex pairs in ferromagnets”. arXiv:0712.3684v1 [cond-mat.mtrl-sci]. 
  3. ^ Thiaville, André; García, José; Dittrich, Rok; Miltat, Jacques; Schrefl, Thomas (March 2003). “Micromagnetic study of Bloch-point-mediated vortex core reversal”. Physical Review B 67 (9). Bibcode 2003PhRvB..67i4410T. doi:10.1103/PhysRevB.67.094410. 
  4. ^ a b Döring, W. (1968). “Point Singularities in Micromagnetism”. Journal of Applied Physics 39 (2): 1006. Bibcode 1968JAP....39.1006D. doi:10.1063/1.1656144. 

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